228 繰り返す
毎日、朝から晩まで同じことを繰り返す。種を蒔き、成長させ、種を回収して、また種を蒔く。
何度も何度も繰り返す。魔法を使い続ける。
機人の女王は何が面白いのか俺のそばでその様子を眺めている。単純に魔力の供給源である俺の近くに居たいだけなのかもしれない。
種を蒔き、成長させ、また種を回収する。繰り返す。
出来ない。
何故、出来ない。
広範囲に草魔法を使うこと。小麦を一気に生長させること。
簡単なことだ。単純なことのはずだ。
俺は出来ると思っている。信じている……はずなのに、何も起きない。変わらない。出来ない。
俺は何か間違っているのか? 考え違いをしているのか?
分からない。
こうしている間にもイケニエたちは力をつけ、人の残した遺産を使って襲いかかってくるかもしれない。いや――時間はある、余裕はあるはずだ。
だが、その猶予がいつ終わるのか分からない。
イケニエたちに襲われたとしても、半分の子である俺は……もしかすると俺だけは助けて貰えるかもしれない。だが、ここまで関わってしまった以上、魔人族、蟲人族、天人族、獣人族、皆を見殺しにすることは出来ない。
俺が力をつけて、戦いを終わらせる。遺産を破棄させる。
今はその力をつけるため頑張るべきだ。
だが、出来ない。こんなことも出来ない。こんなことすら出来ない。
種を蒔き、成長させ、種を回収する。繰り返す。何度も繰り返す。
正直、種を蒔いている場合ではないと思う。パパッと終わらせて、自分の力を高めるように何か修行を始めるべきだ。
分かっているんだよなぁ。
でもさ、この作業は無駄ではないはずだ。魔法の――魔力への習熟は無駄にならない。それが、まぁ、戦闘にあまり役に立たないだろう草魔法だとしても、だ。
というワケで繰り返す。
「うーん、出来ないなぁ。手を抜いているワケじゃあないんだけどさ」
「うむ。出来ていないのじゃ」
「まーう」
機人の女王はまだしも羽猫に言われると凹むな。
にしても、なんで出来ないんだろうなぁ。
こう、何か事件が起きて、そこで追い詰められて、秘められた力が解放されて出来る、みたいな感じなんだろうか。ゲームや物語だとお約束の展開だよな。
俺にもそういう展開が必要なんだろうか。
そんなことを考えつつも魔法を繰り返す。地道に小麦を増やし続ける。
繰り返し魔法を使い続け、そして七日ほどが経過した。
……。
その日、不思議と体調が良かった。そして、何故か分からないが、出来ると分かった。確信があった。
のんびりとした足取りで畑に向かう。今日も機人の女王と羽猫がついてくる。
さて、と。
やろうか。
毎日朝から晩まで休みなく続けたことでかなりの数に増えた小麦の種をばらまく。
一度、手を叩き合わせ、気合いを入れるようにほっぺを叩く。
行くぞ。
――[エルグロウシード]――
魔法が発動する。
ばらまいた種が発芽し、一気に成長する。そして、そのまま種となってこぼれ落ちた。
……。
出来た。
だが、体がキツい。重い。
疲労が一気に体へとのしかかる。
今日一発目の――最初の魔法なのに、キツい。体から力が抜ける。
虚脱。
ぐらりと体が揺れ、倒れる。その倒れた俺の体を機人の女王が支える。
「で、きました……」
「うむ。見事なのじゃ」
出来た。
ついに出来た。
機人の女王にもたれかかりながら周囲の魔力の素を吸収する。魔力を回復させねば、このまま気を失ってしまいそうだ。
魔力を回復させながら考える。
出来なかった理由。今まで魔法が発動しなかった理由。
簡単なことだった。
俺の意思が弱いから? 信じていなかったから? 危機的状況に陥っていなかったから? 危機感が足りなかったから?
違う。そうじゃない。そうじゃあなかった。
もっと簡単で単純なことだった。
俺の魔力が足りなかった。
それだけだ。
俺の、俺自身の器が足りていなかった。
毎日、草魔法を唱え続けたことで、俺の器は大きくなり、そして、今、やっと発動させることが出来た。本当にそれだけのことだった。
毎日、朝から晩まで草魔法を使い続けたことは無駄じゃあなかった。
そして、分かったことがある。魔力の器は、俺という器は、成長させることが出来る。しかも、魔法を使い続けるという簡単なことで成長する。
となれば、やることは一つだ。
周囲の魔力を吸収する。
――[エルグロウシード]――
先ほど生まれ、転がっていた種が一気に生長し、また種となる。それと同時に足の感覚がなくなる。膝から崩れ落ちる。脂汗があふれるほどの疲労だ。体が震え、歯と歯がぶつかり合いガチガチと嫌な音を立てている。
ふー、ふー。
そんなボロボロの俺の体を機人の女王が支えてくれている。
これ以上は不味い。
死ぬ。
死んでしまう。
魔力の使い過ぎて死ぬ。
慌てて周囲の魔力を吸収する。
ふー、ふー。
息が荒い。
だ、大丈夫だ。
魔力を吸収する。
さ、さあ、もう一回だ。
――[エルグロウシード]――
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