229 まいにち

 草魔法を使う。周囲の魔素を吸収し、体に循環させ失った魔力を取り戻す。そしてまた草魔法を使う。


 繰り返す。


 キツい、苦しい。魔力を使い過ぎて頭が朦朧とする。何故、こんな苦しいことをやっているのか分からなくなる。俺から魔力を吸い上げている機人の女王が恨めしくなるが、頭を振り、その思考を追い出す。魔力に余裕があれば、もっと楽になるのに、か。


 ヤバいな。キツすぎて考えが悪い方に……余裕が無くなっている。


 耐える。


 この繰り返しをやろうと思ったのは、自分だ。自分自身だ。なのに、それで余裕を無くしていたら世話がない。


「何故、そこまでするのじゃ」

 繰り返している途中で機人の女王が話しかけてきた。魔法を止める。


 ……。


 ちょうど良いタイミングだ。少し休憩しようか。


 額の汗を拭い、人形のような顔に驚きの表情を浮かべていた機人の女王を見る。

「えーっと、何故、ですか?」

「うむ。そうなのじゃ。魔力を使い過ぎて、おぬしの体にはかなりの負荷がかかっているはずなのじゃ。そのようなことを続ければ命の危険があるのじゃ」

 なるほど。命の危険があるほどだったのか。そりゃあ、キツいはずだ。


 キツい、か。


 痛みや苦痛が好きという特殊な性癖を持っている人なら嬉しいのかもしれないが、残念ながら俺にそういう性癖は無い。


「命の危険があることを、そなたが繰り返している理由……それが分からぬのじゃ」

「えーっと、理由ですか? 繰り返すことで魔力が鍛えられるからです。魔法を使うために必要な魔力を蓄えるための器が大きくなるからです」

 身体強化にも魔力を使う。機人の女王に吸われている魔力もある。魔法を強化すると魔力の消費も増える。そうなると、少しでも自分自身の魔力を蓄える器を大きくしたくなる。


 そうなれば鍛えるしかないじゃあないか。


 まぁ、どんどん器が大きくなるのが楽しいってのもあるし、うん、成長は良いものだ。それに、倍々で増えていく小麦を見るのも楽しい。この増えた小麦で何を作ろうって考えるだけでもワクワクするじゃあないか。


 まぁ、でも小麦は充分な数になりそうだから……そうだなぁ。こことは別に畑を作って、魔人族の皆さんにはそこで育てて貰うか。ここは、俺の魔力育成場兼小麦畑ってことにしてさ。


 うん、それは悪くないな。


 となると、場所だな。


 森か。森だな。


 プロキオンと相談して森を切り拓いて、そこに畑を作るか。どうせ、建物を作るために木材が必要になるんだ。そのついでに、うん、そうしよう。


 となれば……。


 うん、もう少し魔力の器を鍛えるか。これ、当分の間は午前中の日課みたいにして、午後からは自由時間って感じにするかな。


 その後も魔法を使い続け、工房に戻る。


 ミルファクの工房が何故か拠点みたいになっている。どちらかというと俺は神域の方を拠点にするつもりだったのになぁ。


 ここにテーブルを置いたのと、料理人さんが料理を始めたのが原因のような気がする。まぁ、仕方ない。


 椅子に座り、料理を食べながら皆の報告を聞く。


「狩猟を続けています、ね」

 まずは魔人族のプロキオンだ。

「えーっと、そのうちの数名を貸してください。畑仕事をやって貰いたいです」

「おお、帝よ。ついに私たちにも役目が出来るのです、ね」

 プロキオンは嬉しそうだ。


「ひひひ、我らは天人族たちと一緒に森の開拓だね。まだ建物を作るという段階じゃあないね」

「うむ。魔獣も多く、木が堅く、意外と手こずっているな。このような場所に住む魔人族の気がしれん」

 その言葉を聞いたプロキオンが天人族のアヴィオールを睨む。アヴィオールが挑発するように笑う。

「あ、えーっと、開いた土地の一部を貸してください。そこに畑を作ります。あー、後、種族間の戦いは禁止ですからね。どうしても、というなら自分に言ってください、考えます」

「いえ、そのようなことはしません」

「ああ。今は争っている場合では無いからな」

 プロキオンが俺の方を向いて丁寧なお辞儀を返し、アヴィオールがお手上げとばかりに、手を上げる。ほんと、コイツらはすぐに喧嘩をしようとするからなぁ。油断も隙も無い。


「姉さま! 神域の小さなゴーレムがかなり貯まりました!」

 次は赤髪のアダーラだ。って、貯めてるのかよ!


 ほんと、アダーラは良く分からないな。神域の探索をしているはずだけど、現状が良く分からない。脳の中まで筋肉が詰まっているだろうからなぁ。一度、一緒に見てまわった方が良いかもしれない。


「香辛料として使えそうな植物を見つけましたよ」

 猫人の料理人さんはこの島で使えそうな食材を探してくれている。

「おー、それはいいですね。後で魔法で増やします。それと小麦も充分な数になりそうなので後で渡します」

「助かります。それにしても、その力……あなたはまるで王様のようだ」

 帝だからね。


「いつになったら鍛冶を習いに来るのさね」

 ミルファクの言葉にハッとする。

「あ、えーっと、やっと目処が立ったので明日からお願いします」

 そうだった、そうだった。すっかり忘れていた。


 ミルファクから簡易の炉を貰ったのに、まだ何も作っていない。明日から頑張ろう。


「まーう」

「あー、えー、お前は適当に頑張れ」

「まう」

 羽猫は良く分からないな。何故、会話に参加しようと思ったのかも分からない。


 そんな感じで毎日が過ぎていく。

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