300 終焉序曲

「えーっと、魔獣の狩りに行きたいんですけど……」

 暇そうにしている天人族を掴まえてお願いしてみる。


 うーん、前回、一緒に行動した天人族さんの姿が見えないな。一度、一緒に行っているから頼みやすいと思ったんだけどなぁ。


 ……。


 もしかすると赤髪のアダーラと一緒に大陸に向かった天人族が、その人なのかもしれないな。


「帝よ、申し訳ありません。今は沢山食べられる方もいないので、当分、狩りに行く予定はありません」

 俺が話しかけた天人族さんの返答がこれだ。


 がーん、だな。

 さっそく、出端を挫かれたよ。


 というか、だ。沢山食べられる方って間違いなくアダーラのことだよな。頭の中まで筋肉が詰まってそうだから、燃費が悪そうだもんな。戦うこと、強くなること、食べることしか頭になさそうな残念な娘だったしなぁ。


 うーん、仕方ない。


 こうなったら、この島に棲息している魔獣を狩るか。でもさ、この島に棲息している魔獣って、今の俺からしたらあまり糧にならない感じなんだよなぁ。この島で強かったワイバーン種などの魔獣は天人族が粗方狩り尽くしてしまったみたいだしさ。


 ま、それでもさ、はじまりの町の周辺とかとは比べものにならないくらい強い魔獣ばかりなんだけどさ。


 まぁ、後は魔石か。


 魔石を喰らえば、かなりの量の魔素を得ることが出来る。今の俺なら殆ど全て吸収出来るし、その魔石が持っていた能力も手に入れることが出来るからな。そこだけを見れば、ガンガン魔石を吸収するべきなんだろうなぁ。


 いや、もしさ、もし、これがゲームとかだったら、俺はどんどん魔石を吸収していただろうな。簡単に強くなれる方法があるのに使わない方がどうかしているからな。


 だけどさ、これはゲームじゃあない。


 魔石の吸収にはデメリットが存在している。耐えがたいほどの激痛もそうだが、体の造り替えが行われることが問題だ。それを言えばタブレットだって同じなんだけど、タブレットは俺の補助輪らしく、あくまで俺を俺として、俺を本体として造り替える。だが、魔石を吸収した時は違う。油断すれば飲まれてしまう。

 それこそ、例えばだが、芋虫の魔石を食べたら俺は知能や姿までそれと同じ存在へと自分が造り変わってしまうかもしれない。そんなこちらを侵食してくるような危険をはらんでいる。


 俺は自分の朱く色が変わってしまった髪の一房を触る。これは運が良かっただけだ。今みたいに魔力や魔素が扱えない時にやったことだからな。俺が魔獣になっていてもおかしくなかった。

 ホント、知らなかったとはいえ、馬鹿みたいに綱渡りなことをしたよなぁ。神域にあったティアの魔石では大丈夫だったからと手を出したのが間違いだった。いや、火燐属性を手に入れたのだから、無駄ではなかったんだけどさ。


 まぁ、とにかく、だ。


 魔石を喰らうのは後回しだ。最後の最後、本当にどうしようもなくなった時くらいだな。蛸の魔石をあっさり食べておいて言うことじゃあないかもしれないけどさ。


 まぁ、アレだ。別に激痛が嫌で後回しにしているワケじゃあない。体の造り替えが危険だからだ。そう、用心しているだけだ。


 というワケで魔獣を狩りに行こう。


 あー、日課になっている草魔法での植物育成もやらないと、か。魔力のコントロールは重要だ。いや、これ、俺が小麦を育てるのを止めたら食料が足りなくなって狩りに行くようになるんじゃあないだろうか。そうすれば魔獣狩りに……。


 って、そんな理由で育てるのを止めたら駄目だな。それに、うどんや粉ものが食べられなくなるのはキツい。俺的に、非常にキツい。美味しいものが食べたいから頑張っているってぇのもあるからなぁ。


 プロキオン、これだけ帰ってくるのが遅くなっているんだから、大陸から何かまともな調味料や食材を持って帰ってこないかな。


 大陸ってさ、異世界人を召喚しているだけあって、四種族の連中よりも食事関係は充実しているからなぁ。まぁ、こっちにも異世界からやって来た料理人さんがいるから、今は負けていないけどさ。いや、むしろ勝っているか?


 ……。


 そう考えるとさ、四種族は伝統を守っていたから食文化が発展しなかったんだよな。技術や文化もそうかもしれない。それでも圧倒的な武力があったから恐れられていたワケで……。


 文化レベルは下、野蛮人レベルなのに驚異的な武力を持った隣人がいたら、恐れるのは当然か。今の四種族と大陸の種族が敵対している状況も必然だったのかなぁ。


 と、考え込んでいる場合じゃあないな。


 狩りに行こう!


 ……。




 そして、その後、俺は島で狩りを続けた。


 何日も何日も、体に魔素を蓄えるために狩りを続けた。


 だが、それでも魔人族のプロキオンと赤髪のアダーラは戻ってこなかった。

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