363 裏取り引き
最初にやって来たのは賢者チームの方だったか。
キラキラ鎧の少年と通訳担当の犬頭が一緒にやって来る。賢者自身は来ていないようだ。
賢者は来ていないのかぁ。となると、騎士団が来た時にこの通訳の犬頭だけでは、少し不安だなぁ。賢者と領主のパワーバランスがどう動くか、だしなぁ。
にしても、この犬頭はさ、異世界の言葉を学習して憶えたんだろうけどさ、それが為に苦労しているというか、扱き使われているよなぁ。まぁ、同情しないけどさ。
んで、だ。
どうなるかな?
「この刀をどうやって手に入れたか聞いてくれ」
キラキラ鎧の少年が、手に持った刀を通訳の犬頭に突きつける。
「そんな用件で私を呼び出したのか。私も暇ではないというのに、もう少し考えて行動して欲しいものだな」
お? 通訳の犬頭、言葉が分からないと思って共通語で愚痴を言っているぞ。まぁ、子守りは大変だよな。同情しないけどさ。
「なあ、通じているよな? 大事なことなんだ。聞いてくれ」
「分かった」
通訳の犬頭が異世界人の言葉で返事を返し、スラムの方へと歩いて行く。
「ここの代表者はだれだ? 私が誰か知っているだろう? 騎士団のようにお前たちを取り締まるつもりはない。聞きたいことがある。素直に出てくれば悪いようにはしない」
通訳の犬頭がこちらを威圧しながら命令する。
「た、大将、どうしやす?」
何処か緊張した様子の虎男のガウスが俺の方を見る。
「手はず通りにやってくれ。それで上手くいく」
……はずだ。
「へ、へい」
ガウスが緊張した様子のまま頷く。
ガウスがゆっくりと通訳の犬頭とキラキラ鎧の少年の方へと歩いて行く。
「俺がここをまとめている。お偉いさんがこんな場所に何の用だ」
ガウスがちょっと肩をいからせ、いかにもという感じで睨み付けるように話す。おー、おー、凄いそれっぽいな。まぁ、ずっとここの用心棒みたいなことをしていたワケだから、こういうのは得意か。
「あれを何処で手に入れたか言え」
通訳の犬頭がガウスの方を向いたままキラキラ鎧の少年が持っている刀を指差す。ガウスの威圧が通じていないな。そりゃあそうか。ここは魔法がある世界だからなぁ。暴力を振るってきそうな怖そうな相手だろうが、それよりも魔法の方が怖いからな。それだけ通訳の犬頭は自分の魔法に自信があるのだろう。
「答えてもいいが、交換条件がある」
「お前たちがそれを言える立場だと?」
凶悪な面構えの虎男のガウスと通訳の犬頭がにらみ合う。
「交換条件と言ったが、あんたらにも悪くない取り引きになるはずだぜ」
「お前たちごときが? どうでも良い存在だからと見逃されていたことを勘違いしたか」
通訳の犬頭の周囲に氷の礫が舞い始める。この犬頭、強く出られる相手には、なんというか、凄い高圧的だなぁ。騎士団を相手にしていた時はオロオロしていたのにさ。
「俺たちは砂糖を密輸したと誤解されて騎士団に狙われている。その誤解をといてほしい」
「何を言い出すかと思えば」
通訳の犬頭がガウスの言葉を鼻で笑う。
「その武器に関係していることだぜ?」
「……続けなさい」
お? 通訳の犬頭が話を聞く気にはなったようだ。
「んだよ、何を言っている。どうなっているんだ?」
言葉の分からないキラキラ鎧の少年は、早くしろって感じで苛々しているな。言葉が分からないのは大変だなぁ。
「その武器、カタナを残していったお方がよぉ、俺たちに砂糖の作り方を教えてくれたんだよ」
「待て。それはどういう……」
「分かんねぇのか? 俺たちはここで砂糖を作ることが出来るってことだ」
通訳の犬頭は驚き、間抜けな顔で大きく口を開けている。
「それを騎士団の連中が、俺たちが砂糖を密輸したと勘違いして襲おうとしている。なんとかしちゃあくれねぇか? このままだと製法が消えるぜ?」
「な、んだと。信じられるか。まずはその製法を言え」
「言えるかよ。それにそれを教えてくれたお方がよぉ、誰かに俺たちがそれを教えれば、どうなるか分からないって言っていたからな」
「まさか、そんなことが……」
「疑うのか? 畑を見るか?」
通訳の犬頭が首を横に振る。
「その者は何処から来たのか言え」
「東から来たと言っていたな。もう居られないが……何処に旅立ったかは分からないなぁ」
「隠すと為にならないぞ」
ガウスはニヤニヤと笑い、肩を竦める。
「く、しかし、これは……。東だと? 東には魔海しかない。魔海を越えて来たとでも言うつもりか。そのようなことが……?」
通訳の犬頭が腕を組み考え込んでいる。
「で、どうだ?」
「ま、待て。分かった。騎士団の誤解は解こう」
通訳の犬頭が絞り出すようにそんなことを言っている。
どうやら第一段階は突破出来たようだ。
後は騎士団か?
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