192 反乱軍

 食後、そのまま控え室のような食堂でくつろぐ。


「私は! お前たちの分まで用意したつもりはない!」

 控え室の椅子に座りながら赤髪のアダーラが叫んでいる。スプーンだけを持って子どものように机を叩いている。

「ひひひ、我はお前を侮っていたよ」

 カレーとアイスを食べた蟲人のウェイは満足そうな表情だ。蟲人でもカレーやアイスの味が分かるんだなぁ。

「ああ。毎日でも良いくらいだな」

 天人族のアヴィオールも満足そうだ。コイツ自身が氷の塊みたいな竜なのにアイスの味が分かるのか。


「こ、このぉ!」

 赤髪のアダーラが拳を握りしめてプルプルと震えている。


「あ、えーっと、それでこの後の予定はどうするのかな」

 とりあえず料理人さんを仲間に勧誘したいな。俺がまずやりたいことはそれだ! 料理人さんの主は王様かもしれないが、俺は帝だぜ! 何となく俺の方が偉い感じだ! って、まぁ、そういう冗談は置いといて、本当に勧誘したいなぁ。


 んで、だ。


「姉さま! 決まっています。獣人王を倒します!」

 赤髪のアダーラはそんなことを言っている。私、獣人王を倒します、か。えーっと、それってさ、多分、獣人王ってさ、獣人族の王だよな。王様だよな。それを倒すってどういうことだ。下克上か。


「ひひひ、そうだね。あれは駄目だ」

 あれって獣人王だよな。駄目なのかー。

「ああ。もどきの連中を従えて王を気取っている馬鹿者だな」

 天人族のアヴィオールが嘲るような顔で肩を竦めている。

「それは……同意する! あれは私たち四種族の面汚しだ!」

 赤髪のアダーラも強く拳を握りしめている。


「ひひひ、そうは言うがね、獣人族がもどきを従えているのは今に始まったことではないと思うのだがね」

「だからこそだ! 私の代で間違いを正す!」

 何だか赤髪のアダーラは熱血している。事情があまり飲み込めないなぁ。


「えーっと、もどき……人と仲良く出来るならそれで良いのでは?」

 本当はさ、人と敵対しようとしている皆の前でこれを言っては駄目なのかもしれないけどさ。でも、俺は思うんだよな。仲良く出来るならそれが一番だってな。人の姿に獣耳、獣尻尾の自分は、まぁ、人の間であまり良い顔はされなかったさ。でも、リンゴとかさ、ちょっとムカつくけどあの犬頭の門番とかさ、俺を受け入れてくれる人は居た。悪くなかったんだよな。


「ひひひ、帝はお優しいね」

 蟲人のウェイが俺の方を見る。その顔に俺を馬鹿にした様子はない。俺、虫の頭を持ったウェイの表情が分かるようになっているよ。それだけ馴染んだということかな。

「えーっと……」

「ひひひ、我らとて争わなくて済むならそれが良いのだよ」

 え?

「ああ。でなければもどきに任せて静かに暮らしたりはしないな」

 ん?


 予想外の反応だ。魔人族のプロキオンも同じ考えなのかな。どうかなぁ。あいつの場合はとりあえず殺しとくか、みたいな性格をしているからなぁ。


「ひひひ。獣人族の王都を見れば、心優しい帝も考えが変わるだろうがね」

「一部のもどきどもに! 私たちの槍の技術を教えて特権階級にするなど! 許されることではない!」

「ひひひ、赤毛の、帝が言っているのはそういうことじゃないと思うのだがね」

「なんだと!」

 あー、うん。そうだね。


 意外にもウェイの方が俺のことを分かってるよ。


 にしても、獣人族の王都か。獣人族は、このくっそ寒い大陸に追いやられているのかと思ったけど、どうも違う感じだな。


 これ、多分だけどさ、赤髪のアダーラたちって反乱軍的な感じなんじゃあないだろうか。そして、彼女たちが、この雪国に追い込まれている。そういう感じだろうか。


「えーっと、それでこれから、その獣人族の王都に向かうんですか?」

 蟲人のウェイは首を横に振る。


 違うのか。


「む? 行かぬのか。我ならば、ここの者たち全てを運んで、すぐにでも王都に向かえるが?」

「ひひひ、だからこそだよ」

「どういうことだ?」

 天人族のアヴィオールが首を傾げている。


「ひひひ、ここで一度休憩するのさ」

「我はまだまだ余裕があるぞ」

 天人族のアヴィオールはさらに首を傾げている。そのまま首がもげそうな勢いだ。


「ひひひ、我らは余裕があっても、そこの赤毛と帝はそうではないからね」

 あー。


 なるほど。


 確かにそれは助かる。


 俺は魔力を纏わせた影響で足と指が動かなくなっているからなぁ。


「私は! まだ後一回は使える!」

「ひひひ、後一回しか使えない、だろう?」

 おー、あの巨大な炎の狼になる技か。そうポンポンは使えないんだな。良かった、良かった。


「ああ、なるほど。それなら分かった。だが、良いのか? あまり時間は無いのではないか?」

「ひひひ、そうだね。あまりぼやぼやしていると力を付けたイケニエどもに獣人王をやられてしまうかもしれないからね」

 蟲人のウェイはそんなことを言っている。


 まぁ、良く分からないがゆっくりは出来そうだ。


 それなら新しい槍の使い勝手でも確かめるかな。

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