364 交渉は成立
「何を話しているんだよ」
キラキラ鎧の少年が待っていることに飽きたのか話に割り込んでくる。そんなキラキラ鎧の少年の姿を確認した通訳の犬頭が大きなため息を吐きそうになり、慌ててそれを止める。
「あー、少し、待って、待つ大事、待ってください」
通訳の犬頭が腰を低くしてキラキラ鎧の少年に頭を下げている。随分とこいつらに気を使っているんだな。これも賢者に言われているからなのか?
「充分待ったと思うけど、まだ何かあるのかよ。大事なことなんだぞ」
キラキラ鎧の少年が刀を犬頭へと突きつけている。
「もう少し、もう少しです」
通訳の犬頭は困ったように愛想笑いを浮かべながらキラキラ鎧の少年をなだめすかしている。それを見たガウスは困ったような顔で頭を掻いていた。そして、そのまま振り返る。
って、俺の方を見るなよ。
ガウスが指示待ちみたいな感じで俺の方を見ている。そんなことをしたらお前がトップじゃあないってバレてしまうだろうが。キラキラ鎧の少年も通訳の犬頭も自分たちのことに一生懸命で気付かなかったようだけど、危ないことをするなぁ。
ホント、勘弁してくれよ。
俺は前を向けと手でガウスに指示する。こっちを見るな。
「分かったよ。もう少しだけ待つから早く、これのことを聞き出してくれよ」
「分かって、ます」
通訳の犬頭がガウスの方へと向き直る。
「砂糖の供給は可能なんだな?」
「そう言っているだろ。あんたらとしても悪くない取り引きだろ?」
虎男のガウスがチンピラのように威圧している。
「確かに。先ほども言ったが騎士団の誤解は解こう。だが、騎士団を止めるには賢者様のお力が必要になる。私は一度戻らせて貰う」
「待て待て待て、これから騎士団が来るってぇのに、お前さんに消えられたら困る。やつら、次は問答無用で襲ってくるだろ、ここが滅びるぞ。砂糖がいらないのかよ」
「なるべく、急ぐつもりだ」
通訳の犬頭が困ったようにそんなことを言っている。
う、うーむ。
ここに賢者自身が来なかったのがなぁ。通訳の犬頭が賢者のところに戻っている間に騎士団に襲撃されたら終わるよなぁ。終わるかなぁ、終わるよなぁ。来ないことを祈るか? いや、でも、狭い都市の中の話だしなぁ。通訳の犬頭が賢者の説得にちょっとでも時間がかかってしまったり、賢者が様子見でもしたりしたらヤバいな。動こうと思えばすぐに来ることが出来るだろうからなぁ。
「話は終わったみたいだけどどうなった?」
「それ、東から来た。伝えた。東から来た、去った。行方分からない」
「やっぱり東から来たのか! 東方の国か。お約束だな。そいつを捕まえ損なったのは惜しいけど、分かっただけでも良しにするか。東だよな。刀があって東方の国……もしかすると醤油や米とかもあるのか。ここの飯、クソ不味いから、それがあれば少しは違うだろ。料理無双もかよ」
キラキラ鎧の少年が腕を何度も振り、ガッツポーズをとっている。
東にそんな国は無いけどな。
にしても、米に醤油ねぇ。
ますます同じ世界から来たんじゃあないかって思ってしまうな。
どうなんだ?
と、俺がそんなことを悩んでいる間に通訳の犬頭とキラキラ鎧の少年は立ち去っていた。
サクッと帰ったな。
ガウスが慌てたように俺の方へと駆け寄ってくる。
「た、大将、どうしやしょう」
このままだと騎士団がやって来る、か。
でも、そんなにすぐにやって来るかなぁ。
「ガウス、騎士団に知り合いはいないのか?」
ガウスが首を横に振る。ガウスは用心棒ってだけでこのスラムの住民でもないようだし、探求者だったからか、そこそこ顔も広いようだったけど、そうか、知り合いはいないのか。
「大将、無理っすよ。確かにあっしに騎士団の知り合いは何人かいやすぜ」
お、居るのか。
「だからって、それはそれっすよ。話を聞いて貰えるとは思いませんぜ」
あー、そうか。
そうなるのか。
まぁ、でもこのまま騎士団が来ない可能性だってあるし……。
と、俺はそう思っていたが、
騎士団はすぐにやって来た。
騎士団長を先頭とした騎士団がスラム街を取り囲んでいる。こ、こいつら、撤退した振りをして、通訳の犬頭たちが立ち去るのを待ってたな。
通訳の犬頭たちより後に現れたのは俺たちが、このスラムを捨てて逃げ去る時間でも与えたつもりだったのか?
……。
もしかするとさっきのやり取りも見張っていた可能性があるな。
砂糖の精製方法があったとしてもお構いなしか。いや、むしろ、それが無い方が良いのか?
これはやられたかもしれない。
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