三章 建国のススメ
207 国の名前
さて、と。
この神域を拠点として国を作ることになったワケだが、まずやるべきことがあるよなぁ。うん、とても重要なやるべきことが、さぁ!
そう!
名前だ。
国の名前を決める必要がある。
はい、皆さんご注目ッ!
重要な話がありまーす。
「えーっと、これから、この神域を拠点として皆がまとまろうとしているワケですけど、そこで、この国の名前を決めようと思います」
俺の言葉に皆が注目する。
魔人族のプロキオン。
蟲人族のウェイ。
鍛冶士のミルファク。
天人族のアヴィオール。
獣人族のアダーラ。
猫人族の料理人。
獣人族の皆さん。
とても国と呼べるような人数じゃあない。この後、魔人族、蟲人族、天人族、各種族の里の人たちが集まったとしても、ちょっとした村くらいの人数にしかならないだろう。それで多くの弱い種族の集まった偽りの人種と対抗しようっていうのだから、正直、無謀だよな。
数では負けている。圧倒的に負けている。
それでもその数で負けている四種族が、偽りの人種に恐れられて今の状況になっているのだから、どれだけ力の差があるのやら……。
まぁ、でも、俺の目標は偽りの人種の滅亡じゃあないからな。今の戦わないと駄目な状況を回避しようとしているだけだから、まだなんとかなる可能性はあるだろう。そのために、向こうの連中が持っている人種の遺産を無効化しないと駄目なワケで、となるとそれを扱えるイケニエさんたちをどうにかしないと駄目なワケで……。
って、話が逸れてしまったな。
こちらは人の数が少ないとはいえ、四つの種族が集まるんだ。しかも、魔人族のプロキオンと蟲人のウェイを見れば分かるように別に仲が良いワケじゃあないし……。
うん、四種族が揃いも揃ってプライドが高すぎるんだよ。
だからさ、集まるために重要なことがあるだろう。
それが、国の名前!
というワケで、旗印となる名前が必要だろう。
と、そこでゆっくりと魔人族のプロキオンが手を上げる。
うん? 何かね、プロキオン君。って、そういうノリか!? いや、でも、手を上げて質問をって、なんだろう、とても異世界らしくないなぁ。
「あ、えーっと、どうしました?」
「帝よ、申し訳ないのですが、それは反対ですよ」
あれぇ?
「ひひひ、我もそこの空断の意見に賛成だね。名前は不要、そう思うのだがね」
「うむ。我もそう思うのだ」
あれれぇ?
皆様、反対?
「姉さま、それは……微妙です」
赤髪のアダーラにも反対されてしまう。全て肯定してくれそうなアダーラも、だと……?
「おや、駄目なのですか?」
猫人の料理人さんだけは反応が違う。この世界の人ではないからだろうか。これはこの世界特有の反応だろうか。この世界、というか四種族特有か?
「えーっと、反対の理由を教えて貰っても良いでしょうか?」
俺の言葉を聞いたプロキオンが優雅にお辞儀をする。相変わらずサマになっていることで。
「帝よ。名前を付けてしまえば、そこに縛られてしまうのですよ。それは私たちのような集まりには問題があると思いますね」
縛られる、か。
そういえば、今更だけどさ、四種族はあまり名前を出さないよな。名乗るってことに意味がある感じだったからなぁ。
うーん。
名前を付けてしまえば、その名前に縛れることになる、か。でもさ、縛られて、何か問題があるのだろうか。縛るって言われるとなんだか悪いイメージになるけどさ、結束になるってことじゃあないか。俺としてはその方が良いと思って名前を付けようと思ったんだけどな。
でもまぁ、俺だけの国ではなく、四種族が集まっての国だから、そこは少し考えるべきか。
ん?
と、そうだ。
名前を付けないというなら……、
「うむ。我はそのまま帝国で良いと思うのだ」
天人族のアヴィオールが腕を組み、うんうんと頷いている。
無駄に偉そうなアヴィオールに先に言われたのは、ちょっとだけ負けた気になるが、アヴィオールの言う通りなんだよな。うん、そうだよ。
そうなんだよな。
それなら帝国でいいじゃん、と。
「えーっと、そうですね。名前は無しで、名も無き帝国としましょう」
これで決定だ。
名前の無い帝国。
うん。
名前がないというのが、逆に格好いいんじゃあないだろうか。
「ええ。了解です」
魔人族のプロキオンが膝を付く。合わせるように皆が膝を付き、それを見た猫人族の料理人さんが慌てて真似をしていた。ちょっと微笑ましいな。
国の名前は重要だ。
皆が言っているように、それは国の方向性を定めるものだからな。名前に縛られる。その通りだ。
だからこそ、俺たちの国は名前がない。
何にも縛られない。
だが、帝と呼ばれる俺を中心とした国だから、帝国。そこだけは決まっている。
名も無き帝国。
それが俺たちの国だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます