221 帝と機人

 アダーラの案内でとぼとぼとワイヤーフレームチックな世界を歩く。


 とぼとぼ。


 とぼとぼ。


 何だか妙に疲れるな。


「姉さま、どうしました? 歩みが遅いようですが、気合いが足りませんか?」

 気合いが足りないってどういうことだよ。脳の中まで筋肉が詰まってそうな人の言うことは良く分からないなぁ。


 にしても、この体は疲れ知らずで凄いなって思っていたそばから疲れ始めるとか、なんんなんだよ。意識したから疲労を思い出したのか?


「えーっと、いや、大丈夫です。さくさくっと抜けてしまいましょう」


 とぼとぼ。


 歩く。


 匂いを辿っているという話は本当だろうか。俺はそこまで臭くないはずだ。これはアダーラの勘違いなんじゃあないだろうか。迷っているんじゃあないか? と、思い始めたところで見慣れた通路が見えてきた。


 思っていたよりも歩いたな。疲れていたからそう思うのか? それとも暗闇に赤く光る線だけという状況が距離感を狂わせたのか、単純に直線距離ではなかったから遠かったのか、とにかくやっと帰ってきた。


 後は玉座の間まで歩くだけだ。


 と、少し歩いたところでふらふらと自分の体が揺れ、足がもつれ、倒れてしまう。


 あ、れ?


 自分が思っているよりも疲れ切っていた?


「姉さま、私が持ちます!」

 赤髪のアダーラが駆け寄ってくる。

「あー、えーっと、お願いします」

 仕方ない、機械の少女はアダーラに持って貰おう。そう思い起き上がろうと手を伸ばしたところで、その手を掴まれた。


 そのまま機械の少女ごと持ち上げられる。


 え?


 あれ?


 赤髪のアダーラに機械の少女ごと抱えられる。えーっと、俺も?


「姉さま、行きますよ!」

 赤髪のアダーラが走り出す。


 いやいや、足がもつれて倒れただけだから。まだ普通に歩けるくらいの元気はあるから。


 って、早い早い、速いッ!


 周囲の景色が、壁が、一瞬にして後ろへと流れていく。音が置き去りにされているような速度だ。速い。これがアダーラの世界か。そりゃあ、未来予測をしないと追えないのも分かるな。何かの技を使って一瞬で加速しているのかと思ったが素でも速いのか。何処かに加速装置でもついているんじゃあないだろうか。


 置き去りにされただろうな、と思った羽猫はちゃっかりとアダーラの肩に掴まっていた。こいつ、やるな。


 そして玉座の間が見えてくる。綺麗に整列した十一体のゴーレムと列を乱している弓を持ったゴーレムの姿が見える。だが、それだけだ。


 誰も居ないようだ。


「えーっと、アダーラ、ここでおろしてください」

「姉さま、分かりました!」

 赤髪のアダーラが玉座に俺を座らせる。いや、おろしてって頼んだけどさ、どうして玉座だよ。全裸の機械の少女を抱えたまま玉座に座らされるとか、どんな罰ゲームだよ。


「あ、えーっと……」

 まぁ、いいや。


 ちょっと疲れた。


 もう動くのも怠いから、このままでいいや。


「姉さま、どうしました?」

「少し疲れたので休みます」

 そのまま目を閉じる。


 寝よう。


 ベッドが欲しいな。座ったままだと起きた時に体が痛くなりそうだ。まぁ、でも魔人族の里の地面に直接寝転がるよりはマシか。マシだな。


 そんなことを考えながら眠る。


 ……。


 ……。


 夢を見る。


 何処かで自分が戦っている夢。俺は羽毛に包まれた巨大な竜の背に乗っている。俺の隣にはおとなしめのドレスを着た機械の少女が立っている。足元では、魔人族も、蟲人族も、天人族も、獣人族も、多くの人たちが集まり、何かと戦っている。


 それは機械の羽が生えた異形。


 まるで天使のような……。


 と、そこで目が覚めた。


 あいててっ。


 無理な格好で寝ていたからか体が痛い。


 にしても、変な夢を見たな。俺が天使のような機械と戦っていた。その俺は、この猫耳獣尻尾付きの少女の姿をしていた。夢の中でもこの姿かよ。そりゃあさ、昔の自分の姿がおぼろげになって思い出せなくなってきているけどさ、それでも夢の中でもこの姿だと、少しショックだな。まるで俺という存在がなかったことにされたような気分になるよ。


 ふあぁ。


 うん、まぁ、とにかく、よく寝たな。


 機械の少女を抱えたまま眠ったから、一緒に戦うような夢を見たのだろうか。


 周囲を見回す。


 アダーラと羽猫の姿は見えないな。


 とりあえず魔人族の里に行ってみるか。


 機械の少女を抱えて立ち上がる。そのまま開いたままになっている輪っかを抜け、魔人族の里に戻る。


「ひひひ、帝。今戻りましたよ」

「うむ。戻ったぞ」

 そこには蟲人のウェイと天人族のアヴィオールの姿があった。


「あー、えーっと、お帰りなさい」

 俺が挨拶をすると蟲人のウェイが頭を下げる。

「帝が居られるなら、ヤツらにも挨拶をさせた方が良かったかね」

「それは後で良いだろう。我は空腹だ」

 あー、蟲人のウェイたちは人を集めるって言っていたか。もう来たのかよ。早いな。


「そろそろ飯にしたいさね」

「そうですね。そろそろ作りましょうか」

 鍛冶士のミルファクが工房から出てくる。隣には鍋を抱えた猫人の料理人さんの姿もあった。


 魔人族のプロキオンと赤髪のアダーラ、獣人族の皆さんの姿が見えないな。何処かに行っているのだろうか。アダーラたちは……探索を続行しているのかな。


「ん? 帝よ、その抱えているものは……」

 人の姿になっている天人族のアヴィオールが俺の方へと歩いてくる。機械の少女が気になるようだ。

「えーっと、神域で見つけました」

「ふむ。我の知っている伝承では帝の隣には機人の姿があったとある。その機人の亡骸やもしれぬな」

 機人? 機械の人ってことか?


「ひひひ、蟲人の言い伝えには機人とやらのことは無かったね。天人族だけに伝わっているとは思えないのだがね」

 ん?


 どういうことだ?

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