222 機人少女
「えーっと、どういうことですか?」
「ひひひ、違うようだね」
蟲人のウェイがいつものようにひひひと鳴き声のような音を出している。
「うむ。我ら天人と蟲人、伝わっているものが違うようだな」
天人族のアヴィオールが偉そうに答える。
伝わっている話が違う、か。四種族はあまり交流していなかったようだから、そういうことがあるのかもしれないな。でも、なんで天人族にだけ伝わっているんだろうな。獣人族のアダーラも知らないような感じだったし、これは魔人族のプロキオンにも聞いてみるか。
「帝は変わったものを持っているようさね」
鍛冶士のミルファクが俺が抱えている機械の少女を見ようとのぞき込んでくる。
「あ、えーっと、機人? の少女らしいです」
「それをどうするのさね」
鍛冶士のミルファクの後ろでは鍋を持った猫人の料理人が一生懸命料理を行っている。今日は何を作ってくれるんだろうな。
と、よく見れば、何故か魔人族のお姉さんが料理を手伝っていた。あれ? そういう話だったか? 確かに料理の手伝いが欲しいって料理人さんは言っていたけど……でも、魔人族だからなぁ。原始人みたいな生活をしていた魔人族だからなぁ。酷い料理を作りそうで怖いな。ま、まぁ、そこは料理人さんが上手くコントロールしてくれると信じよう。うん、手伝ってくれる人がいるなら、それで良いとしよう。
「えーっと、それで、この機人の少女ですよね」
とりあえずなんとなくで持ち出してしまったけど、どうしようかな。天人族のアヴィオールは亡骸って言っていたし、もう死んでいるってことだよな。
う、うーん。
「えーっと、ミルファクに渡します。上手く活用してください」
この機人の少女は良く分からない金属で作られているみたいだし、何か素材として活用出来るんじゃあないかな。
ということで上手く活用してくれたらオッケーだな。
「それならそうさせてもらうさね。後で見ておくさね」
ミルファクがこの機械の少女を活用してくれるようだ。良かった、良かった。運んだのは無駄じゃあなかった。でもよく考えたら、死体を活用するとかヤバいよな。ま、まぁ、魔獣の死骸を素材として活用することもあるから、今更か。うん、そうだな。それと同じだと思うことにしよう。
機人の少女の亡骸を地面に置き、とりあえず料理人さんの料理が完成するのを待つ。
「えーっと、ところで魔人族の方が料理を手伝っているようですけど、何かあったんですか?」
鍛冶士のミルファクに聞いてみる。
「あれなら、こちらに来た時に、そこの料理人と意気投合して手伝ってみるって話になったようさね」
へぇー。
そういう流れなのか。
それなら、そのままお願いしていれば大丈夫かな。
にしても赤髪のアダーラや獣人族の皆さんの姿が見えないが、何処に行ったのだろうか。まさか、神域の探索を続けているのか? そういえば、透明な壁があって進めない場所がいくつかあるようなことを言っていたよな? 攻撃が反射されて大変なことになったようだったけど……もしかして、そこに行っているのか? どうも透明な壁は消えたようだし、他の場所も先に進めるようになっているかもしれないからなぁ。まぁ、戻ってきたら聞いてみるか。
「帝よ、お待たせしました」
そうこうしているうちに魔人族のプロキオンもやって来る。
「あ、えーっと、お帰りなさい」
「帝よ、行っていた里の者たちの掌握は完全に終わりました。以後、何があろうと帝の命令には絶対に逆らわないようにしています。もし、それでも何か言うものがあれば処理します」
魔人族のプロキオンが優雅にお辞儀をする。絶対にとか怖いことを言うなぁ。なんというか、里の魔人族の皆さんとも仲良くやっていきたいのに悪いイメージがついてそうな感じだよ。ま、まぁ、プロキオンだし、仕方ないか。
「畑が出来そうな場所も確保して、今は開墾させています」
「あ、えーっと、助かります」
有能だ。これで後はアダーラから貰った種を植えて、草魔法で育てれば小麦は収穫出来るか。その後のもろもろは誰かにやって貰おう。俺は小麦粉の作り方とか知らないしな。た、多分、砕いて粉にするだけなんだろうけど、違っていたら怖いし、そこは知っている人に頑張って貰うということで。多分、料理人さんとか知っているだろう。
「ところで帝、そこに転がっている鉄くずはなんでしょうか?」
鉄くずって酷いな。それに鉄ではなく謎の金属みたいだけど、まぁ、似たようなものか。
「えーっと、機人らしいです。プロキオンは知りませんか?」
プロキオンは首を横に振る。
「あれなら何か知っているかもしれませんが、私は知りません、ね」
あれって。あれ扱いしているけど、里のオオババ様って呼ばれているまとめ役の人のことだよな。里長のことだよな。
まぁ、でも、この分だと魔人族も機人のことは知らないって感じがするな。
うーん。
となると、なんで天人族にだけ機人のことが伝わっていたのだろうか。分からないな。大昔のことみたいだし、伝わっていく過程で機人の話がなくなったのかな。まぁ、そういうこともあるか。
「えーっと、とりあえず何かの素材になりそうなので、鍛冶士のミルファクに任せようと思っています」
俺の言葉にプロキオンが頷く。
と、ん?
そこで気付く。
地面に転がした機人の少女の亡骸の目がいつの間にか開いている。真っ赤な瞳がこちらを見ている。
え?
「我を、勝手に素材に……するとは……なんという不届き者、なのじゃ」
そして、喋った。
喋ったぁ!
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