252 蟲人さん
翌朝、陽が昇り始めたところで建物の確認へ行くことにする。
「おぬし、朝の畑仕事はどうしたのじゃ」
「まーう」
機人の女王と羽猫も一緒に来るようだ。まぁ、羽猫は昨日、城を見に行っていないからな。どんなものか確認させるのも悪くないだろう。
「えーっと、城を確認してからやる予定です」
「うむ、分かったのじゃ」
日課は大事だからな。にしても、これで建物が完成したワケだから、少しはまともな場所で眠れるようになるな。まぁ、神域で眠るのと、城で眠るののどちらかがマシかは、まだ分からないけどさ。
何処だってさ、屋根があってマシなベッドと布団があれば全然違うんだろうけどさぁ。
……天人族の翼を毟って羽毛布団でも作ったらどうだろうか。いや、それは怒られそうだな。と、そこで俺は足元を歩いている羽猫を見る。
「まーう?」
お前の羽根はふわふわして気持ちよさそうだな。
「ま、まーう」
俺の視線に恐怖を感じたのか羽猫が挙動不審な様子でキョロキョロと首を動かしていた。いつも見ているぞ、お前を見ているぞ、とか中二病的なことを言ってしまいそうになる挙動だなぁ。
……。
と、そんなことを考えている間に城が見えてきた。
朝の陽光に輝く城は……やはり魔王の城という雰囲気のままだった。岩というか、土で作られた尖塔の部分や全部が土ではなく剥き出しになった木造部分が混じっているから禍々しいのか? 尖塔なんて鬼の角みたいに見えるしさ。
「帝」
「帝、来た」
「話、聞いてる」
俺の姿に気付いたのか門の修復を行っていた蟲人たちがこちらに集まってくる。昨日の夜からずっと作業を行っていたのか。この蟻のような姿の蟲人たちは随分と勤勉なんだな。いや、ブラック過ぎるのか。
「えーっと、昨日からずっと作業をしていたんですか?」
「直す、大事」
「ぎぎぎ」
「悪いところ直す良い」
蟻のような蟲人たちはきょとんとした様子で首を傾げている。作業するのが当然という感じだ。
「えーっと、昨日から働きづめで疲れていませんか?」
「ぎぎ?」
「ぎ?」
「ぎぎぎ?」
「ぎ?」
蟲人たちは俺の言っている言葉の意味が理解出来ていないようだ。
う、うーん。まぁ、本人たちが望んでやっていることなら良いの……かなぁ。まぁ、アレだよ。どれだけ良かれと思っていたとしても俺の常識を押しつけるのは自己満足のエゴでしかないよな。だから、本人たちがそれが当然だと思っているのなら、今回は口出すべきじゃあないな。種族的な問題かもしれないしさ。まぁ、後でその辺のことはウェイに聞いておくか。
「ぎぎぎ。帝、何処直す?」
「直す良い」
「ぎ、良くなる良い」
蟲人たちが聞いてくる。そうだった、そうだった。
「えーっと、それでですね、話を聞いているようですが、この建物? 城? の外装を変えて欲しいです」
「ぎ、聞いている」
「灯りつける、ぎ」
「ぎぎぎ」
ちゃんと話は伝わっているようだ。後はどういう方向でお願いするかだな。
「えーっと、建物の造り自体は素晴らしいので、外見を少し変えて欲しいです。色は白とか暗くならない系の色でお願いします。尖塔も尖らせず丸く出来ませんか?」
「ぎ」
「ぎぎぎ」
「闇良い」
「深淵が黒。ぎ、良い」
「鋭い、良い」
なんだか蟲人さんたちは不満そうだ。もしかして黒とか闇とか、そういう色が好きなのか。
「えーっと、それだと怖いイメージというか、知らない人に誤解を与えそうなので、それこそイケニエさんたちが見ると、こちらを悪と断定して話を聞いてくれなくなる可能性があるので、柔らかい感じにして欲しいなぁっと」
蟲人さんたちは明らかに不満そうな顔で顎をぎぎぎと鳴らしている。
「丸い、弱そう」
「全てを貫く感じ、良い」
「ぎぎぎ。闇、深い」
う、うーむ。
これはなんだろうなぁ。
蟲人族の皆さんは俺に対して最初から忠誠度マックスって感じで魔人族や獣人族、天人族みたいにこちらを認めさせる必要が無くて楽で良かったなぁって思っていたんだけどなぁ。
まさか、こういうところで躓いてしまうとは……。
なんというか蟲人さんたちって中二病的な感じなのか。鋭いものが格好いいとか闇とか深淵とか、そういうの好きになる時期ってあるよねって、そういう性格なのか。
これはどうするのが正解なんだろうなぁ。
いち、こちらの方が立場が上だと分からせる。
に、波風を立てないようにこのままにする。
さん、何か折衷案をひねり出す。
うーん、そりゃあ、三番が一番良いけどさ。そんな、ポンポンとアイディアは出てこないしなぁ。
「なぁ、これ、どうするのが良いと思います?」
俺は機人の女王に聞いてみる。
「ふむ。おぬしはどうしたいのじゃ?」
質問に質問を返すのは0点だよ! と、まぁ、それは置いといて。
「えーっと、自分としては城の外見を変えて欲しいです。理由は、このままだと偽りの種族? ヒトモドキ? イケニエの皆さんに邪悪な存在だと誤解されかねないと思ったからです」
「ふむ。誤解されるのは悪いことなのじゃな?」
俺は頷く。俺は力を求めているが、それは舐められないための力が必要だと思っているからだ。必要以上に力が欲しいと思っているワケじゃない。そして、それは魔人族、蟲人族、天人族、獣人族――四種族だけではなく、全ての種族が仲良く暮らしていける世界にするため、わかり合おうとしているからだ。
まぁ、それは理想でしかないのだろうけど。争わないで済むなら、それが一番だろう? だから、誤解されるようなことは避けたいと思っている。
「分かったのじゃ。わらわに任せるのじゃ」
そう言うと機人の女王は蟲人の集団に入り込み、何か身振り手振りで話しかける。何をしているんだ?
「まーう?」
羽猫も首を傾げている。いや、お前には期待していないからな。
「帝、正しい」
「間違ってた。帝、良い」
「従う、ぎぎぎ」
「直す、良い」
蟲人たちが土下座でもしそうな勢いで頭を下げる。俺に従ってくれるようだ。
ん?
機人の女王は蟲人の皆さんに何を吹き込んだんだ?
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