362 準備完了だ
砂糖の元になる種芋を持ってガウスが待っている貧民窟へと戻る。
「あ、大将、お帰りなさいやせ」
俺に気付いたガウスが頭を下げる。リターンの魔法はガウスも経験しているから、これに対して改めて驚くとかはないか。
「ああ、時間も無いから急いで帰ってきたよ」
「へい。ところでそれはお土産ですか?」
ガウスが俺の手にある種芋を見てそんなことを言っている。
食べ物だとは思うのか。
確かにお土産はお土産だけどさ、これをそのまま食べられたら困るんだよなぁ。
「ガウス、ここに土はあるか? そこそこ広い、畑のような場所があればいいんだが」
「へ? へい、それならこちらに」
ガウスの案内で畑のような場所に移動する。
そこは……まぁ、ただ土がほぐされただけの酷い代物だ。まぁ、それでもここで充分か。
「すいやせん、どうしてもここを勝手に占拠しているだけのあっしらですと、この程度の場所しか……」
「いや、充分だ」
さて、と。
やることは決まっている。
種芋を土の中に埋める。ぽんぽん、とな。
後は……っと!
――[エルグロウシード]――
草魔法を発動!
埋め込んだ種芋が一気に成長し、芽を出し、葉を広げ、花を咲かせる。相変わらず魔力の消費が多い魔法だ。最初に使った時は一回で気絶するかと思ったくらいだしなぁ。今は普通に使えるけどさ。
育った芋を引き抜く。そこにはいくつもの芋が実っている。
草とは言えないような芋でも、この草魔法で成長するんだから凄いよな。
……。
この草魔法ってさ、割と不思議な魔法だよなぁ。
俺はその実った芋たちを引きちぎってさらに埋める。さあ、次だな。そういえば育った芋を種芋にするのはあまり良くないとか聞いたことがあるけど……まぁ、そんなことは草魔法の前には関係ないんだけどな。
――[エルグロウシード]――
埋め込んだ芋たちが一気に成長し、芽を出し、葉を広げ、花を咲かせる。ぐ、魔力がキツいか。いや、この程度なら問題無い。一個の種芋から数十個分くらいにはなったか?
「た、大将、こいつは……」
ガウスが驚いた顔で俺を見ている。
どうよ?
ここまで一気に成長させるのは凄いだろう?
にしても、草魔法ってあまり一般的じゃあないのか? いや、でも草属性自体は無いことはないと思うんだけどなぁ。
「これが砂糖の原料だよ」
俺は改めて育った芋を引き抜く。
「へ、それは……?」
「最初の増やす段階は自分がやったけど、これ、育てるの簡単らしいから後は自分たちで作ってください」
それと、砂糖の作り方も教えておかないとな。
「へ、へぇ」
「後はこれを砂糖にする方法ですが、切ってお湯で茹でて、絞って、そこに石灰を入れて混ぜてください。その上澄みを掬って、さらにそれを煮詰めてください。それで砂糖ぽいものにはなるはずです」
まぁ、本当はもっと色々と手間がかかるらしいけど、これでも一応、砂糖ぽいものにはなるはずだ。石灰も貝殻があるようだから、何とかなるよな? なるよな? まぁ、石灰が無くても何とかなるようだから、その時はその時で勝手に工夫して貰えば良いか。
「そ、そんな秘伝の方法が! あっしたちなんかに教えてもよろしいので?」
ガウスは驚いている。まぁ、教えた作り方だと俺の国で作っているものよりは品質が落ちるだろうから、問題なしだ。
「ああ。砂糖の出所を聞かれるだろうから、ここで作る方法を教えて貰ったと言えばいい。そうして、これからやって来る連中と交渉すればいい。あー、交渉するなら騎士団よりも賢者連中の方が良さそうだ」
今回の対応を見るに騎士団の連中は領主の配下だけあって、融通が利かなさそうなんだよなぁ。領主と直接やり取りをするならまた別なんだろうけどさ。となると、交渉するなら賢者だろう。
賢者に取り入れば上手く騎士団を牽制してくれるだろうしな。
さあて、これで準備は整った。
後は刀の言い訳か。
「それと、だ。賢者と異世界人にはこう言ってくれ。東の地から来たものからカタナという武器を受け取った。その者に砂糖の作り方も教えて貰った。何処に旅立ったか分からない。砂糖の方は作り方を誰にも教えないことを条件に伝授して貰ったものだ。それを破ればどうなるか分からない……って、感じかな」
まぁ、砂糖の作り方程度、教えてもいいんだけどさ。
「へ、へい」
これで誤魔化せるはずだ。
それに、賢者が馬鹿で無ければ、このスラム街を守ろうとしてくれるはずだ。その東の地からやって来た謎の人物の知識を欲するだろうし、今後の関係を考えて、波風を立てないようにするはずだからな。
まぁ、全てが上手くいけばだけどな。
……。
ま、まぁ、問題が起きたら、最悪、全てをひっくり返すだけだけどさ。
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