251 帝の城?

「ひひひ、帝よ。如何ですかな」

 何処か得意気な様子で蟲人のウェイが聞いてくる。ウェイがこんな感じで聞いてくるのって珍しいな。それだけこの城が自信作ってことなんだろうなぁ。


 いや、でもさ。


「あ、えーっと……」

「ひひひ、中も良く出来ているよ」

 蟲人のウェイがノリノリだ。本当に、こんな姿は珍しいな。

「あ、はい」

 この勢いの中で、微妙です、おどろおどろしい雰囲気だから作り直してください、とは言いづらいなぁ。


 ギイギイと嫌な音を立て、木で作られた人の二倍はあろうかという巨大な城門が開いていく。

「この門の担当は誰だったかね。ひひひ、少し歪んでいるようだよ」

 ウェイの言葉を聞き、蟻のような蟲人たちが敬礼をして扉に取り付く。どうやら扉を直しているようだ。


 あー、扉がギイギイと鳴っていたのはわざとじゃあなかったのか。良かった、良かった……良かったのかなぁ。


 ウェイの後に着いて城の中に入る。


 中は思っていたよりも……普通だった。


 まずはエントランス。四方に伸びた通路と階段が見える。エントランスから通路によって各部屋に繋がっているようだ。上の階にあがるための左右から伸びた階段の先は謁見の間になっているらしい。


「うむ。なかなか良い感じなのじゃ」

 何故か機人の女王が喜んでいる。


 壁に触れてみる。土だ……よな? いまいち確証は持てないけど、多分、これ土を固めたものだよな?


 うーん、建物の中は普通だな。木材をメインに作っているのかと思ったら土がメインだったのは予想外だけどさ。木材を使っているのは扉とか階段の手すりとかの部分くらいだな。で、だ。壁とか床は土で作ってあるはずなのに、なんというか、そんな安っぽいというか、原住民的な感じがしない。


 ……色が塗ってあるからか?


 と、そうか。内部は塗装されているから普通に見えるのか。壁とか白いし、清潔感があるよな。色って重要なんだな。


「えーっと、これ、色はどうやって?」

「ひひひ、魔力を変換して加工したのだよ」

 なるほどなぁー。魔力かぁ。魔力万能説、あるな。なんでも困ったら魔力って言ってれば良さそうな気がするくらい万能過ぎる。

「えーっと、外は? あのままにするんですか?」

「ひひひ、帝の希望があれば、希望の色にするがね」

 色が選べるのか。となれば、今の怖い感じから変えないとな。多分、色が変わっただけで見え方はかなり変わるはずだ。

「えーっと、では、落ち着いた感じの、威圧しないような色でお願いします。それと、中は夜なのに随分と明るいんですね」

 そうなんだよな。別に明かりが灯っているようには見えないのに、普通に明るい。というか、だ。建物の中なのに、普通に明るいって異常なことだよな。


「ひひひ、天人族の光球クリスタルだよ。それが生み出す光を通路、各部屋に通しているからね」

 ほほー。良く分からないが、そんな便利なものがあるのか。その光球クリスタルとやらがあるから、夜でも、建物の中でも明るい、と。


 だから、夜なのに、建物の中で壁の色が分かったんだな。


 ……って、ん?


 待てよ。


 建物の外側を威圧しないような落ち着いた色で塗ったとしても夜中だったら意味が無いんじゃあないか。夜だと色が殆ど分からないよな。まったく分からないということはないだろうけど形で判断されてしまうんじゃあないか。


 それは不味いよな。


「えーっと、その光で外側もうっすらと照らすとか出来ますか?」

「ひひひ、それは面白いね。難しいが出来ない事は無いよ」

「それではお願いします」

 よし、これで何とかなるぞ。


 ま、まぁ、変な感じでライトアップされてしまうと、夜のお店って感じになってしまうかもしれないけどさ。そ、そこはウェイのセンスを信じるということで。


 エントランスを抜けると、そこは結構な広さの何も無い中庭だった。本当に何も無い。ただ吹き抜けというか、外に出るだけの中庭だ。そして、そこを抜けると――次は大広間になっていた。ここも充分、明るいな。


 通路の先に上や下への螺旋階段も作られている。どうもその先が外から見た尖塔になっている場所に通じているようだ。下は……下水かな? いや、地下牢になりそうな部屋もあるな。


「ひひひ、ここは我らの居住区の予定ですよ」

 地下を案内してくれている時にウェイがそんなことを言いだした。へ? 地下牢かと思ったけど違うのか。

「えーっと、そうなんですか?」

「ひひひ、帝が許されるならだがね。我ら蟲人には土の中の方が落ち着くからね」

 へー。


 って、ん?


「ウェイたちもここに住むんですか? あ、いえ、悪い意味ではなく、てっきり個別に家を建てると思っていたので、ちょっと驚いたというか……」

「ひひひ。なるほどね。我ら蟲人は一つの場所に住むのが当たり前だからね、無意識にそうするものだと思っていたね」

 あー、なるほど。


 んー、まぁ、問題無いし、それで良いか。


 って、もしかして、あの無駄に広い何も無い中庭は天人族のためか。竜の形態の時に出入り出来る場所として作ったのか。


 あー、なるほどなぁ。


「えーっと、それで問題ありません。外壁の塗装と灯りの件をよろしくお願いします。後は……明日、日中にでも確認しますね」


 まさか、皆で住む用の一個の大きな建物を作っているとは思わなかったなぁ。ますます神域の拠点化計画が遠のくな。これ、その計画を諦めても良いかもしれないなぁ。

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