302 夢の結末
光の壁が消えた。
これで魔人族のプロキオン、獣人族のアダーラ、アダーラを運んだ天人族さん――三人の行方が分かる。
俺はさっそく、当初の予定通り、蟲人のウェイ、天人族のアヴィオールに現地へと向かって貰った。
これでウェイとアヴィオールの二人も戻ってこなかったら……俺、立ち直れないぞ。
……。
さすがに、そうなったら、俺自身が乗り込む。止められても乗り込む。天人族に頼めなくても、俺なら海に入っても大丈夫だ。船を作るか、泳いで渡るか、とにかく、だ。
その時は俺が、俺自身が向かう!
そして、俺はそんな悶々とした気持ちを抱えたまま、ウェイたちを待ち続けた。
さらに三日が過ぎ、竜化したアヴィオールの背に乗ったウェイが戻ってきた。無事だ。だが、プロキオンとアダーラの姿は無い。
「えーっと、ウェイ、どうでした?」
俺はアヴィオールの背から飛び降りた蟲人のウェイに声をかける。
「ひひひ、帝の判断を仰ぎたくて戻ってきたよ」
俺の判断?
どういうことだ?
「えーっと、それは?」
「ああ、それはだな……」
竜化していたアヴィオールが人の姿に戻り、何かを言おうとする。だが、それをウェイが止める。
「ひひひ、我が話すよ」
「えーっと、はい、お願いします」
……。
だが、ウェイは喋ろうとしない。
……。
……。
……。
「何が……二人はどうでした?」
ウェイがゆっくりと口を開く。
……。
「二人は異世界人に殺されていたよ」
え?
今、なんて言った?
ウェイはなんて言った?
「あー、えーっと、今、なんて……」
「ひひひ、帝に決めて貰いたいね。決戦を挑むことをだよ」
いや、えーっと、そうじゃあないだろう。
「そうじゃあないだろうッ!」
思わず大きな声が出る。
「ひひひ、四種族の代表が二人も討たれたんだ。ひひひ、魔人族も獣人族も収まらないよ」
「我の身内もやられているからな。このまま終わらせることは出来ん」
落ち着け。
冷静になれ。
俺は大きく息を吸い、吐き出す。
「教えてください。二人……三人が討たれたのは確実ですか?」
あの二人が誰かに負けるとか、ちょっと想像が出来ない。
ウェイたちはどうやってそれを知ったんだ? 何かそういう噂が流れているとか、そういうことじゃあないのか。
何かの間違いだろう。
「ああ、それは間違いない」
天人族のアヴィオールは間違いないと言い切る。
「どうして、そう言えるんですか? 二人が都市に入って確認したんですか? 蟲人に天人族、敵対している種族が大陸の都市に入ることなんて出来ないですよね? そういう噂話が出ているだけじゃあないんですか?」
ウェイとアヴィオールが顔を見合わせ、首を横に振る。
「帝、我らはあいつらの中に手駒を潜り込ませている。これは確かな話だ」
「ひひひ、そうだね。我の虫も同じだよ」
手駒に虫?
……。
そういえば魔人族のプロキオンは盗賊を使って襲いかかってきたことがあった。大陸の種族にも手下がいるってことか?
俺はそんなこと聞いていないぞ。
いや、聞かなかったからか。
そりゃあ、そうだよな。
敵対しているんだから、その情報は重要だ。何もしていないワケがない。
「あの二人が……負ける姿が想像出来ません」
「我もそう思うがな」
「ひひひ、これが現実だよ」
何が現実だ。
魔人族のプロキオン。
最初は俺の敵として現れた。俺が人種の遺産が扱えることを知って、俺を帝とかおだてて、この島まで連れてきて、そのくせ放置して、ほんと魔人族らしく自分勝手なヤツだよ。
獣人族のアダーラ。
獣人族を束ねている脳筋だ。戦うことしか考えていなくて、俺のことを姉さまとかふざけた呼び名で呼んで、何も考えず突っ込むことしか脳がない無鉄砲なヤツだよ。
二人とも好き勝手なことをして、それで何を勝手に……。
「わか……りました」
俺は頷き、二人を見る。
「二人にお願いがあります」
そう、お願いだ。
「ひひひ、お任せくだされ」
「ああ、任せてくれ」
俺がどうするか。
どうすれば良いか。
「二人は情報を集めてください。三人を殺した異世界人の情報を集めてください。普通に戦って二人が負けるとは思えません。だから、情報を集めてください。そして教えてください」
「何を悠長な。帝よ、ここは一気に攻め落とすべきだ。これでも帝に情報を届けるため我慢して戻ってきたのだぞ」
天人族のアヴィオールは身内が殺された怒りを我慢していたようだ。
「ひひひ、そう言うでないよ。あの二人が敗れた。情報は重要だよ」
身内に被害が出ていない分、ウェイには余裕があるようだ。
「それと魔石を、あるだけの魔石を持ってきてください」
俺も覚悟を決める必要があるようだ。
覚悟。
そう、覚悟だ。
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