202 完成?

「えーっと、では、ちょっと行ってきます」

 玉座の間に残っている輪っかをくぐり抜け、魔人族の里がある島に戻る。


 ……。


 とりあえず誰も居ないな。鍛冶士のミルファクも魔人族のプロキオンも鍛冶工房の中なのだろうか。もしかすると盾の改良が終わってゴーレムの動力になる魔石の加工を行っているのかもしれない。


 工房の中に入る。あまりにも忙しそうな感じなら食事に誘わずに帰ろうかな。


 そのまま奥の鍛冶場に入ると……居た。ミルファクとプロキオンだ。しかも、どうやら鍛冶作業は大詰めらしくミルファクの目の前に浮かんでいるテニスボールサイズの球体の周りを金色の光がぎゅいんぎゅいんと忙しなく動き回っていた。


 おー、綺麗だな。


 これがゴーレムの動力になるものだろうか。とりあえずもう少しで終わりそうだから静かに見守っていよう。


 ……。


 金色の煌めきが集まり球体の大きさがテニスボールサイズからピンポン球サイズくらいまで小さくなっていく。


 凄いな。でもさ、これ、鍛冶じゃあなくて魔力を使った錬金だよなぁ。


 そして完成した。


「これで完成さね」

 ミルファクが額の汗を拭っている。魔法でパパッと完成みたいに見えるが、実際はかなり集中力が必要な作業なのだろう。魔力も使うから精神力的な部分でもがっつり疲れるんだろうな。


 で、だ。


「えーっと、それがゴーレムの動力ですか?」

 ピンポン球サイズの金色に輝く小さな球体だ。何やら不思議な力を感じる。

「違うのさね」

 へ?


 違う?


 では、何を作っていたんだ?


「これは種火を複製した簡易炉さね」


 あ。


 そっちか。


 そういえば頼んでいたな。


「私の炉から複製したから金色だがね、そのうち帝の魔力に馴染んで色は変わると思うのさね」

 なるほど。金色なのはミルファクの魔力の色なのか。ちなみに俺の色は何色なんだろうな。ま、まぁ、この炉とやらを使っていけば色が変わって分かるか。

「えーっと、これ、このまま受け取っても良いのですか?」

「今、真銀で作った箱に入れるから待つのさね。扱いに関しては後で教えるさね」

 ミルファクが金色に輝く小さな球を四角い箱に入れる。ああ、これでミルファクが持っていた炉と同じような形になったな。サイズはかなり小さいけどさ。


「使い続けて炉の火を大きくしていけば……これで大丈夫さね」

「あ、はい。えーっと、ありがとうございます」

 ミルファクから簡易の炉を受け取る。使い方は後で聞こう。後で教えてくれるって言っていたしね。


「えーっと、それでゴーレムの動力とやらは完成したんですか?」

「終わってるさね」

 俺は魔人族のプロキオンの方を見る。プロキオンが優雅にお辞儀する。

「ええ、帝。確かに受け取っています。ところで、ここまで来られるとは急ぎの用件と見えますが、何かありましたか?」

 終わっていたのか。と、用件か。


「いや、急ぎというほど急ぎではないのだけれど、食事の用意が終わりそうだから呼びに来ただけだよ」

「それは急ぎの用件さね!」

 ミルファクが食いつく。何というかミルファクって食い意地が張っているよな。まぁ、魔人族の里ってろくな食べ物がないし、美味しいものを――いや、まともな食べ物レベルでも、か。まぁ、とにかくだ。美味しいものを食べたら虜になるのも仕方ない。


「けどさね、その前に帝には盾の具合を見て貰うさね」

 あ、それでも、完成品の動作チェックを優先するのか。そういうところは職人って感じだなぁ。


「これさね」

 ミルファクが取り出したのは盾の持ち手だけだった。


 へ?


 これが妥協をなくして完成した新しい盾?


「あの、えーっと……」

「持って魔力を流してみるのさね」

 ミルファクに言われるまま持ち手だけの代物を握り、魔力を流してみる。


 すると、そこから魔力が広がり、魔力で作られた盾が生まれた。


 おー、これは格好いい。


「逆転の発想さね。帝は魔力の操作が出来るようになったようだからね、これなら盾の大きさも自由自在、どうさね」

 ミルファクは胸を張って得意気に笑っている。


 あー、うん。格好いいし、使い勝手も良さそうだ。


 これ、ちょっと前なら有り難かったかなぁ。


 でもさ。


「あー、えーっと、良さそうです」

「うん?」

 ミルファクは俺の反応を見て眉間にしわを寄せる。思った反応じゃあなかったからだろうな。

「すいません、これを見てください」


 俺は腕に巻き付いていた茨を動かし、蕾の茨槍に変える。と、ここからだ。


――[ロゼット]――


 俺の魔法を受けて蕾の茨槍が開き盾に変わる。そうなんだよな。魔力を使って扱う盾なら、これで良いんだよなぁ。


 それを見たミルファクは苦虫をかみつぶしたような渋い顔に変わっていく。


「すいません、今更なんですが、盾は間に合ったかなぁっと」

 そうなんだよなぁ。


 盾は蕾の茨槍で充分なんだよ。どちらかというとサブに持つ武器の方が欲しい。俺の戦い方だと盾を二個持ってもなぁ。


 ミルファクは無言だ。


 無言が怖いなぁ。


「えーっと、というワケです。で、出来れば武器の方が欲しいかな、と」

「ああ、わ、分かったさね。今から作り直すよ……」

 ミルファクが鍛冶作業を始めようとする。


 あ、これ、駄目なパターンだ。


「いやいや、後にしましょう。えーっと、まずは落ち着いてご飯に、ご飯にしましょう。お腹いっぱいにして、それからゆっくり考えましょう」

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