261 奥が深い
もう少し魔素を読み取ってみよう。
今の俺なら魔力を操って漂っている魔素の奥にあるものを調べることが出来るはずだ。
魔人族のプロキオンと赤髪のアダーラの良く分からない戦いを横目に魔力を練り上げる。
……。
魔力を練り上げる、か。少し前の俺だったら、それがどういうことかも分かっていなかっただろうな。プロキオンに連れられてこの島に渡ってきて、色々な戦いと出会いを経て、俺の魔力に対する理解は一気に進んだ。
この世界を構成している元素である魔素には直接触れることが出来ない。いや、厳密には出来るのかもしれないが、まぁ、とにかく、そのままでは触れない。
だが、魔力がそれを可能にする。
だからこそ、俺は体の中に流れている魔力を操作し、魔力の力が増すように一か所に集めていく。そうだな、読み取るなら手が良いだろうか。これはイメージだ。その方が力が出ると思ったのなら――思い込んでいるのならば、その通りにやるのが一番だ。
何かを操作するなら手だ。だから、俺は体の中の魔力を右手に集める。右手が銀色に輝いていく。
以前までの俺が行っていた魔力を体に循環させるのとは違う、魔力を体の中に流し広げるのではなく魔力自体を集める方法。
魔素という純粋なものを調べるために純粋な魔力を集めていく。
今までとは一段上の魔力操作だ。
うん、こんなことまで出来るようになっているのだから、もしかすると俺は天才かもしれないな。
……。
と、こうやって自惚れている時が一番ヤバいんだよな。何か大きなポカミスをするパターンだ。俺は詳しいから分かるんだ。
……。
今は魔力操作に集中しよう。変なことを考えて失敗したら洒落にならない。
で、だ。
右手に集めた魔力。
これを使って魔素に干渉する。
これは今までやろうと思わなかったことだ。いや、そもそも魔素が何かの記憶を持っているなんて想像出来ないからな。こんなことをやろうなんて思いつけるはずがない。
右手に集めた魔力を操作して魔素の記憶を読み取る。同じようなことをやった先ほどとは魔力の量が違う。表面的な多分そうだろうではなく、真実へと近づけていく。
魔素の深いところまで読み込んでいく。
イメージとしてはインターネットを介して知らない人のパソコンをハッキングしているような感じだ。魔素の情報、その海の中を魔力を使って奥へ奥へと泳いでいく。
魔素の中に内包された何か――それが何なのか、これで……。
次の瞬間、俺の視界に宇宙が広がった。
暗闇と煌めく星々。
え?
俺は今まで何をしていた?
俺は城の近くて槍の鍛錬を、その途中でスキルの仕組みに気付いて、スキルの記憶がどうなっているか調べようとしていたはずだ。
宇宙。
何故、俺は今、宇宙に……?
宇宙の奥に螺旋が見える。
渦巻く螺旋が……。
「姉さま!」
赤髪のアダーラの声。次の瞬間には俺の視界は元に戻っていた。
見えているのは宇宙じゃあない、普通に城と緑と……いつもの景色だ。
な、んだったんだ、今のは?
「姉さま! 大丈夫ですか!」
「あ、はい。とりあえず大丈夫です」
こちらを睨んでいるようにしか見えない厳つい瞳のアダーラがホッとしたように胸をなで下ろしている。見れば、先ほどまでアダーラと争っていたプロキオンも俺を心配するような表情を向けていた。
「帝よ、危ないことは止めて欲しいです、ね」
「えーっと、自分は今、どうなっていました?」
「魔力に飲み込まれようとしていました、ね。あのまま帝が帰ってこないかと心配しましたよ。くっ、癪ですが、帝を呼び戻したこの者に礼を」
プロキオンが凄く嫌そうな顔でアダーラに対して頭を下げている。
アダーラが助けてくれたのか。
「えーっと、アダーラ、ありがとう」
「姉さま! 当然のことをしたまでです!」
アダーラが得意気な様子で鼻息荒く喜んでいる。あー、はい。
にしても魔力に飲み込まれる、か。
危なかったようだ。
魔素の記憶を読み取ればスキルの記憶が分かって、色々な種類のスキルが使い放題になるかと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。
魔素の奥にあったのは宇宙だった? あのままだと俺の意識が塗りつぶされて消えていたかもしれないなぁ。
うん、本当に危なかった。
これは無理そうだな。今の俺では無理だ。色々出来るようになって少し自惚れていたようだ。いやぁ、フラグの回収は早かったなぁ。
まぁ、でもさ、もし、もし……だが、あのまま魔素を完全に読み取れていれば、アダーラが言っていた相手を塗り替えて一撃必殺みたいことが出来るようになっていたかもしれないな。
ちょっと惜しかったか。
魔素に魔力。
スキルに魔法。
奥が深いなぁ。
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