226 小麦の種
「何をやっているのか分かりませんが食事の用意が出来ましたよ」
何処から持ってきたのか、工房の前にいつの間にか金属製のテーブルが置かれ、その上に猫人の料理人さんの作った料理が並ぶ。
「えーっと、分かりました。とりあえず食事にしましょう」
用意された席に座る。すると機人の女王がメイドか何かのように俺の後ろに立ち、控えた。何故だ。
ま、まぁ、食事にしよう。
今日の料理はスープとパンだ。
何処でパンを焼いていたのか謎だが、ふんわりとしていて美味しそうなパンは食欲を誘う。
パンを千切りスープに浸して食べる。本来は硬いパンを食べられるようにスープに浸けるそうだが、関係ない。スープとパンならこういう食べ方だろう。
スープは……不思議な味だった。豚骨スープのような、それでいて魚介の風味が出ていて、しかもちょっとピリリと辛めの……良く分からない。いや、美味しいんだけどさ、新感覚というか……。
「えーっと、何かちょっと変わった味ですね」
「ええ。調味料の残りも少なく、食材の種類もありませんから、尖った味を入れて誤魔化しています」
猫人の料理人さんが頭を振り肩を竦めている。
なるほどなー。少ない中でしっかりと美味しいものを作ってくる料理人さんの腕は本物だな。だけど、このままでは不味い気がするな。いや、料理が不味いワケじゃあないけどさ。
「なので、この周辺で調味料として使えそうな食材がないか少し探してみようと思っています。幸い、こちらの方も手伝ってくれると言っていますし」
猫人の料理人さんが隣に立っている魔人族のお姉さんを見る。そういえば、こちらのお姉さんは料理に興味を持ったんだったな。
うん、それは良いことだ。
もしゃもしゃ。
はやく料理が充実して欲しいな。
「帝よ、この後はどうされますか?」
食事後、魔人族のプロキオンが聞いてくる。
この後の予定か。
「えーっと、小麦を育てたいです。何処か良い場所はありますか?」
そうなんだよなぁ。神域の探索ももう少し行いたいが、小麦を育てないと食料問題が起きるだろうし、こっちも進めておかないとな。
「では、ご案内します」
魔人族のプロキオンに案内された場所は里の外れにある何も無い場所だった。本当に何も無い。耕すとこから始めないと駄目なようだ。
魔人族って農作業とかやってなさそうだからなぁ。あー、でも大きな鳥は飼育していたよな。その食料はどうしているんだろうか。家畜用の飼料とか育てていないのかな。
「えーっと、何か耕すような道具とかありませんか?」
俺の言葉を聞いたプロキオンが首を傾げ、腕を組む。
「鍛冶士に作って貰ってきますよ」
プロキオンが綺麗なお辞儀を返し、俺が返事をするよりも早く消えていた。とっても、はやーい。
って、完全に置き去りにされたじゃないか。
「ふむ。ここを耕すのじゃな」
そして、何故か着いてきている機人の女王。
「えーっと、はい。そうですね。アダーラから小麦の種を貰っているので、ここで育てて増やしたいと思っています」
のつもりなんだけど、このまま小麦の種を地面に転がしても芽が出るのは難しいだろうなぁ。クワとかで耕して、それからだよな。でも農具なんて持っていないし、さすがに蕾の茨槍で耕すのは難しいだろうな。
プロキオンは鍛冶士のミルファクに作って貰うつもりだろうけど、すぐに完成するかは分からないし、そもそも作ってくれるかも分からない。
むむむ。
「ふむ。それならば、魔力を貰っているお礼にわらわが手伝うのじゃ」
機人の女王はそれだけ言うと右手を振り上げた。
へ?
そして、そのまま右手を地面に叩きつける。ズドンと衝撃が走り、一瞬にして地面が抉れ掘り返される。平行移動しながらズドン、ズドンと同じことを次々と繰り返す。
あっという間に耕された畑が完成した。
何だよ、その破壊力。いや、畑を耕しているから耕耘力か。
「これくらいでどうなのじゃ?」
機人の女王が腰に手を当て、得意気に胸を反らしている。
「あ、はい。えーっと、ありがとうございます」
「よい、よいのじゃ。わらわとそなたの仲なのじゃ」
どういう仲だよ。魔力を吸われ続ける仲でしかないだろうが。
さて、せっかく機人の女王が耕してくれたんだから、種をまくか。
小麦の種をまく。
んじゃ、やりますか。
――[グロウ]――
小麦が芽を出す。
――[グロウ]――
ぐんぐんと成長していく。あー、魔法で育てるのなら別に畑を耕さなくても良かったのか。ま、まぁ、種を増やすまでは魔法を使うけど、その後は普通に育てる予定だから、無駄にはならないだろう、うん。
――[グロウ]――
――[グロウ]――
――[グロウ]――
成長を促すグロウの魔法を使い続けると、すぐに実がついた。さすが魔法。小麦にも効果があって良かったぜ。
さて、と。
――[シード]――
いくつもの小麦の種が生まれ、転がる。よしよし、シードの魔法も効果があるぞ。まぁ、別に普通に収穫しても良かったんだけどさ、でも、小麦の種を取り出すのって面倒そうじゃあないか。
シードの魔法なら一発だからな。
うん、魔法は便利だ。
さあ、このままどんどん小麦を増やすぞ!
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