200 こたえ

 その言い方だとまるで、もう人が居ないみたいじゃあないか。いや、そう思うのは早計か。人の支配から抜け出し対等な関係になったとも考えられるしさ。


 だけど、そうだけど、だ。


 今まで純粋な人を見なかった。見たことがなかった。いや、大陸、そうだよ、大陸には行っていない。大陸には普通の人が居たのかもしれない。


 ……。


 蟲人のウェイの話は続く。


「ひひひ、その当時、我ら蟲人は盾として使い潰されていたらしいのだがね。そして、そんな境遇から抜け出すために立ち上がり、反旗を翻したのが最初の帝だよ」

 ここで帝か。


「我ら蟲人に伝わっている話では、ひひひ、多くの種族、多くの国をまとめ、帝国を作り、帝となったとあるのだがね。そして、四つの種族に役目を与えたのだよ。それは護ることなのだがね」

「えーっと護る、ですか?」

 蟲人のウェイが頷く。


「帝の教えを伝え守ること、種族の生活を守ること、遺産を守ること、外敵から守ること、ひひひ、その四つだね」

 四つの守る項目、か。これ、四種族と関連しているのか?


「だがね、我ら四種族以外の者たちは裏切ったのさ。人種が残した遺産を自分たちのために使い、自分たちこそが人だと思い込むようになったのだからね」


 あ。


 つまり、それが偽りの種族、か。


 俺は勘違いしていた。人として認めていないから偽りの種族やもどきと言っているのかと思っていた。いや、確かにそうなんだけど、そうなんだけどさ。人種のフリをしているから、偽りの種族、もどき、なのか。


 猫の姿や犬の姿、鳥のような人、背の低い人のような者たち、色々な種族が居たはずなのに、プロキオンやウェイ、それにアヴィオールは全てをまとめて偽りの種族、もどきと呼んでいた。そういうことだったのか。だから、か。


「ヤツらはもともと多様性を求めた人に愛玩用として残されただけにしか過ぎないのに、だよ。ひひひ、ヤツらが何も力を持っていないことを哀れんだ帝が、そのような者らでも出来る役目に、と遺産を守ることだけを頼んだのだがね」

 蟲人のウェイが肩を竦める。


「えーっと、ウェイ、話の中に出てきていた人種は……」

「ひひひ、もう生き残っていないはずだね」

 やはり、か。


「人種にしか扱えぬ遺産、ヤツらはそれを管理して守ることしか出来ないはずだったのだがね」

 うん?


 もしかして……。

「えーっと、人種でなくても帝なら扱える?」

「ひひひ、そうだよ。ひひひ、帝は人種以外でありながら人種の力を受け継ぎ、その遺産が扱えるから帝なのだがね」

 だから、帝なのか。


 帝は人種の血を引いているってことなのか? 人種とそれ以外の混血だったけど、人種の道具が扱えたから、反旗を翻すことが出来た? トップに立てた? そうなのかもしれないな。


「えーっと、帝の血縁の誰かが裏切ったということですか?」

 蟲人のウェイは首を横に振る。話の感じからするとこうかと思ったんだけどな。


「ひひひ、ヤツらはもっとえげつないことをしたのさ」

 えげつない?


「ひひひ、こことは異なる世界から遺産を使わせるためだけに人種を呼んだのだよ」

 人種を呼んだ?


「えーっと、まさか、それがイケニエ?」

「ひひひ、そうだよ。ヤツらにおだてられ、騙され、人種の遺産を扱うためだけのイケニエでしかないからね」


 まさしく生け贄か。


「ヤツらはイケニエを使って我らを滅ぼそうとしているのだがね。ひひひ、ヤツらからしてみれば、同じように人種の遺産を扱える帝が恐ろしいのよ」


 そういうこと、か。


 人は――いや、この話を聞いた後だと彼ら様々な種族を人種と呼ぶのは間違っているか。ウェイたちと同じように偽りの種族とまとめた方が良いのかもしれないな。


 偽りの種族と魔人族、蟲人族、天人族、獣人族が敵対している理由はそれか。


 でもさ、それって。


「えーっと、それは帝が居なければ起こらなかった争いなのでは?」

 蟲人のウェイは首を横に振る。

「ひひひ、初代の帝の教えを忘れたものたちと我らは違うからね。我らのような力あるものはだがね、ひひひ、ヤツらに恐れられているからね。帝が居られねば我らはヤツらの扱う遺産によって滅ぼされていただけよ」


 力ない者は力ある者を恐れる、か。魔人族は人と関わらないように辺境の島で暮らしていた。それでも力がある者が存在していれば不安になり、恐れる、か。


 あー、そうか。


 偽りの種族が異界から人種を呼んだ時点で、そうなる結末しかなかったのか。だから、魔人族のプロキオンは敵対して偽りの種族を襲った。帝が居ない状況で戦う為に神域に至る鍵を探していた、そういうことか。そして、偶然にも、その力を持っている俺と出会った、と。


 ウェイが俺に従うのも――四種族が俺に従うのは、それが理由か。まぁ、獣人族はそうでもなかったけどさ。


「だから、自分に従ってくれているのですか。あー、でも、魔人族の里での扱いはあまり良いものではなかったですよ」

「ひひひ、各種族の長以外では帝の言い伝えを知らないことも多いからね、帝を軽く見ている者もいるだろうね。ひひひ、それだけの年月が経っているのだからね」

「そうです、か」

「ひひひ、それとだがね。帝は思い違いをしているようだがね、我らはタマ帝が帝だから従っているのではないのだがね。その力を感じたかこそだよ。それはあの天人族の長も同じだよ」


 俺が俺だから従ってくれている、か。


 本音かどうかは分からないけど嬉しい言葉だな。


 にしても、これ、色々と考える必要が出てきたな。


 こちらが正義かって言われると、微妙なところだけど、それはまぁ、正義なんて立場の違いだからって話なんだけどさ。だけど、偽りの種族がやろうとしていることはあまり良いことではなさそうだな。


 うーん、これ、人の遺産とやらを扱えなくして、それで仲良くやろうって話に持っていくのが正解なのか? 偽りの種族の全てが四種族と敵対しようと動いている訳じゃあないだろう、だからこそ、俺が上手くやるべきなんだろうなぁ。


 難しいな。


 それを俺が代表してやるってのも、だけど。でも、多分、四種族の側で人種の遺産を扱えるのは俺だけだろうし……。


 結局は、俺がそこまでやる必要はあるのか、って話になるんだよな。


 四種族に肩入れして味方するかどうか、か。


 はぁ。


 何だろうな、もう、答えは出ているような気がする。

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