225 成長阻害

 一瞬にして鉄のドレスを身につけた機人の女王が先ほどまでと同じように俺の腕の中にすっぽりと収まる。


 ってッ!


 この機人の女王自体が無茶苦茶重たいのに、さらに数十キロの鉄で作られたドレスを着込んだりしたら……洒落にならない。今の魔力が切れて身体が強化されていない状況だと普通に潰れてしまう。


 死ぬ!


 って、あれ?


 思ったほど重くない。


 俺は思わず腕の中の機人の女王の顔を見る。

「おぬしの中にあった成長を阻害している魔力だまりを潰したのじゃ」

 何故かしてやったりという顔をしている。


 へー、なるほど。


 って、成長を阻害していた?


「えーっと、それは……自分はこれから大きくなるということですか?」

 確かに、今の自分の顔と体を見てかなり幼い容姿をしていると思ったんだよな。そういう年齢かと思ったが、そういうことだったのか。ということは、これからぼんきゅぼんな女性に成長するってことか。


 ……。


 うーん、それは、それで、なぁ。


 俺の中にある大切な何かというか、越えてはいけない一線が越えてしまうというか、うーむ。


「何を言っているのじゃ。おぬしの能力成長のことなのじゃ」

 ん?


 って、レベルか!


 レベルのことか。


 なかなかレベルが上がらないと思ったのはそれが原因だったのか。


 って、あれ?


 ということは、レベルアップに重要なのは魔力なのか? 蓄積している魔力がレベルアップに関係する? そういうことなのか。


「魔力の循環を正したことでおぬしの魔力に余裕が出たはずなのじゃ。どうじゃ? 元と同じかそれ以上の力を感じるであろう?」

 言われてみれば……確かに。ハーフのこの体は生まれながらに魔力が循環しているため、力が強い。その代わり余剰魔力がなく魔法が使えない――だったよな。

 今はそれと同じかそれ以上の力になったような気がする。


 このクソ重いであろう機人の女王を支えてられるくらいだもんな。って、よく考えたら、なんで、この機人の女王は同じくらいの背丈の俺に寄りかかっているんだよ。まだ魔力が吸い足りないのか?


「そして、その余剰分を繋げたラインから常に貰っているのじゃ。これでわらわが魔力切れになることはないのじゃ」

 なるほど。それで普通に喋れるようになったのか。


 って、おい。


 余剰分を吸っているって、それだと俺の方に殆どプラスがないじゃん。いや、少しはプラスになっているようだから、それで良しとするべきなのか。いや、でも、吸われている分の魔力があれば、もっとガンガン魔法が使えるワケで、いや、でも、この機人の女王が治してくれなければ余剰分は出なかったワケで……むう。


 ま、まぁ、納得しておくか。


「えーっと、それで機人の女王さんは何故、あの場所に居たのですか?」

 改めて聞いてみてる。もう服を着たから、全裸じゃあないから、答えてくれるよな?

「分からぬのじゃ。何か重要な使命があったような気がするのじゃが、覚えていないのじゃ」


 ……。


 結局、それかよ。


 この機人の女王、最初は自分のことを『我』って言っていたんだよな。それが今は『わらわ』になっている。途中、草の魔力を流し込んだ時にも性格が変わった。その時に、この草の魔力はやべぇって言ったんだよな。流す魔力によって性格が変わる、いや、もしかすると、上書きされてしまうのかもしれない。


 ……つまり、俺の魔力で上書きしてしまって、記憶が飛んだ?


 嘘だろ。


「えーっと、機人は帝とともにあったみたいな伝説があるそうですが、何か覚えていませんか?」

「うむ。わらわはタァモ帝とともにあったのじゃ」

「タァモ帝?」

 それがこの機人の女王と一緒に居た帝の名前なのか。なんだか今の俺の名前と似ているな。

 やっぱり、この今の俺の体の少女が帝の血筋だったから名前が似ているのかな。


 って、違うだろ!


 タマって名前は俺が考えた偽名だ。


 それが似ている?


 なんつー偶然だ。


 獣耳に尻尾の猫ぽいからタマって名乗ったのが始まりだったよな。といっても、まぁ、何もなくタマって名乗ったワケではなく、実は自分の名字から来てたりするんだけどさ。この世界に来る前に遊んでいたゲームでも、その名字をもじって似たような名前を付けていたし、まぁ、だから、あの時、リンゴに名乗った時に、サクッとその偽名が出てきたんだろうけどさ。まぁ、それは今はいい。どうでも良いことだ。


 名前だよ、名前。


 タァモ、か。


 この今の俺の名前と似ているなんて、なんだか運命を感じるぜ。


「えーっと、他に何か覚えていることはありますか?」

「分からぬのじゃ。じゃが! こうしておぬしとラインを繋いだのも何かの縁、わらわがおぬしに力を貸すのじゃ!」

 あ、はい。


 良く分からないが、手助けしてくれるようだ。


 うーん、でも、なんだかお荷物が増えただけのような気しかしない。

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