249 認め合う

「えーっと、今日はこれで終了ですね」

「ええ。そうです、ね」

「姉さま! 明日も頑張りましょう!」

 とりあえず今日の訓練を終える。


 晩ご飯の時間、いつものように皆で集まる。今日の料理は親子丼か。悪くないな。にしても、出てくる料理が何処か和風なんだよなぁ。猫人の料理人さんが元いた世界は、もしかすると俺の世界と似たような食文化が育っているのかもしれないな。


「ひひひ、帝よ、最初の建物が完成しそうなのだがね」

 蟲人のウェイがそんなことを言い出す。

「あー、えーっと、蟲人に頼んでいた建物ですね」

 蟲人のウェイが頷く。そういえば、俺、畑と工房の往復しかしていないからなぁ。行っても海くらいだしさ。だから作っている建物がどんな感じになっているか知らないんだよなぁ。

 建物か。立派なのが出来ているのだろうか? あー、でも、使っている素材って畑を拓くために伐った時の木と、そこら辺の土しか使っていないんだよな? それでろくな建物が出来るのだろうか。難しくないか? いや、でも、蟲人の建築技術は優れているって話だった……はずだ。だから、天人族に蟲人を運んで貰ったワケだしさ。


 ……。


 あー、そうか。蟲人の運搬が終わって暇だから、天人族の連中が俺に絡みに来たのか。そうか、そういうことか。


「なぁ、アヴィオール。もしかして、今、天人族って暇ですか?」

 俺は聞いてみる。

「な、何を言う! 我らは暇では、暇ではないぞ。帝が食べている、卵や肉を何処から、誰が、どの者たちが運んだと思っているのだ」

 あー、なるほど。


 今は食材とかの運搬を行っているのか。完全に暇になっているワケじゃあないんだな。


 いや、でもなぁ。


 俺は天人族のアヴィオールを見る。


 見る。


 見つめる。


 よく見る。


 アヴィオールが苦い物をかみつぶしたかのように顔を歪め、その顔を逸らす。

「しかし、確かに、ああ、しかし、少々暇になっている者たちもいる」

 やっぱりか。

「しかし、それがどうしたというのだ」

 天人族のアヴィオールが、それでも我は仕事をしているぞっという感じで開き直っている。まぁ、確かに、な。仕事はしてくれているのだろう。この親子丼が食べられたのも天人族のおかげみたいだしさ。まぁ、一番はそれを作ってくれた料理人さんだけど……。


 って、そうじゃない。そうじゃあない。


「あ、えーっとですね。天人族の一団が、自分に早く偽りの種族を何とかしろって言いに来たんですよ」

 俺の言葉を聞いたアヴィオールの表情が、冷気を纏ったかのような――底冷えするような笑顔を纏ったものへと変わっていく。

「何処の氏族の者たちだ。帝よ、そのような問題を起こしたのは何処の氏族か教えて貰えないだろうか」

 氏族? 天人族はそういう感じの集まり方なのか。

「えーっと、氏族? というのは分からないですが、よく話して、分かって貰い、自分に忠誠を誓い直して貰ったので、もう問題は起こさないと思います」

「しかしだな……」

 俺は受け取っていた羽根のあまりを取り出す。確か、羽根は命を捧げるのと同じような感じだったよな。

「こうやって羽根も受け取っているので大丈夫ですよ」

 羽根を見たアヴィオールが大きく口を開けて驚き、間抜けな顔で固まっている。

「えーっと、どうしたのだろうか?」

「いや、驚いたのです。さすがは帝です」

 天人族のアヴィオールが頭を下げる。ん? アヴィオールの言葉が少しだけ丁寧なものに変わった気がする。


「それで、もう一度聞くけど、天人族は暇なのか?」

 アヴィオールが頷く。

「手の空いている者は出てきていますよ」

 暇、か。航空戦力は貴重だし、このまま何かあるまで待機してもらうのも悪くないんだろうけど……あ、そうだ。

「えーっと、偽りの種族やイケニエの皆さんの動向って誰かが監視しているんでしょうか?」

「帝よ。それなら私たち魔人族が行っています、ね」

 魔人族のプロキオンが立ち上がり、優雅にお辞儀をする。なるほど、そういうのは魔人族の役割なんだな。そういえば、俺がプロキオンと出会ったのも、襲撃を受けたからだったなぁ。


 俺は天人族のアヴィオールを見る。

「えーっと、暇している天人族で彼らを監視することは出来ますか?」

「ええ。我らにお任せを。我らは空より、そこの魔人族よりも上手く探ることが出来るでしょう」

 アヴィオールが得意気な顔でプロキオンを見る。ホント、相変わらず仲が悪いな。四つしか種族がないのに、その種族同士の仲が悪いというのだから……。


「えーっと、今まで監視は魔人族がやって来た……んですよね? ならば、その腕は確かだと思います。天人族は魔人族と協力して行って貰って良いでしょうか」

「お任せを」

「天人族、承った」

 プロキオンとアヴィオールが顔を見合わせ、頷く。


 多分、これで大丈夫だろう。


 んじゃあ、ご飯も食べ終わったし、蟲人の作った建物を見に行きますか。まぁ、魔人族の建物と呼べないような原始的な寝床よりはマシだろう。


「デザートはよろしいのですか?」

 俺が立ち上がると猫人の料理人さんがそんなことを言ってきた。


 俺はすぐに席に座り直す。

「あ、えーっと、食べます」

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