253 鍛冶日課
「えーっと、蟲人さんたちに何を言ったんですか? どうやって納得して貰ったんでしょうか?」
機人の女王に聞いてみる。
「ふむ。何も特別なことは言っていないのじゃ」
俺は機人の女王の言葉に首を傾げる。特別なことを言っていないのに、蟲人さんたちが、何故、手のひらを返したんだ?
「えーっと、つまり?」
「うむ。おぬしが望んでいる内容がいかに邪悪で禍々しいか伝えたのじゃ」
へ?
邪悪で禍々しい?
いやいや、俺の要望は、その真逆だろ? それがなんで……。
って、そうか。この中二病に侵されているような蟲人さんたちが望んでいるのは、禍々しいとか、邪悪とか、闇とか、深淵とか、そういうそれらだ。だから、俺の言っていることの方が蟲人さんたちの望み通りだよと信じ込ませたのか。無理矢理上から抑えつけて従わせるのではなく、価値観を変えたのか。妙手だな。
いや、でもさ。
「バレたらどうするんだ?」
「バレるも何も無いのじゃ。今よりあの者たちが信じるものが真になったのじゃ。つまり、おぬしの心配するようなことを言ってくる輩がいたとしても周りの考えの方がおかしい、となるだけなのじゃ」
な、なるほど。
狂信というか、詐欺師の手口というか、う、うーむ。
キラキラとした目でこちらを見ている蟲人さんたちを見ていると罪悪感が湧くなぁ。だけど、今からそれを正すのもなぁ。それはそれで問題があるよな。
蟲人さんたちは俺の望んでいる色とかデザインとかの方が格好いいと分かって、その通りに造り替えてくれることになった――そう思うことにしよう。
「えーっと、それじゃあ、さっき言ったような感じでお願いします」
「ぎぎ、任された」
「帝、良い」
「闇に抗する光の中にこそ反逆の深淵、ぎぎ、良い」
……ホント、謎な種族だ。
「まーう、まーう、まーう」
何故か羽猫も蟲人さんたちと一緒になって並んでいる。こいつにも中二病が感染したのかもしれない。こいつはもう助からないな。中二病って不治の病だからなぁ。完治したと思っても、うずき出して再発することがあるくらいだからさ。
「うむ。これで解決なのじゃ」
「そうですね。じゃあ、いつもの日課に戻りますか」
朝の日課を終わらせるか。
羽猫は中二病な蟲人さんたちと意気投合したのか、ここに残るようだ。お前も割と自由だよなぁ。まぁ、良く分からない存在のお前だ。好きなようにすれば良いさ。
その後、いつもの日課を終え、お昼ご飯にする。昼食後は鍛冶作業だ。
今日は……ゴーレム用の矢を作るか。
普通の矢の作成も成功していないのに、いきなり、それよりも難易度が高そうなゴーレム用の矢を作るのは無謀な気がする。だけどさぁ、これって、多分、経験なんだと思うんだよな。
プロキオンが作った、空間魔法を使って、そこらの木から削り出しただけの矢は、しっかり矢として認識されていた。手抜き……というか、矢の形をした木材でしかないのに、だぜ?
多分、この世界のシステム? 仕組みに矢として認識される何らかの法則があるはずだ。それは形なのか、重さ? 色? 認識? 何が条件になっているか分からないが、それはきっとある。
俺が魔力で無理矢理形にした矢は矢として認識されていなかった。それは、矢として認識されるための何かが欠けていたからだろう。
それは何か?
まぁ、それは分からないんだよな。
だけど、数をこなすうちに、それが何なのか掴めそうな気がする。確認のためにも時間はかかるが一個完成する度に鑑定をするか。それで微妙な違いが分かるかもしれないしさ。
「うむ。今日は、あれ用の矢を作るのじゃな。任せるのじゃ」
機人の女王が簡易炉を片手に持ち、鉄の塊へと手を伸ばす。まぁ、機人の女王が作る方の矢は、問題無く、矢として認識されるだろうさ。
そして、だ。
今回、矢の素材を銅から鉄に変えてみた。金属としての難易度はさらに上がるので、普通に考えれば余計認識されなさそうだが、俺はちょっと違うと考えている。
素材の性能が、認識力というか、完成度を高めてくれるような気がする。素材が向上すると作成難易度は上がるが、素材の分、性能が上がるというか、品質が上がる? うーん、上手く説明出来ないな。
とにかく素材が良い方が作りの甘さを誤魔化せる気がする。
ということで今日は鉄だ。
鉄の塊でゴーレム用の大きな矢を作ってみるぜ!
……。
……。
こねこね。
……。
魔力を操作して矢の形にして、と。
……。
何個か試作品が完成する。鑑定も行った。
……。
結論から言おう。
全て失敗だ。
どれも矢として認識されていない。
ええーい、分かっていたさ、分かっていたさ。いきなり矢として認識されるものが作れるとは思っていない。でもさ、毎日頑張れば何とかなるさ。畑の草魔法だってすぐには開花しなかったんだ。地道な作業が大事だ。大切だ。
これからは、矢の作成も日課として頑張ろう。そうしよう。
で、だ。
機人の女王が作ったゴーレム用の大きな鉄の矢は当たり前のように矢として認識されていた。
これ、炉を使っているのが大きいのかなぁ。
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