227 思い込み
散らばった小麦の種を拾い集める。十個か。一つの種から十個の種が採れる、一回で九個増やすことが出来るのか。
……。
これ、確実に増やせるけどさ、凄く地道で気が遠くなるような回数が必要になるんじゃあないだろうか。
ま、まぁ、でも頑張るか。幸いなことに俺は地道な作業が嫌いじゃあない。うん、まぁ、そうは言っても、自分で言うのも何だが、自分はかなり気分屋だ。だが、これくらいなら飽きない、大丈夫だ。
新しく作った種の方を蒔く。魔法で無理矢理成長させた種だからな。もしかすると育たない可能性もある。
うんじゃ、やりますか。
――[グロウ]――
種から芽が出る。よしよし、魔法で育てて作った種でも問題なさそうだ。
――[グロウ]――
芽が育つ。
――[グロウ]――
穂がつく。これで収穫が出来そうだ。
――[シード]――
実った穂から種がこぼれ落ち、穂が消える。魔法で無理矢理種にしているからか種以外が残らないな。これ、茎の部分とかを飼料として使えなくなるから、最終的には普通に収穫した方が良さそうだよなぁ。ま、まぁ、今は数を増やすことが優先だから。
種を集める。八個、か。さっきよりも少ないな。これは魔法で育てた影響だろうか。
もう一度、種を蒔く。
――[グロウ]――
種から芽が出る。よし、今回も問題無し。というか、逆に必ず芽が出るとか凄くないだろうか。普通はいくつか芽が出ない種が混ざるよな。それだけ魔法が凄いってことなのだろうか。
――[グロウ]――
芽が育つ。うんうん順調だ。
――[グロウ]――
穂がつく。
――[シード]――
実った穂から種がこぼれ落ちる。今度は十個の種が出来たようだ。お、十個か。てっきり、どんどん種の数が減っていくかと思ったから良かった、良かった。と言っても、もう少し検証した方が良いか。
何度も繰り返す。
地道に何度も魔法を使い続け、作業を繰り返す。その結果、分かったのは……。
非常に手間だということだ。それと、魔法を使えば必ず芽が出ることと、出来る種の数はだいたい七個から十一個だということが分かった。
さて、まだ時間はあるし、どんどん繰り返すか。数が足りないからな。何度も繰り返したけど、それでも小麦の種の数は数百個程度にしかなっていない。こんな少量では一食分にもならないだろ。
先は長そうだ。まぁ、でも頑張ろう。
種を蒔く。
「ふむ。先ほどから何をやっているのじゃ」
こちらを楽しそうに見守っていた機人の女王が話しかけてくる。
「えーっと、増やすために種を蒔いています」
草魔法で増やすことが出来るのは俺だけだろうから……多分、俺だけだよな? 他に使える人っていないよな? と、そうじゃないそこじゃあない。草魔法を使えるのが俺だけだろうから、まずは俺が増やす。そして、ある程度の数になったら魔人族の皆さんに育てて貰うつもりだ。普通はこんな風に一瞬で育たないだろうからなぁ。ほんと、草魔法は凄いぜ。でも、小麦って育つまでどれくらいかかるんだろうか。一ヶ月や二ヶ月では収穫出来ないよな? まさか、一年とかかかるのだろうか。うーん。ま、まぁ、とにかく俺は、とりあえず増やし続けよう。
――[グロウ]――
芽が出る。
さて、次はもう一度グロウの魔法を使って成長させて、と。
「ふむ。魔力を使って育てているのは分かったのじゃ。じゃが、増やすのならば、何故、一個ずつしか育てないのじゃ?」
え?
「それに何故一気に成長させぬのじゃ?」
「いや、えーっと、それは芽が出る、成長する、穂がつくと段階を踏む必要があるからで……」
って、あれ?
そういえば何故だ?
言われてみれば確かに、何故、段階を踏む必要があるんだ?
そうなったから、てっきりそういうものだと思ったけど、どうなんだ?
それに、一個ずつ成長させていたことに関してもそうだ。
俺はそうだと思い込んでいた。
そういうものだと思い込んでいた。
でも、本当にそうだろうか。
魔法は多くの可能性を秘めている。そうだ。常識に囚われては駄目だと言ったのは誰だったか。
そうだよな。
出来るはずだ。
まずは今、この目の前の芽が出た種を一気に育ててみよう。
――[グロウ]――
芽が伸びる。
……。
失敗だ。
いや、何処かでまだ信じ切れていなかったのかもしれない。
どうせ時間はあるんだ。
何度でも試してみよう。
――[グロウ]――
――[シード]――
とりあえず失敗した種を回収する。
次は種をばらまく。今度は一気に成長させてみよう。
指定を全体になるように魔力を伸ばして、さあ、行くぞ。
……。
魔法が発動しない。
で、出来るはずだ。信じる心って大切だよなぁ。
もう一度!
全体に魔法が作用するように……。
――[グロウ]――
……。
全体を指定したはずなのに芽が出たのは一つだけだった。
う、うーむ。失敗だ。しかも、一気に成長させようとしたはずなのに芽が出ただけ、か。
上手くいかないなぁ。何が悪い? 何が原因だ?
「ひゃう!」
と、その途中で変な声が出た。見れば機人の女王が俺の尻尾を握っていた。
「えーっと、何をしていますか?」
「うむ。何やら楽しそうにふわふわ動いていたので掴まえてみたのじゃ」
「つかまないでください」
思っていたよりも自分の尻尾は敏感なようだ。って、今まで触ってくる人がいなかったからなぁ。
「残念なのじゃ」
「えーっと、集中が途切れるのでお願いします」
まったく、この機人の女王には困ったものだ。
いや、まぁ、でも、今ので気分転換が出来たというか、少し考えることが――心に余裕が出来たかもしれない。そうだよな、すぐに出来るようになるはずがないんだ。じっくりと頑張るか。
よし、頑張ってみよう。
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