209 ゴーレム

 とりあえず、このゴーレムの残骸を鑑定してみようか。もしかすると何か分かるかもしれない。


 動かなくなった連なる球体の前にタブレットをかざす。

「姉さま、手をかざして何をしているのです?」

 俺の動きに興味を持ったのか赤髪のアダーラが話しかけてきた。


「えーっと、このゴーレムの情報を調べてみようと思います。少しだけ待って貰えますか?」

「さすが姉さま! そのようなことも出来るのですね! 聞いたか! お前ら姉さまが調べている間、周囲の警戒をしながら待機だ!」

 赤髪のアダーラの言葉に反応して獣人族の皆さんが雄叫びを上げる。いや、だから、敵を呼び寄せて……って、言うだけ無駄か。まぁ、今は隠れる必要があるワケでも無いし、敵が出てきたら叩き潰すだけだし、獣人族の皆さんはそういうものだと思えば、まぁ、うん。


 と、鑑定の結果は……?



 ガーダー

 レベル:1

 エスティアを守る護りに特化した真銀製の自動人形。


 んー。相変わらず情報が少ない。自動人形ってゴーレムのことか? しかもレベル1かよ。レベルってなんなんだろうな! んで、この神域の名前が表示されているけど……って、ん?


「えーっと、そのゴーレム、真銀で作られているみたいです」

 真銀って貴重なんだよな? あの謁見の間に並んでいる巨大ゴーレムも真銀製だったよな。このゴーレムが硬いのも納得か。

「姉さま! それは素晴らしい情報です! おい、誰か、コイツを運び出せ!」

 赤髪のアダーラの言葉を聞いた獣人族の皆さんが先ほどと同じように雄叫びを上げ、転がっている連なる球体に群がる。そして、そのまま全員で球体を抱え持ち、元来た道を引き返そうとする。


「おい、お前ら! 全員で行くヤツがあるか! その程度、一人で持っていけ!」

「しかし団長! 重くて一人では無理です!」

 獣人族の皆さんが連なった球体をカランという感じで地面に落とす。んー? 見た感じだと結構、軽そうだけど、そんなに重いのか?

「あ? 真銀だろ? 軽くて硬いのが売りの真銀なのに重いはずがあるかよ! ちょっと見てろ!」

 そう言って赤髪のアダーラが連なった球体を持ち上げようとする……が、持ち上がらない。

「ん、が。なんだ、この重さ!」

 赤髪のアダーラが困ったような顔で俺の方を見る。アダーラって別に非力じゃあないよな? どちらかというと怪力な方だよな? それで持ち上がらないだと。うーむ。


 貴重な真銀素材だけど、ここで獣人族の全員を使って持って帰るのは……。


 いやまぁ、急いでいるワケじゃあないから、別に一度戻っても良いんだけどさ。でも、出来ればこの先がどうなっているか見てから戻りたいというか……。


 あ、そうだ。


「えーっと、この先に進んで帰りに回収しましょう」

 そうだよ。そうすれば先を見ることも回収も出来るじゃあないか。だが、俺の言葉を聞いたアダーラは首を横に振る。


 ん?


「姉さま、駄目なのです。しばらくすると、このゴーレムは地面に吸収されて消えます」

 へ? 消える?


 あー、そういえば、アダーラたちが探索した時、小さなゴーレムに出会ったと言っていた。その時、素材を持ち帰らなかった理由って、もしかして、それか。今の俺と同じように後で回収しようと先に進んだのかもしれない。で、戻ってきたら消えていた、と。んで、次は倒した後、地面に吸収されるのを見たって感じかな。


 しかし、軽くて硬い真銀製なのに持てないほど重いってどういうことだろうな。鑑定の結果には何も表示されていないし、うーん。


 とりあえず俺も試しに持ってみようかな。


 連なった球体を掴む。ん?


 確かに持ち上がらない。重い。滅茶苦茶重い。怪力なはずのこの体で持ち上がらないとか、狂った重さだ。多分、体に魔力を流して二重に強化すれば、なんとか持ち上げられるだろう。だけどさ、さすがに持ち上げるためだけに二重強化を使うのはなぁ。その後、動けなくなるのが致命的だ。


 と、そうじゃない。そうじゃあない。


 今、俺が球体を掴んだ瞬間、微弱だが、魔力の動きを感知した。


 もしかして……?


 手を離し、もう一度、掴んでみる。


 やっぱりだ。このゴーレムに魔力が流れている。もしかして重たい理由ってそれか? 魔力を使った魔法的な力で重くなっているのか? 理由はやはり運ばれないように、か。これ、アダーラは気付かなかったようだけど、魔法の扱いが得意な蟲人のウェイだったら気付いたんじゃないだろうか。


 んで、だ。


 というこは、つまり、コイツは死んでいない。動けなくなっただけで、まだ稼働中だってことだ。赤髪のアダーラは地面に吸収されて消えたって言っていたけどさ、単純に逃げた……というか修理するために回収されただけなんじゃあないだろうか。


 となると……うーん。


 それが分かったところで今の俺に何か出来るワケじゃあない。


 こうなってくると……。


 先は気になるが、一度戻るか。


 仕方ない。


「えーっと、では、皆さんで運びましょう。一度、玉座の間に戻りましょう」

「姉さま、良いのですか?」

 まぁ、仕方ない。


 真銀の扱いに長けた鍛冶士のミルファクならなんとかしてくれるだろう。それにさ、コイツが回収されたら、修理されて、また襲いかかってくるかもしれないしな。


 急がば回れだ。

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