250 建物の形

 デザートを食べ終える。今日のデザートはぜんざいだった。って、いやいや、何処から小豆が出てきたんだよ。美味しかったけど、美味しかったけどさ! まさか異世界でぜんざいが食べられるとは思わなかったよ。小麦で作ったと思われる餅みたいな団子も入っているしさ。


「あの、えーっと、これ小豆を使ってますよね。何処にあったんですか?」

「それは我が運んだものだ」

 天人族のアヴィオールが鼻息荒く、得意気にそんなことを言う。

「あ、はい」

 なるほど天人族か。

「ひひひ、我らの主食なのだがね。このように甘く味付けされるとは思わなかったのだよ」

 って、蟲人の主食だったものなのかよ。天人族のアヴィオールは何処かばつが悪そうに頬を掻いている。こいつは……なんでそこで自慢したのかなぁ。


「えーっと、この小豆も量産した方が良いですか?」

 一応、聞いてみる。俺の草魔法なら簡単に量産が出来るだろうからな。

「ひひひ、不要だよ」

「うむ。蟲人のところに捨てるほどあるようだからな」

 蟲人のウェイの言葉を引き継いで天人族のアヴィオールが今回も得意気に答えている。蟲人族と天人族は仲が良いんだよな。あー、獣人族のアダーラに魔力の扱いを教えていたくらいだから、蟲人族は獣人族とも仲が良いのか。となると蟲人族と仲が悪いのは魔人族だけか? いや、魔人族が他の三種族全てと仲が悪いだけなのか。


 魔人族は原住民みたいな生活をしているし、ホント、どうしようもないなぁ。


「分かりました。それで、料理人さん、えーっと、この味は好きなのでこれからもよろしくお願いします」

「任されました」

 猫人の料理人さんにお願いしておく。いやぁ、この人と知り合えて本当に良かった。なんというか、この人の存在がチートだよなぁ。料理チートだよ。ずるだよ!


「うむ。我も甘いものは好ましい」

「姉さま! 私も好きです!」

「ひひひ。こんな調理法があるとは我らも驚いたのだよ」

「わらわも食事が出来れば良かったのじゃ」

「ええ。これは良いものです、ね」

「ああ。甘みは鍛冶の疲労が飛ぶようさね」

「まーう」

 豆を甘く調理するのって元の世界でも珍しかったはずだからな。それはこの世界でも同じらしい。この世界の皆にぜんざいが受け入れられると俺も何処か誇らしいな。


 ……。


 って、それを作った猫人の料理人さんが俺とはまた別の異世界の住人なんだから、少しややこしいな。俺が誇らしく思うのも違うような、ちょっと微妙な感じだよな。


 って、まぁ、それは置いておこう。


「えーっと、ウェイ、その完成した建物を見に行きましょう」

 そうだった、そうだった。その予定だったんだよな。

「ひひひ、帝。よろしいので?」

 蟲人のウェイが細くしなびたような指を空へと向けて立てる。


 俺は上を向く。空を見れば陽が落ちようとしていた。


 夜の闇の中で見に行くことになりそうだ。


「問題ない。この目は夜の闇の中でも見えます」

 俺の目は少しの光があれば夜の闇の中でも大丈夫だからな。まぁ、もし、蟲人のウェイが、もう眠る時間だから明日にしましょうとでも言うのなら、止めるけどさ。

「ひひひ、帝がよろしいのであれば我らは問題無しよ」


 蟲人のウェイの案内で完成した建物を見に行く。機人の女王も「わらわも一緒に行くのじゃ」と着いてくるようだ。逆にいつも俺を監視するように後を追いかけてきていた羽猫は着いてこない。ぜんざいを食べてお腹いっぱいになったのか満足そうな顔で丸くなっていた。こいつには何か裏があるんじゃあないだろうかって考えていたが、考えすぎだったのだろうか。うーむ。


 森に入り、しばらく歩き続けると、それは見えてきた。


 それは俺が予想していたものとはかけ離れた建物だった。


 伐採したそこらの木と土で作った建物……のはずだった。だが、そこにあるのは――月明かりを反射して輝くそれは……異形の建物だった。


 巨大な城。いや、要塞だろうか。土を固めて作られているからか、全てが連なり、突き出た無数の尖塔がおどろおどろしい雰囲気を纏っている。そして、ところどころにぽっかりと空いた窓のような穴がさらに異様さを深めていた。


 なんだろう、これ。


 魔王の居城って言われてもしっくりとくるような……。


「あのー、えーっと、これは?」

「ひひひ、帝の居城なのだがね」

 わーお。


 ますます俺の存在が魔王ぽくなってきたぞ。悪の帝王が住んでいる城って感じだね!


 神域だけじゃあなく、魔王城もゲットだぜ!


 って、これは不味い。


 俺は別に喧嘩を売りたいワケではなく、出来れば丸く収めたい。そのために力を得ようとしているだけなのに、これは誤解されてしまう。


 何が悪い。


 どうすれば改善出来る?


 作っている途中で見に来れば良かったなぁ。


「帝?」

「帝、来た」

「ぎぎぎ、帝」

「作った、帝の城、作った」

「喜んで欲しい」

「帝、帝」

 そして、魔王城ぽいものを完成させた蟲人たちが俺の存在に気付く。


 おー、初めてウェイ意外の蟲人を見たけど、なんというか二足歩行の蟻みたいな感じだ。纏っている服も、ただ布を巻き付けているだけって感じだし……なんだろうな、ウェイほどの知性を感じない。


「えーっと、ウェイ、彼らは?」

「ひひひ、蟲人の中で労働力を担っている者たちよ」

 あー、うん。


 奴隷みたいな感じなのか? 蟲人の生態を知らないけど、蟻とかみたいな感じなんだろうか。ま、まぁ、なんだろうな、蟲人族も魔人族、獣人族、天人族みたいに俺の力を見せて配下にする必要があるかと思っていたけど、その必要はなさそうだ。最初から俺に対する忠誠心がマックスになっているような感じに見える。


 うーむ。


 と、それは良いとして、だ。


 せっかく作ってくれたけど、これ、修正した方が良いよなぁ。


 悪いけど、もうちょっと友好的に見えるように作り直して貰おう。

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