243 うどんか

 お、今日の食事はうどんか。いや、うどんというか、うどんのようなものだ。でも、うどんだよなぁ。魚介だしの効いた醤油風味のうどんだ。

 小麦と醤油味に近い魚醤があるから、うどんが作れてもおかしくない。おかしくないんだけどさぁ。だから俺もうどん作りを試してみたんだけどさ。


 ならないんだよ!


 うどんみたいにならないんだよ。


 小麦を粉にして水と一緒にこねればうどんになるはずだろ? 俺はそう思っていた。そう思っていたんだ。なのに……ならないんだよ! 何が間違っているんだ。間違っていたんだ!?


 俺が簡単に作れると思って作れなかったうどんを作ってしまうんだから、料理人さんは凄いよなぁ。さすがはプロだぜ。


 でも、うどんか。


「えーっと、料理人さんの世界でもうどんがあるんですか?」

 ペルシャ猫のような料理人さんが優雅に頭を下げる。

「麺料理は私よりももう一人の料理人の方が得意でした。このうどんという料理は、その者が王様に教えて貰った料理法のアレンジらしいです。私はそれを見よう見まねで再現しているに過ぎません」

 ん?


 王様、か。


 この猫人の料理人さんを、この世界に連れてきた異世界の王様。謎な人物だよなぁ。この世界に来た理由ってのも良く分からないしさ。


 しかも、うどんを開発した? うーむ。


 と……うどんか。


 俺は猫人の料理人さんを改めて見る。

「どうしましたか?」

「いや、その、毛だらけの手でうどんをこねるのは大変じゃあないですか?」

 俺がそう言うと猫人の料理人さんは分かり易いほど分かり易い態度で大きなため息を吐き出した。

「普人族の方は、すぐにそれを言う。それはこの世界でも変わりませんか。私たち猫人族は自分の意思で抜け毛をコントロール出来ます。勝手に毛が抜ける普人族よりも綺麗に調理出来ますよ」

 猫人の料理人さんから少し嫌な空気を感じる。


 あ。


 知らずに地雷を踏んでしまったか。もしかすると今のは人種差別的な話だったのかもしれない。


「すいません。知らなかったとはいえ、失礼なことを言ってしまいました」

 猫人の料理人さんは首を振り、微笑む。

「いえ、私も神経質になりすぎていたようです。私の同僚には毛が落ちないように頭を丸めている普人族も居るのに、それを否定するようなことを言ってしまいました」

 俺は頭を下げる。


 帝って呼ばれている俺が簡単に頭を下げるのは、本当は良くないのかもしれないけどさ、それでも俺は俺だからな。間違っていたのなら謝るのは当たり前のことだ。


 にしても、毛、か。


 あ、そうだ。


「えーっと、矢のことなんですが、木を削ってそのまま羽にするよりも、本物の羽を使った方が良いと思うんですよ」

 俺はこの場でのんびりとうどんを食べている天人族のアヴィオールを見る。その背中には立派な翼がある。

「なるほど! ええ、帝よ。それは良い考えです。あれの羽であれば魔力を乗せるにも良いでしょう」

 魔人族のプロキオンがそんなことを言いながらアヴィオールの方を見る。


「ん? な……ん、だと。何と恐ろしいことを!」

 アヴィオールが翼を抱えてわなわなと震えている。あー、羽って大事なものなのか。


 だと、頼むのは難しいのかなぁ。


 でも、他の天人族の人たちはどうなんだろうな。アヴィオールは駄目でも他の天人族の人なら……って、でもさ、俺さ、他の天人族の人たちに……天人族の人たちや蟲人と会わせて貰っていないんだよな。


 この食事の場だって、魔人族のプロキオン、蟲人のウェイ、天人族のアヴィオール、獣人族のアダーラ……いつものメンバーしか居ない。まぁ、後はたまにミルファクが居るし、機人の女王や羽猫が居るくらいか。


 魔人族の皆さんや獣人族の皆さんとは会ったけど、うーん。


 なんというか、俺に会わせたくない感じなんだよな。そういえば獣人族の皆さんには、最初の時かなり舐められたよな。あー、魔人族の皆さんも同じだったな。


 もしかすると同じ感じなのかなぁ。だから極力会わせないようにしている?


 う、うーん。


 俺の力を見せて認めさせる必要があるのか。


 なんというか、そこだけ見るとみんな戦闘民族って感じだなぁ。

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