208 探索開始

 さて、国に名前がないことも決まったワケで。


 次にやることは……。


「では、姉さま行きましょう!」

 赤髪のアダーラがいつ手にしたのか無双でもしてくれそうな槍を振り回し、楽しそうに微笑んでいる。


 あー、神域の探索か。そういう話もあったなぁ。


 んで、まぁ。


 俺自身がやることって農業と自分の力を高める、だよな。魔人族の里で行う予定の農業は自分の草魔法が必要になるし、自分の力を高めるといってもゲームみたいに敵を倒して経験値を溜めてレベルを上げれば良いワケじゃあないし……って、この世界では実際にレベルがあるワケだけど、でもなぁ、レベルが上がる条件はイマイチ分からないし、上がったところで手に入るのはBPだけだから……うーん。まぁ、BPを使えば、魔法は増えるし、今ならリターンの魔法のレベルが上げられるから、うん、それは便利だよなぁ。でもなぁ……。


「ね、姉さま? 早く行きましょう」

 考え込んでいるとしびれを切らしたのか赤髪のアダーラが近寄ってくる。


 探索、探索かぁ。


 俺は魔人族のプロキオンの方を見る。そのプロキオンは無言で頷く。


 あれぇ?


「えーっと、行っても大丈夫なのでしょうか?」

 魔人族の里に戻って草魔法で小麦を育てることの方が優先かと思ったんだけど違うのか。だってさ、最初の時に、プロキオンは、神域の探索はどんな危険があるのか分からないから止めるべきって言っていたような気がするんだよなぁ。

「ええ。そのような者でも帝の手足としては役に立つでしょう。罠があっても使い潰して行けば良いのですよ」

「あ、はい」

 魔人族のプロキオンはそんなことを言っている。さすがはプロキオン、考え方が酷いなぁ。まぁ、とにかく仲間が居るから探索しても良くなったってことか。


「ええ。私はその間に里の連中をもう一度しつけておきますよ」

 魔人族のプロキオンは笑顔でそんなことを言っている。そういえば、ここには四種族の長とかリーダー的存在が集まっているワケだけど、プロキオンだけは違っていたな。里の方には長が居たはずだ。


 で、しつけ、か。


 ろくなことをしそうにないッ!


 でも、まぁ、良いか。


「ひひひ、我もそちらの里に戻ってから行こうかね」

「うむ。任せるがよい」

 蟲人のウェイは里に戻って建物を作ってくれる人材を連れてくるだったか。天人族のアヴィオールもやる気だな。


「私はこの方に調理道具を作って貰いますよ」

「いや、私は盾の変わりの武器を作ろうと、さね……」

 ミルファクはこのまま調理道具を増やしてください。美味しいご飯は今後、とっても重要なのです。


「えーっと、では行きましょうか」

「はい、姉さま! さっそく叩き潰してきましょう! おい、お前ら行くぞ!」

 赤髪のアダーラを先頭に獣人族の皆さんが動き出す。皆、手に持った槍を掲げ、勇ましい。いや、本当にこの方々、脳まで筋肉で出来ているよなぁ。


 まぁ、とりあえず探索だ。


 玉座の間を抜け、三つに分かれた道まで進む。


 まっすぐ進めば神域の入り口に向かうルートだったはずだが……?


「姉さま、どちらに進みますか? 一つは透明な壁が、もう一つは開かない扉が、もう一つは次の分岐路に進みます」

 次の分岐路というのが塔に戻るルートだよな? ということは透明な壁か、開かない扉か、そのどちらかだよな。うーん、まずは扉の方に向かってみるかな。


「えーっと、扉を見てみたいのでそちらに向かってみましょう」

「姉さま、分かりました! おら、野郎ども行くぞ」

 赤髪のアダーラのかけ声に応えるように獣人さんたちが雄叫びを上げる。なんというか、普通に考えたら敵をおびき寄せるだけの行動だ。ま、まぁ、ここは神域だから、大丈夫だろう。多分、大丈夫だ。


 扉が待っているルートを進む。


 そういえば最初の時は俺を玉座の間へと誘導するように誘導灯が灯っていたけど、今は何も無いな。無いけど明るいからなぁ。うん、暗くないのは救いだな。どうやって明るくしているのかは謎だけど助かるな。きっと、魔法的な力なのだろう。多分、そうだろう。


 歩く。


 ん?


 突然、赤髪のアダーラが動く。槍を低く持ち、駆け出す。


 え? と思った瞬間には突如、目の前に連なった球体が現れた。赤髪のアダーラがそれを真っ赤に燃える槍で突く。炎の魔力を纏わせた一撃か? いや、それよりもこの球体、どこから現れた? 突然、目の前に現れたぞ?


「お前ら、叩き潰せ!」

 赤髪のアダーラが叫ぶ。


 それに合わせて獣人たちが駆け出す。それぞれ手に持った槍で突き、叩き、突く。その攻撃の殆どが球体の硬い装甲に弾かれている。だが、それでもお構いなしに突く、叩く。赤髪のアダーラの魔力を乗せた一撃も弾かれているが、お構いなしだ。


 連なった球体が動こうとするが、無数の槍がそれをさせない。


 囲んで突き、叩くだけとか、数の暴力だな。だが、うん、殆ど効果がなさそうでもさ、相手は動くことも出来ないのだから、これで正解なのかもしれない。


 何をするでもなく戦いが終わるのを待つ。


 一時間ほどだろうか、獣人族の皆さんが突き、叩き続けたことで連なる球体は動かなくなった。


 えーっと、これがゴーレムだよな? 多分、光学迷彩みたいな形で風景と同化して姿を隠していたのだろうけど、それを見破った赤髪のアダーラも凄いが、数の暴力で何もさせずに破壊した獣人たちも凄いな。


 なんというか、本当に脳筋過ぎて凄い。

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