304 喰らう者

 魔石を喰らう。


 手を伸ばし、山積みとなった魔石を手当たり次第に喰らう。


 魔石に蓄えられた魔素を俺の魔力として吸収する。


 飲み込まれてはいけない。


 このまま意識を失って目覚めたら何日も経っていた、そんな状況は避けなければいけない。全てが、今までの苦労が無駄になってしまう。


 手を伸ばし魔石を掴み、喰らう。


 喰らう。


 その手が止まる。


 ぐっ。


 体中に激痛が走る。


 始まった。


 喰らった魔石が、魔素が俺の中で暴れている。俺を造り替えようとしている。


 俺はその激痛を、意識が飛びそうな痛みを、気が狂いそうな嵐を、気合いでねじ伏せる。


 よろよろと手を伸ばし、魔石を掴む。まだだ、まだ足りない。


 もっともっとだ。もっと魔力が必要だ。


 魔石を喰らう。吸収する。


 どんだけ数が多いんだよ。集めろとは言ったけど、ここまで容赦なく集めなくても良いだろうがッ!


 いや、これでも足りないかもしれないんだ。


 集めてくれたことには感謝しないと……。


 意識が飛びそうになる。


 それでも手を伸ばす。魔石を掴む。


 喰らう。


 吸収する。


 暴れる体をねじ伏せる。


 俺は俺だ。


 ここで負ければ俺は負け犬だ。一生を惨めな思いで過ごさなければならないだろう。


 ワケの分からないまま異世界に放り出され、狼に食い殺され、この体になって……新しい生を授かったのに、このまま終わって良いのか?


 こんな馬鹿げたことをやろうと思ったのは俺だ。逃げても良かったのに、やろうと思ったのは俺だ。


 なのに……、

 なのにッ!


 情けない自分で良いのか?


 俺は手を伸ばし魔石を掴む。全然、減っていない気がする。


 辛い。

 キツい。

 死にそうだ。

 痛い。

 痛い。

 体がねじ切れそうだ。

 痛い。

 頭が割れそうだ。

 体が曲がっている気がする。

 痛い。

 俺の体が……。


 俺は唇を噛みしめる。噛み切った唇から溢れる血の味が、狂いそうになる俺の意識を引き留める。


 これしきのことで……。

 これしきのことでぇッ!


 俺は考える。


 この魔石を集めて貰っている間にいくつかの情報が手に入った。この情報を持ったまま俺は過去へと戻る。


 情報は力だ。


 大きな力となって俺を助けてくれるはずだ。


 未来を知り、過去を変える。


 俺は魔石を掴むために手を伸ばす。その手が空を切る。


 俺がごちゃごちゃと悩み、考えている間に、全ての魔石を食べきったようだ。


 俺は自分のお腹を見る。普通だ。変わらない。普通に考えたら、山積みになった魔石を喰らったのだから、ぽっこりとお腹が膨らんでいてもおかしくない。


 ……。


 それだけ魔石が、魔素が、俺の体を侵食しているということか。


 全て喰らった。

 喰らいきった。


 後はねじ伏せるッ!


 もう俺は出来るはずだ。俺には出来るはずだ。


 喰らった魔石を精査し操作する。膨大な数の魔素が、因子が、俺の中で暴れている。それらを一つにまとめ、ねじ上げていく。


 因子。


 ネズミのような魔獣。甲殻を持った虫の魔獣。狼のような魔獣。翼を持った蜥蜴の魔獣。見たこともない魔獣、強そうな魔獣、弱そうな魔獣……様々な魔獣の因子が見える。


 これらの魔獣の魔石。


 様々なものが俺の中で暴れている。俺を造り替えようとしている。


 俺は俺だ。


 俺?


 俺は誰だ?


 異世界の人?


 それともこの獣の耳と尻尾をもった少女か?


 ……。


 違う。


 そう、違う。


 そうじゃあない。


 俺は俺だ。


 形なんてどうでも良い。

 容れ物なんてどうでも良い。

 俺は俺だ。


 全ての因子を俺として塗り替えていく。


 力にしていく。


 俺はタブレットを取り出す。


――[タイム]――


 時魔法を発動させる。


 出来る。


 充分な魔力を蓄えられている。


 これなら出来る。


 戻る。


 過去に戻る。


 いつへと戻るか?


 戻れるのは何処までか?


 表示には1000Y0M0Dとある。1000年前にも戻れるということだ。だよな?


 にしても、タイムの魔法を強化してから何日か過ぎているはずだが、0Mと0Dのままだ。これが変わるのはいつだ?


 いや、今、それは重要じゃあないな。


 考察をしている場合じゃあない。


 タブレットに指を這わす。


 時を操作する。


 瞬間。


 何かが変わる。


 時を越えた?


 過去か?


 俺は立ち上がり、外へ出ようとして手が止まる。目が回る。


 ヤバい。


 意識を……保てない。


 このままでは気を失う。失ってしまう。


 気を失ってしまっては過去に戻った意味が無くなってしまう。


 成功したのか?


 過去に戻れたのか?


 俺が、俺は、戻れたのなら、現状を確認しなければ……。


 プロキオンとアダーラの姿はあるのか?

 あったのならば、大陸に向かわないように言わないと……。


 同じことが繰り返されたら……戻った意味が無い。


 意識を、意識を保て……。

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