259 パピルス

 魔法、か。


 俺も魔力を使って紙を作ってみるかな。今回も炉の使用は無しだ。炉は補助輪みたいなものだから、魔力操作の習熟のためにもそれ無しで出来るようにならないと駄目だろうからなぁ。まぁ、なんに対して駄目かっていうと……自己満足でしかないんだけどさ。


 では、とりあえずやってみよう。


 機人の女王は木片から紙の束を作っていた。


 うーん。


 だが、いきなり木片から紙は難易度が高そうだ。まずは繊維状にしてそれから魔力で紙に作り替えてみよう。

 木の枝を千切って茹でる。柔らかくなったら水と一緒に液状にまるでぐちゃぐちゃと潰す。


 これで原料は完成だ。


 さあ、これを魔力で変換させて紙を作ってみよう。


 原料の液状繊維質に魔力を流し込む。そのまま紙になるようにぐにゃぐにゃと形を整えていく。


 ……。


 よし、完成だ。


 見た目はボロボロだけど紙みたいに見えるな。炉を使って機人の女王が作った市販品のような紙と比べるとゴミみたいな出来だけど、一応、完成だ。とりあえず鑑定してみよう。


 ……。



 名前:ガラクタ

 品質:低品位

 用途のないゴミ。


 なんでだよ!


 俺がゴミみたいな出来だと思ったからガラクタ扱いになってしまったのか! いやいや、そんなまさか……。


 って、それよりも気になるのは、何故、ガラクタなんだ。今回は失敗作じゃあないんだな。


 何故だ?


 ……。


 !


 俺はそこで繊維質になるまでドロドロにした原材料を思い出す。原材料は鑑定していなかったよな。

 よ、よし、もう一度、作ってみよう。


「姉さま! 槍の修練をやりましょう!」

 と、そんなことを考えている間に槍の修練の時間になったようだ。潰したり、水と混ぜたりで結構、時間がかかっているからなぁ。いつの間にかそんな時間か。


 いや、でも、今は検証の方が重要だよな。


「えーっと、すいません。今日は槍の修練をお休みして実験を続けます。これも魔力を理解するために必要なことなので、えーっと、つまり、槍の修練に繋がることです」

「姉さま! むぅ、分かりました。今日は姉さまを見て過ごします。明日は修練です!」

 赤髪のアダーラが鋭い眼光でこちらを睨むように見てくる。ぶるっちまいそうな視線だぜ。


 ということで、時間を貰ったので実験の続きをやってみよう。


 木片を潰して、茹でて、水と混ぜてぐちゃぐちゃにする。よし、とりあえず、これで原材料は完成っと。


 これを鑑定してみよう。


 ……。



 名前:失敗作

 品質:最低位

 失敗作。


 ん?


 この段階で失敗作? 原材料の作り方を間違えたのかな。うーん。でも、紙って木を繊維状にしてくっつけて作るものだろ? 間違っていないような気がするんだけどなぁ。


 何故だ?


 いや、待てよ。


 なんで、失敗作なんだ? この原材料を使って作ったものの鑑定結果はガラクタだった。で、こっちはガラクタではなく、失敗作?


 んんん?


 どういうことだ?


 ……。


 矢の時はどうだった?


 ……。

 ……。


 ま、まさか……。


 俺は木片を手に取る。そのまま魔力を流し、木片という魔素から作られた塊を元々の魔素へと一度変換し、そこから紙を作っていく。


 まさか、まさか。


 魔力を流しぐにゃぐにゃと作り替えていく。


 ……。


 少し難しかったが……よし、一応、紙のようなものが出来たぞ。鑑定してみよう。


 ……。



 名前:パピルス

 品質:低品位

 木から作られた原始的な紙。


 出来た。出来ている。


 出来たじゃん。


 品質は低品位だし、紙としての質は酷いものだけど、ちゃんと鑑定出来るシロモノが完成した。


 これはどういうことだ?


 元の世界の常識に囚われて作った時は、普通に作っても、途中で魔力を使って作っても失敗した。

 木片からいきなり作ったら、品質はともかくとしてとりあえず鑑定出来るシロモノにはなった。


 木片から作るのが肝心なのか?


 木片に手を入れると駄目なのか?


 ……。


 いや、でも、木片だって木を切って木片にしているワケで、その時点で失敗作やガラクタ判定になってもおかしくないよな?


 線引きが良く分からない。


 これは試してみて結果を判断するしかないのだろうか。


 何処までが大丈夫なのか予想するのは無理そうだなぁ。

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