201 生け贄

「えーっと、良く分かりました。ありがとうございます」

「ひひひ、お安いご用ですよ」

 自分の言葉を聞いた蟲人のウェイが深く頭を下げる。


 で、だ。


「でも、ちょっと思ったのですが、ウェイの実力なら普通に倒せたのではないでしょうか?」

 そうなんだよな。あの時、一瞬しか見えなかったが、それほど脅威という感じがしなかった。余程、魔人族のプロキオンや蟲人のウェイの方が強い力の圧力を感じた。命の危険を感じるほどのさ。天人族のアヴィオールは……うん、偉そうだけど何処か抜けているから例外として……あー、でも、獣人のアダーラでも連中よりは上だと思う。


 うーん。そんなに恐れるような、必死に撤退をしないと駄目なような相手には見えなかったなぁ。あー、でも竜化していたアヴィオールが一撃でやられていたから油断できるほど弱いワケじゃあないだろうけどさ。


「ひひひ、帝の言われるとおりだと思うのだがね」

 え?

「えーっと、それでは何故……」

「ひひひ、それはイケニエたちがまだ人種の遺産を使いこなせていないだけだろうからね。そしてこれが重要なのだがね、あれらは強い者とまみえた時、命の危険を感じた時、そういった時に覚醒することがあるのだよ。ひひひ、そうなってしまうと手に負えなくなるからね」


 覚醒、か。力に目覚めて強くなるとかそういう感じだろうか。ピンチに秘められた力が目覚めるとか、もうね、まるで物語の主人公みたいだ。


 異界から来た生け贄たち。それは俺の知っている世界なのか、それとも猫人の料理人さんの住んでいた世界なのか、はたまた見知らぬ世界なのか。


 まぁ、ホント、これが物語なら向こうの方が主人公サイドだな。


 んで、だ。


 脅威となるのは正直、その人種の遺産を扱える生け贄さんたちだけってことだよな? 同郷か分からないが同じ異世界人のよしみってことで仲良く出来ないかな? 生け贄さんたちをこちら側に引き込めたら、それで話は綺麗に丸く収まるよな?


 うーん。


 俺は偽りの種族の人たちとは仲良くやっていたし、そりゃあ半分の子ということで差別されているけれど四種族みたいに敵対はしていないしさ。場合によっては生け贄さんたちの懐に潜入して様子を探るのも有りかもしれないなぁ。


「えーっと、ではアダーラが戻ってきたら、料理人さんが頑張ってくれていますし、一度食事休憩にしましょう。その時は魔人族のプロキオンや鍛冶士のミルファクを呼びます。そして皆でどうするか相談しましょう。その頃には天人族のアヴィオールも目覚めていると思いますし……」

「ひひひ、分かったよ」

 蟲人のウェイがふわりと座る。待ちの姿勢だな。


 それなら待っている間の暇つぶしにちょっとした質問をしてみるか。

「えーっと、ところでウェイ」

「ひひひ、帝よ、何かね」

 俺はこの玉座に並んでいる十二体のゴーレムを見る。


「魔人族のプロキオンは、このゴーレムが動けば何とかなるように言っていたが、本当になんとかなると思いますか?」

 蟲人のウェイが考え込むようにゆっくりと首を傾げる。


「ひひひ、今だと難しいかもしれないね。イケニエは我らの想定よりも早く力を付けてきているのだからね。せめて一体だけではなく全部のゴーレムが動けば……ひひひ、それなら話は別だがね」

 なるほど。


 そういう感じか。


 確かになぁ。


 大きいし、硬いし、強そうなゴーレムだ。それぞれが色々な武器を持っている。でもさ、一体だけでは……うーん。やはり、動くのは一体だけなのか。魔人族のプロキオンが手に入れてきた魔石は一個だけだったからなぁ。その一個もかなり大変だったみたいだし……これに賭けているプロキオンには悪いけど、無理だとしか思えないな。


 というワケで一つだけ考えというか、提案がある。


 まぁ、それで何が変わるってワケじゃあないのだけど、皆が揃ってから話を聞いて、それからだな。


「姉さま!」

 と、そんなことを考えていると赤髪のアダーラが戻ってきた。


 思ったより早かった……って、随分とボロボロだな。傷だらけ、血だらけ、腕も曲がって歩くのが辛そうな状態だ。


 おいおい、何があったんだ?


 この神域って危険が一杯状態なのか。


「えーっと、アダーラ何がありました? 敵ですか?」

 ボロボロのアダーラが首を傾げる。って、見た目の割りには意外と元気そうだな。まぁ、魔人族のプロキオンと同じように再生というか、怪我が治る種族なのだろうし、見た目ほど危なくないのかもしれないな。


「確かにちっこいゴーレムは居ましたが雑魚です! 違うのです!」

 違うのか。って、ゴーレムは居たのかよ。

「至る所に開かない透明な壁があって進めないのです!」

 うん、だと思ったよ。やはり俺が開ける必要があるワケだな。

「それで……力ずくで開かないかと全力で攻撃をしたら、それが全て跳ね返ってきたのです」


 ……。


 って、その怪我、全部、自業自得かよ!


 アダーラらしいというか、何というか。脳みそまで筋肉で出来ていそうだ。配下の獣人たちがかわいそうだな。って配下の獣人も似たような脳筋だったか。獣人族ってこんな感じの連中しかいないのかなぁ。


「あ、はい。えーっと、それでは料理人さんの料理が完成するのを待って食事にしましょう」

 では、俺はプロキオンとミルファクを呼んでくるか。


 しかしまぁ、うん。アレだなぁ。

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