242 弓の練習
「姉さま! 槍の動き、出来ることは限られています。それを全て把握すれば対処は容易いでしょう」
お? なんだか槍の玄人みたいな言葉だ。これだけ聞けば武将って感じだなぁ。
「いや、えーっと、でも、スキルとかはどうですか?」
そうなんだよな。元の世界ならアダーラの話で(間に『極めれば』が入るけど)通用したかもしれないけどさ、この世界には魔法やスキルがある。その限りじゃあないんじゃあないか。物理法則を無視しそうだよな。
「姉さま、スキルですか。それは型と同じ……その延長でしかありません。自分の力ではその領域に踏み込めない雑魚が魔力を使って無理矢理技術を再現しているだけにしか過ぎません」
へ?
つまりスキルも下駄を履かせているだけ、ってこと?
自力で出来ることの延長でしかないってこと、か。
蟲人のウェイが教えてくれた魔法の秘密。魔法を違う効果のように誤魔化し、認識させて発動するのを見せてくれた。
つまり、スキルも一緒だって、ことか。
「姉さま。この世界は魔素によって作られています。それは私たちも同じです」
アダーラが急に賢そうなことを言い始めた。そういうのは蟲人のウェイの役割じゃあないだろうか。脳みそまで筋肉に汚染されているアダーラには似合わないよな。あー、でも、アダーラは一応、ウェイの弟子だったか。基本となるようなことは一通り学んでいるのかもしれない。
で、だ。それはそれとして、それがなんなんだろう?
「根源である魔素に干渉できれば、もどきがスキルと呼んでいる小手先の技など全て無視できます。全ての大本である魔素から創り変えてしまえば良いのです。そうすれば何もさせず、何も出来ず、全てをねじ伏せることが出来ます。そして、帝である姉さまならそれが出来るはずです」
出来るはずですって無茶苦茶言っているな。
だが、これで分かったな。アダーラが倒す力があればいいですよーって言っている理由はそれか。帝なら魔素? とやらに干渉して好き放題出来ると。
……俺、出来るか?
う、うーん。微妙だな。そりゃあ、世界を望むまま自由に出来れば無敵だろうけどさぁ。
鍛冶では似たようなことをしているワケだし、そのうち、出来るようになるかなぁ。なるのかなぁ。まぁ、この時間はそれが出来るようになる練習の時間ということにしようか。
そして、アダーラとの槍の修練が終わると次はプロキオンによる弓の修練が始まる。
んで、だ。その修練は何故か弓作りから始まった。
そこら辺に生えている木をスパンスパンと切断するプロキオン。おー、空断って呼ばれるだけはあるなぁ。
木の皮を剥ぎ、それが自然ににゅるにゅると動き、より合わさって紐状になる。切断した木片を一瞬にして乾燥させ、先ほどの結った紐と繋げると弓が完成した。
一瞬の作業だ。
さらに余った木片もスパンスパンと切断し、木の矢を作る。おー、凄い。空間属性の魔法って便利だよな。空間って名前なのに切断として使えるとか便利すぎるよなぁ。
でも木で作った羽根かぁ。矢羽根くらいは鳥の羽とかで作った方が良いんじゃあないだろうか。あー、羽と言えば天人族とかどうだ。大きな羽だよな。よし、後で聞いてみよう。
「帝よ。このように弓を作ります。練習用ならこれで充分でしょう、ね」
このようにじゃあないんだよ。
って、俺にも同じことをやれ、と。これは、そういうことだよな。
無理だろ。普通に無理だろ。
いや、出来る出来ないで言えば出来るんだけどさ。でも、こう、プロキオンみたいにスパンスパンとは無理だ。
仕方ない。俺は地道に作ろうか。
まずは結った紐だよな。
腕に巻き付けていた蕾の茨槍を槍形態に変えて、その刃で木の表面を削る。この木の皮で紐を作るんだよな?
あー、でも結うのには乾燥させないと無理かな。
……乾燥かぁ。
木の皮を握りしめ、火燐の魔力を込める。火燐も火みたいなものだから、水分を蒸発させられるんじゃあないか。
……。
ん?
あ、これ、燃えそう。加減して、上手く調整しよう。これも魔力の扱いの修練になりそうだなぁ。
少し時間をかけ、木の皮を乾燥させ、それを自分の怪力を利用して無理矢理紐状へと変える。これで弦が完成っと。
後は……。
木を切断して本体部分を作ろう。
これは、まぁ、槍で切断するか。
蕾の茨槍に草の魔力を流す。これでいけるか?
木の切断か。普通なら、今までの――元の世界の常識で考えれば不可能なことだ。
だが、出来る。
今の俺なら出来る……はずだ。まぁ、出来るって思い込むことが大事だから、そう思い込もうとしているだけだけどさ。
蕾の茨槍で木を突く。突いた場所から衝撃が伝わり、そのまま折れ、倒れていく。
あ、これ、力業で無理矢理倒しただけだよな。切断出来ていない。
……。
俺はプロキオンの方を見る。プロキオンが無言で頷き、スパンスパンと倒れた木を切断する。あー、うん。とりあえずは弓の練習だから、これを使って弓を作るか。
プロキオンが切断した木片を乾燥させ、先ほど作った弦を巻き付ける。うーん、かなり不格好だ。
ま、まぁ、でも、これで弓は完成だ。
「えーっと、これで弓は出来ました」
「ええ。それでは弓の扱いを一から教えます、ね」
プロキオンはアダーラと違い、ちゃんと一から教えてくれるようだ。良かった、良かった。ま、まぁ、でもさ、弓の作成から始めるとは思わなかったけどさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます