301 光の防壁
いやいや、おかしいだろ。
魔人族のプロキオンと赤髪のアダーラが戻ってこなくなってから何日が経っている? プロキオンなんてアダーラの倍以上の日数で戻ってきていないよな?
最初のゴーレム用の魔石を手に入れてきた時も、そりゃあ、何日も戻ってこなかったさ。しかも、俺をこの島に放置して、だったしな。帝よ、なんて言っておきながらなんという薄情なヤツだと思ったけどさぁ、それでも戻ってきたよな?
だが、今回はどうだ?
これはおかしい。
いくら何でもおかしい。
あの時とは事情が違うよな。あの時よりも、もっと長い日数を戻ってきていないよな? しかも、だ。今回は赤髪のアダーラも、まぁ、一緒に行った天人族さんもだけど、戻ってきていない。
場所は分かっているんだよな?
えーっと、確か、大陸にある学ぶことに特化した都市だったか? 多分、学校だよな?
場所が分かっているのに?
……。
うーん、どうなっているか蟲人のウェイに聞いてみよう。
……。
……。
……。
俺は食事時に顔を合わせたウェイに聞いてみる。
「えーっと、ウェイ。二人がどうなっているかって分かりますか?」
ウェイが首を横に振る。
「え? どういうことですか?」
場所が分かっているのに二人がどうなっているか分からない? まさかアダーラに任せて完全に放置していたのか?
「ひひ、帝には正確なことが分かってからお伝えしようと思っていたのだがね」
「とりあえず教えてください」
フードを深くかぶった蟲人のウェイが頷く。
「あの赤髪の馬鹿が突っ込んだ後なんだがね、ひひひ、都市全てが光る壁に包まれて侵入できなくったんだよ」
は?
へ?
「えーっと、それって……」
「ひひひ、人種の遺産の力だろうね。だから、今はあの馬鹿を信じて静観している状況だね」
静観?
そんな状況になっているのに?
って、そうか。
これは俺のミスか。
ウェイは俺が目を覚ました時、ちゃんと異世界人が居ると忠告してくれていた。それなのに楽観視して放置しようと言ったのは、俺だ。
二人を信じて待ってみようとは言ったけど、結局、それは放置と同じだった。同じになってしまった。
……。
起きてしまったことを悔やんだり、反省したりは後でも出来る。
今はどうするか、だな。
「その光の壁を破ることは難しいですか?」
フードを深くかぶったウェイが首を横に振る。フードに隠れてその表情は見えない。最近、ちょっとは蟲人の表情も分かるようになってきたのにな。
「ひひひ、難しいね」
魔法と魔力の扱いに長けたウェイが難しい、か。
「それは自分でも、ですか?」
ウェイの動きが止まる。驚いているのかもしれない。
「ひひひ、そうだね、帝なら可能かもしれないね」
「それなら……」
「だが、お勧めしないよ。ひひひ、我らにとって帝は希望、失う訳にはいかないからね」
蟲人のウェイが俺の決断に待ったをかける。
「しかし……」
「壁を破りに行くとなれば敵対することになるからね」
ん?
「それはどういう意味ですか?」
「ひひひ、帝は大陸の種族の連中と似た姿だからね」
まぁ、この体になってすぐははじまりの町を拠点としていたくらいだしな。ハーフってことで蔑まれる存在らしいけど、それでもまぁ、暮らせないことはない。
「えーっと……」
「連中に帝のことを、その御姿を知られるのを避けたいのさ。ひひひ、帝が無理をされなくても、壁を張り続けることは不可能なはずだからね、その後、我が調べてくるよ」
ウェイが頷く。深くかぶったフードで表情は見えない。だが、もしかするとウェイは怒っているのかもしれない。赤髪のアダーラはウェイの弟子だ。プロキオンはライバルだろう。その二人が消えた。今のこの状況に一番我慢ならないのはウェイかもしれない。
「分かりました。その時はお願いします」
「ひひひ、帝、お任せを」
この件はウェイに任せた。
「えーっと、でも無理と無茶は禁物です。危なくなったら逃げてください」
優れた実力を持ったウェイに言うことじゃあないかもしれないけどさ。でも、同じような力を持ったプロキオンとアダーラが戻ってきていない。
俺だって不安になるさ。
「ひひひ、そこのそやつと一緒に行くから逃げる時は大丈夫だよ」
ウェイが素知らぬ顔でご飯を食べていた天人族のアヴィオールを指差す。
「ん? 我か? ああ、我に任せておけ」
話を聞いていたのか聞いていないのか、アヴィオールはそんなことを言っている。
アヴィオールかぁ。
獣人族の国で真っ先に撃墜されたのがアヴィオールなんだよなぁ。
今度は大丈夫か?
逆に不安だよ。
まぁ、でも任せよう。
都市を覆っている光の壁が消えれば、ウェイが情報を手に入れてきてくれる。行動するのはそれからだ。
そして、それから三日後。
都市を覆っていた光の壁が消えたとの情報が入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます