299 危機管理

「えーっと、プロキオンは何処に向かっていたんですか?」

「大陸にある都市とやらの一つだよ。ひひひ、なんでも学ぶことだけを目的として作られた都市らしいのだがね」

 学ぶことを? 学校みたいなものか? 都市一つが丸ごと学校って感じなのだろうか。大陸にはそんな場所があるのか。


 んで、魔人族のプロキオンはそこにゴーレムの動力となる魔石を探しに行った、と。それ、どう考えても穏便には済まない内容だよな? 盗むことになるというか、絶対、争いごとになるパターンだよな。


 ただでさえ四種族は大陸の種族から嫌われているのに、さらに不味いことになりそうな内容だよなぁ。


 んで、だ。


 これさぁ、どう考えてもプロキオンがやらかして戻ってこられなくなっているパターンじゃあないか。


「えーっと、アダーラもそこに向かったということですか?」

「ひひひ、そうさね」

 俺は天井を見て頭を抱えたくなる。


 プロキオンを心配して誰かが救出? に向かった。そこまでは良いだろう。だが、その人選が赤髪のアダーラ? 一番脳筋で何も考えず力技でなんとすることしか考えていないアダーラ?


 碌なことにならない予感しかしない。


 事態がややこしいことになっている気しかしないなぁ。


 一番駄目な人選だろう。


 ……。


 二人の心配?


 それはもちろん無い。だってさ、誰かがあの二人をなんとか出来るとは思えないからな。この世界は広いから、そりゃあ、恐ろしい化け物みたいな強さを持った奴らも居るだろうさ。でもさ、それでもあの二人なら何とかしてしまいそうな気がするんだよなぁ。


「えーっと、心配するだけ無駄では?」

 俺の言葉に蟲人のウェイが首を横に振る。


 ん?


「帝よ、そこには異世界人も居るんだよ」


 俺はウェイの言葉に一瞬だけ固まる。


 へ?


 異世界人?


「えーっと、何故?」

「ひひひ、世の法則や常識、戦い方を教えてると思うんだがね。無駄なことよ」


 マジで教育機関だったのか。


 って、でも異世界人かぁ。


 どうなんだろうなぁ。


 うーん。


 その異世界人が持っている『人種の遺産』次第ではプロキオンたちでも危ないか? いや、だからこそ、ウェイもそのことを俺に報告しに来たのか。


 ……。


 まぁ、でもさ、俺に出来ることって殆ど無いよな?


「分かりました。とりあえず、二人を信じてもう少し待ってみましょう」

「ひひひ、二人ではなく三人だがね」

 ん?


「えーっと、もう一人居るんですか? 誰でしょう?」

「赤髪が移動のために掴まえた天人族だよ」

 あ、あー!


 そういえばここって海に囲まれた島だったな。空を飛べないアダーラが大陸に向かうためには乗り物が必要になる。


 それで天人族かぁ。そのアダーラに無理矢理付き合わされた天人族さんも災難だな。


 まぁ、でもさ、さっきも言ったとおり、二人……いや、三人か。それを信じて待つしかないな。


「ま、まぁ、とにかく三人を信じて待ちましょう」

「ひひひ、分かったよ。帝が言われるなら待つかね」


 ……。


 待つ、か。そう決めたんだけどさ。ウェイは俺の判断を仰ぐためにわざわざ報告に来た。ということは何か考えがあったのかな?


「えーっと、ちなみにウェイはどうするのが良かったと思いましたか?」

「ひひひ、帝が決めたことが全てだよ」

 俺は首を横に振る。

「意見を言って欲しいです」

「ひひひ、異世界人が絡んでいることが問題だよ。それが、我に何が正解かを分からなくしているからね」


 うーん。


 ウェイとしては、もしかしたら、アダーラと同じように突っ込みたいのかもしれないなぁ。でも、向こうには異世界人が居る。何があるか分からない。だから、行動出来ないというところか。


 だから、俺が起きるのを待っていたのか。俺がどう判断するか、それで決めようと。


 ……。


 二人の実力は疑っていないけど、異世界人が絡むとなぁ。獣人国に攻め込んだ時だって、異世界人が居ると分かった瞬間、撤退を決めたくらいだしな。


 プロキオンもわざわざ、そんな場所に魔石を獲りに行かなくても良かったのになぁ。ゴーレムの魔石は壊れていなかったワケだしさ。まぁ、それでも……どちらにしても魔石が増えるのはプラスか。動かせるゴーレムが増えるワケだしな。


 でもなぁ。


 それならそれで、プロキオンが単独で行動するとかじゃあなくてさ、もっと慎重に行動するべきだよな。


 はぁ、これは数日は判断が正しかったかで悩みそうだ。


 ……。


 気分転換に魔獣狩りだな。


 強くなることも重要だし、うん、そうだ。



 とにかく!


 俺は力を付けて二人が帰ってくるのを待とう。

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