260 記憶領域

 それから何度か試して出来たのはパピルスの山だった。


「わらわが作ったものの方が良い品質になっているようじゃな」

 確かに機人の女王が作ったものは上白紙で俺が作ったのはパピルスだからなぁ。鑑定の結果も低品位と中品位だからな。まぁ、鑑定して品質を見なくても出来上がったものを見れば品質の違いは一目瞭然だ。


 矢の時と同じ、か。


 まぁ、間違いなく炉を使うことで補正されている感じなんだろうな。俺も炉を使えばそこそこのものを作ることは出来そうだけど、それも今更なぁ。


 簡易炉は機人の女王の専用になっているような感じがするし、機人の女王が使っている魔力は、元々は俺の魔力だし、すなわち、間接的に俺が作っていると言っても過言ではないし……。


 とまぁ、冗談はそれくらいにして、と。


 俺は簡易炉を補助輪みたいなものだと思っている。それに頼ると魔力操作がいつまでたっても上手くならない気がするんだよな。だからまぁ、遠回りに見えても、ちまちまと魔力操作を鍛えるだけだ。


 そして、翌朝。


「姉さま! 今日は槍の鍛錬です!」

 朝早くから赤髪のアダーラが元気に絡んでくる。端から見るとつり目の怖い不良少女にカツアゲされている子どもにしか見えないよな。もちろん、俺がカツアゲされている側だ。俺はいたいけな獣耳、尻尾付きの少女だからな、うん。


 ……。


 で、だ。


「えーっと、今からですか?」

「姉さま、もちろんです!」

 もちろんなのか。

「いや、しかし、畑の方を……」

「姉さま、昨日は鍛錬の時間を無しにしたのですから、今日は朝から鍛錬する必要があります!」

 必要があるのか。


 うーん。


 まぁ、たまには良いか。


「分かりました。えーっと、では、今日は今から槍の鍛錬を行いましょうか」

「帝よ! 何を言われるのですか、ね」

 と、そこで俺の背後から声がかかる。振り返ってみると、そこには魔人族のプロキオンが立っていた。

「えーっと、プロキオン、いつの間に?」

「今です!」

 今かぁ。


「それで、プロキオンはどうしたんですか?」

「帝よ、弓の鍛錬はどうされるつもりなのですか」

 あー、そうか。いくらもう教えて貰うことが無いといっても弓の鍛錬は行う話になっていたかぁ。そうだったな。今日一日、槍の鍛錬を行うという話になったと思ってプロキオンが絡んできたのか。そうかそうか。

「はぁ? 槍の鍛錬だけをやるに決まってるでしょ。ね、姉さま!」

「何を言っているのですか、ね。帝よ、この者に自分の立場を分からせてください」

 分からせる、か。


 うーん。


 まぁ、アレだ。


「弓は弓で鍛錬の時間を取るよ。昨日、弓の鍛錬も出来ていないワケだしさ。プロキオンはそれで良いかな?」

「分かりました。帝がそう言われるのであれば仕方ないです、ね」

「はぁ! 今日は姉さまを一日、全部、槍の鍛錬に使えると思ったのに! 何を言いやがってるのか、コイツは!」

「ほう。私にそのような態度とは良い度胸です、ね」

 アダーラが槍を持ち、プロキオンが弓を持ち対峙する。何故かプロキオンとアダーラの戦いが始まったようだ。


「ふむ。それでどうするのじゃ?」

「えーっと、とりあえず、こちらはこちらで槍の鍛錬を始めます」

 二人は無視しよう。

「まーう」

 機人の女王と羽猫を観客に槍の鍛錬を始める。


 腕に巻き付いている蕾の茨槍を槍の形状に戻してっと。


 さて、と。槍の鍛錬か。といってもなぁ。アダーラが言っているような一撃必殺みたいなことは出来そうにないんだよなぁ。なんというか、とっかかりというか、言われていることは分かるが、どうやってそうやれば良いのかが分からない状態なんだよな。


 とりあえず『二段突き』でも放ってみるか。


――《二段突き》――


 槍が二本あるかのように錯覚するような速度で突きが放たれる。


 うん、これが『二段突き』だ。


――《二段突き》――


 もう一度『二段突き』を放つ。今度は少し調整して二回目の突きの位置が変わるように動かす。っと、よし。ちょっと頑張れば動きの微調整は可能だな。


 って、あれ?


 今、何か……。


――《二段突き》――


 もう一度、連続の突きを放つ。


 うん、間違いない。


 今までは気付かなかったが、魔力の操作に習熟してきたからか分かった。これ、魔素が、魔力が動いている。


 自分の中の魔力じゃあない。周囲の魔素だ。


 自分の中の魔力を使っていないから気付かなかったのか。周囲の魔素が魔力に変換されて、俺の動きを補正している。自分の中の魔力を使って放つのが魔法で、周囲の魔素を魔力に変換して使うのがスキル、か。スキルが連続で発動出来ない理由も周囲の魔素を消費しているからか。大きな力を使うスキルだと、それだけ周囲の魔素を多く消費するから、次の発動まで時間がかかる、と。


 な……るほど。


 なるほどなぁ。


 もしかすると……いや、間違いないな。


 俺は周囲の魔素を読み取る。発動するための……これは、記憶か?


 再現?


 そうか、そういうことか。


 スキルは、再現する技だ。誰かが開発した技術? 武術の型? それをなぞるように再現するもの――それがスキル、か。


 もっと分かり易く言うと――スキルの発動によって周囲の『魔素』が反応し、魔素に封じられていた過去の記憶の情報を呼び出して、なぞらせるように体を強制的に動かすということだな。


 俺は今、それを理解した。理解出来た。これも魔素の――魔力の操作に習熟したからか。


 だが、誰が魔素に技を記憶させたんだ?


 槍なら槍の達人か? しかし、どうやって?


 誰かが技を開発したら、それが勝手に魔素へと記憶されるのか? それとも、そういった記憶を司る神でも居るのか?


 謎は深まるばかりだな。


 色々と分かってきたが、分かってきた分、謎が増えたなぁ。

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