231 鍛冶開始
真銀で作られた小さな箱に入った金色の球体。これが簡易の炉だ……うん。で、これをどうすれば良いのだろうか。
とりあえず目の前にちょこんと置いてみる。
ミルファクが言うには、使い続ければ、この金から俺の色になるってことらしいけど、俺の色って言うと……草魔法の緑か。いや、髪とか体毛は白ぽい灰色だから、その体毛と同じ色に変わる可能性もある……のか? アダーラだったら髪が真っ赤で火属性だから、どういう色に変わるか分かり易いんだけどな。
ん?
そういえば魔石を飲み込んで火燐属性を手に入れた時に髪の一房が緋色に変わったよな。ということは髪の色と属性は関係があるのか? ありそうな気がするな。
じゃあ、なんで俺の髪の色は草魔法の緑じゃあないんだ?
と、そこで思い出す。
草魔法は何処で手に入れた? どうやって手に入れた?
俺が俺だった時に手に入れた魔法だ。あの草原で寒天もどきを倒していた時に手に入れた魔法だ。
つまり、今の俺の体が持っていた魔法じゃあないってことだ。だから、髪の色に出ていないのか。
となると、灰色は何だろうな。
……時魔法か。その可能性が高いと思う。あの魔石を取り込んでも髪色は変わらなかった。元から適性があったから、そうだったんだろう。いや、若干、艶が出たような気がするから、それが属性を取り入れたことによる変化か。
時魔法の属性が灰色ってことなんだろうな。
となると、この今は金色に輝いている炉だが、使い続けると灰色になるのか。多分、そうだろうな。
そういえば神域にあった魔石って灰色にくすんでいたよな。考えなくても、そのものズバリだったじゃあないか。
……。
この体の少女は時魔法と相性が良かったんだろうな。神域にあった魔石と相性が良いとか、この体の元々の持ち主だった少女は、やはり帝の血筋か何かだったんじゃあないだろうか。目覚めた時にあった集落は何かに襲撃されて滅んでいた。もしかすると、その帝の血筋を絶やすために襲撃されたのかもしれないな。
うん、そう考えると辻褄が合いそうだ。
……。
誰が襲撃したのか分からないが、そのうち、調べて思い知らせてやろう。今の俺なら、きっとそういうことが出来るようになるはずだ。
この体。死んだと思った俺が新しく借り受けた、この体。その恩を返すためにも、そうすべきだな。
はぁ、何だろうなぁ。今更だよな。今更、そんなことを思い出し、思うなんて、俺は今までどれだけ余裕がなかったんだって話だよな。
「どうしたのさね」
俺がそんなことを考えていると鍛冶士のミルファクがこちらの様子を不審に思ったのか話しかけてきた。
「あ、えーっと、どうやって扱えば良いのか分からなくて……」
そうだった、そうだった。
今はこの簡易炉を使うって話だった。
「炉の扱いで重要なのは、変成、錬成、熟成、生成の四つ、そして解放さね」
ミルファクが講義を始める。
変成、錬成、熟成、生成、か。
四つの成だな。
「変成は形を変えること。素材の属性を変えることであったり、例えばナイフにするとか、剣にするとか素材の方向性を決めることであったりさね」
ふむふむ。
「錬成は鍛えること。素材の単独強化であったり、強化のために混ぜ合わせたりすることさね」
ふむふむ。
「熟成は時間を飛ばすこと。変化に時間がかかるものを早めるなど主に加工時間を短縮することさね」
ふむふむ。
「生成は完成させること。変成、錬成、熟成を行った素材に形を与え、物として完成させることさね」
ふむふむ。
「これが基本の四つなのさね。まずはこれを覚えておけば良いのさね」
なるほど。いまいち分からないことが分かったぞ。基本を教えて貰ってもそれがどう関係していくのかが分からないから、頭の中で繋がらないな。
実際にやっていかないと駄目そうだなぁ。
「えーっと、基本は分かりました。まだ良く分からないということが分かりました。それで、えーっと、どうやって物を作るのでしょうか?」
俺の言葉を聞いたミルファクが少し呆れたような様子でため息を吐き出す。いや、分からないものを分からないって素直に言うことって大切だと思うよ、うん。
「帝は実際にやってみて貰った方が早そうさね。その炉を素材に近付けて魔力を流すのさね」
「あ、はい」
小さな簡易炉をミルファクが用意したゴーレムの破片に近付ける。
えーっと、それでどうするんだ?
魔力を流すんだよな?
魔力はいつもの草魔法の魔力で大丈夫だよな?
武具や体に魔力を流す時と同じような感覚で、その延長で小さな簡易炉に魔力を流す。
よし、魔力が通った。
これで、その後はどうすれば良いのだろうか。
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