223 目覚める

 真っ赤な目をこちらに向け、機人の少女が起き上がる。

「おぬしたち、我を、我、我、わ、わ、れ……」

 それだけ言うと起き上がった機人の少女がガクガクと揺れ始め、カクンと動きが止まる。そしてそのまま崩れ落ちる。


 動かない。


「えーっと、なんでしょう、これ?」

「ふむ。動くとは……トドメを刺してはどうだ?」

 天人族のアヴィオールが無駄に偉そうにそんなことを言い出す。まったくアヴィオールまで脳筋のアダーラみたいなことを。


「いや、えーっと、さすがにそれは……話を聞きましょう」

 そうだよな。どうしてあの場所に居たのか、いつからあそこに居たのか、聞きたいことは色々ある。敵か味方かも分からない状況でいきなり攻撃するのは問題あるよなぁ。


 ……。


 だが、しばらく待ってみるが機人の少女は動かない――動き出さない。


 あれ、動かない?


 さっき、動いて喋ったのは錯覚だったのだろうか。


「ふむ。もう動かなくなったようだな」

「それで、それをどうするのさね。素材にするのかい?」

 鍛冶士のミルファクが料理人の作っている鍋をのぞき込んだままの――こちらを見もせずに喋る。


 素材、か。


 このまま動かないなら、結局そうなるのかなぁ。


「えーっと、ですが、でも、どういった素材になりそうですか?」

 ミルファクには素材として渡すつもりだったけど、本当に素材になるって聞くと、思わず、うーん、考えてしまうなぁ。特に動き出した後だと、余計にさ。

「そうさね……」

 ミルファクは変わらず鍋の中を見ている。

「あのー、鍛冶士さん、邪魔するなら離れて欲しいのですが……」

 鍋をつついている猫人の料理人さんが呆れた顔でミルファクを見ている。


「わ、我を、ま、また素材にすると言ったのじゃな! わ、わ、我、我、我……」

 突如起き上がった機人の少女が口を開き、そしてまたガクガクと揺れ、動きを止める。なんだろう、これ、心霊現象とか、そんな風にしか見えない現象が起きているはずなのに、元の世界だと怖くて震えていたかもしれないような現象なのに、うん、怖いというよりも笑えるという感じだ。


「えーっと、素材……」

「わ、我、我を、そ、そ」

 機人の少女がガクガクと動き出そうとして、その途中で力尽きる。動きの止まっていた機人の少女がパッと目を見開き、その真っ赤な瞳でこちらを見ている。恨めしそうに見ている。


 うーん、燃料が切れたのかな。


「えーっと、そ……」

「お、おぬし、わ、我を」

 機人の少女は倒れたまま口をパクパクと動かしている。本当に燃料切れ間近という感じだ。


 と、そこで気付く。


 機人の少女から魔力が漏れている。もやもやと黒い魔力が漏れ出しているのが見える。その勢いはかなり弱い。


 うん?


 もしかして、この機人の少女の燃料って魔力なのか?


 俺は、クワッと目を見開いている、ちょっと怖い機人の少女を抱え持ち、武具に纏わせるのと同じ要領で黒い魔力を纏わせてみる。するすると俺の魔力が機人の少女に吸われていく。


 なるほど。間違いないようだ。


「えーっと、これで少しは喋れますか?」

「た、足りぬ、の、じゃ、じゃじゃじゃじゃ」

 機人の少女は無理に喋ろうとしてガクガク動いている。まるで電池が切れる寸前の人形みたいだ。


 ……。


 これ、黒い魔力よりも草の魔力の方が効率が良さそうだ。草の魔力って言うのも何だかあれだけど、凄いパワーワードだけど、俺が普段よく使っている魔法だからな。その方が魔力として扱いやすい。


 よし。


 流し込んでいた魔力を緑色に変え、改めて機人の少女へと流し込む。


 クワッと見開いていた機人の少女の瞳が穏やかなものに変わっていく。

「駄目です。この元素の魔力では不味いことになります」

 先ほどまでとは違い、機人の少女は何処か間延びしたような感じの喋り方で話し出す。


 不味い?


 うーん、黒い魔力じゃないと駄目だってことか? 贅沢な……。


 まぁ、仕方ない。ここはお望み通りにしようか。


 草の緑から黒に魔力を変える。そして機人の少女に注ぎ込む。

「そうじゃ。危うく上書きされるところだったのじゃ」

 抱えた機人の少女が不敵な笑みを浮かべている。なんだろう、呪いの人形みたいでこのまま投げ捨てたい気分になってくるな。

「えーっと、これくらいで大丈夫ですか?」

「何を言うのじゃ。まだ1%にも満たぬのじゃ。喋るだけで魔力が切れてしまうのじゃ」

 機人の少女が慌てたように喋る。


 う、うーん。


 そうは言うがね。これ以上、魔力を注ぎ続けると俺の方が魔力切れになりそうだ。何故か俺は魔力が豊富だけど、常に体に循環させている魔力に、リターンで開いている輪っかの分の魔力だからなぁ。消費量が多いんだよ。それでさらにすっごい勢いで魔力を吸われるとか……キツい。


「えーっと、ちょっと休憩させてください。魔力が持ちません」

「おぬしが体に巡らしている魔力を使えば良いのじゃ」

 機人の少女が俺の体を掴む。その瞬間、俺の体が重くなる。力が入らない。急に機人の少女が重くなったような気がする。いや、俺の筋力が落ちているのか? も、もしかして魔力を吸われている? 


 本当に呪いの人形だったのか。


 ヤバい、これ、意識を失いそうだ。


 ……もしかして、神域の深部でふらついたのって、コイツに魔力を吸われていたからか?


 抱えていた時に吸われていたのか。


「安心するのじゃ。命を奪うほどは取らぬ。おぬしの魔力の循環を正す故、わらわに任せるのじゃ」

 わらわ? さっきまでは我って言ってたような気がするが……もしかして注ぎ込む魔力で性格が変わるのか?

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