183 行き先
さて、と。
「なんと、ひひひ、この先にあるのが神域とはね。神域とは……ねぇ」
「ああ。我も驚いている」
蟲人のウェイと天人族のアヴィオールが仲良く輪っかをのぞき込んでいる。
「空断よ、ひひひ、これは聞いてなかったのだがね」
「ああ、我も驚いている」
天人族のアヴィオールは驚いているようだ。二回も言うくらいだからな、とても重要なことなのだろう。
「ええ、これが帝の力ですよ」
何故かプロキオンが得意気だ。これ、俺の魔法だよな。俺の力だよな。何故、プロキオンが得意気なんだろうね。
まぁ、いいさ。
「えーっと、それで……」
「ええ。帝よ、分かっています。ゴーレムの起動は帝にやって貰いますよ」
得意気なプロキオンがそんなことを言っている。いや、俺は別にゴーレムの起動がやりたいなんて言ったことは無いからな。
「いやいや、えーっと、そうじゃあなくて、いや、まぁ、それもあるんだろうけどさ、魔石の加工が終わるまでどうしようかな、と思ったんですよ」
そうなんだよな。まぁ、確かにゴーレムの起動とやらは見てみたい。俺が居ない時に勝手に起動されたら、ちょっと悲しいよなぁ。まぁ、リターンの魔法を消してしまえば、神域には誰も行けなくなるのだろうけどさ。塔から行くにしても、それも俺が居ないと駄目だろうからな。まぁ、もしかすると、他に何か手段があるのかもしれないけどさ。
「なるほど。ええ、そういうことですか」
プロキオンが腕を組み考え込む。そういうことって、どういうことだよ。鍛冶士のミルファクはプライドが高そうだからな。こういう展開でも魔石の加工を優先してくれる……なんてことは無いだろうなぁ。まずは気が済むまで盾を作り直し、んで、俺用に炉を複製して……それからか。うーん、こうなると炉が欲しいって言ったのは失敗だったか。欲しいって言った俺が順番を変えてくれって言ってもミルファクは聞いてくれそうに無いからなぁ。
さて、これからの予定だな。プロキオンは自分で言っていた通り、ここで魔石の加工まで待機だろう。
となると、俺は……魔獣退治かなぁ。それでレベルが上がれば儲けものだし、何か有用そうな素材とか魔石が手に入ればミルファクが加工してくれるかもしれないし、そういう情報は蟲人のウェイが知っているかもしれないし、うん、それで行こう。
「えーっと、それでですね。その加工が終わるまで時間があるので……」
「ひひひ、そういうことなら帝は獣人族を配下にするべきだね」
へ? 何がそういうことなのだろう。
「いや、えーっと……」
「うむ。それは良い。そうすれば伝承と同じように帝の下に四種族が集うことになる」
いやいや、そこの翼の生えた優男さん、何を勝手に話を進めているんですかねぇー。
「ほう。そうさね、十日もあればそこの魔石の加工も含めて全て終わらせておくさね」
何故かミルファクがやる気を出している。いや、それなら先に魔石の加工をちゃちゃっと終わらせてくれよ。
「ひひひ、帝の力があれば獣人を配下にするなど十日で充分よ」
いや、だから、何でそれをウェイが言うのかな。おかしいよな、おかしいよね。
いや、ホント、俺、巻き込まれすぎじゃあないか。流されすぎだよなぁ。なんで、こんなことになっているんだよ。いや、まぁ、力が手に入るのは嬉しいしさ、コイツらが、心から帝に忠誠を誓っているのは分かるよ。そこは間違いないだろうさ。でも、俺は微妙に軽んじられているというか、俺の意思を無視されているというか、いや、まぁ、良かれと思ってやってくれているんだろうけどさぁ!
俺の鍋料理を、俺が食べる前に食べ終えちゃうしさぁ!
「うむ。それでは我が動こう」
って、ん?
天人族のアヴィオールが俺の体を掴まえ、空へと放り上げる。俺は、いきなりの行動に反応が出来なかった。俺の体が宙を舞っている。
へ? いやいやいや!
そして、アヴィオールの体が膨れ上がる。蒼い竜へと姿を変えていく。放り投げられた俺の体が蒼い竜の背中にぽふっと落ちる。
「いや、えーっと……」
「ひひひ、我も行こうかね」
蟲人のウェイが浮遊するように飛び上がり、俺の横に着地する。
「なーう」
いつの間にか羽猫も俺の横に来ている。いや、だからね。
『うむ。では、行くぞ』
蒼い竜が翼をはためかせ飛び上がる。いやいや、俺は行くとか言ってないじゃん!
空を飛ぶ。
あっという間に島が小さくなっていく。このクソ竜、くっそ早いなぁ。プロキオンの鳥も凄いと思ったけどさ、巨大な竜だけあって速度が全然違うな。って、そうじゃあない、そうじゃあない。また流されようとしていたぞ。
『それで何処に向かう? 獣人どもの国の中心か?』
蒼い竜が羽ばたきながら顔をこちらへと向ける。ほー、首が長いとこんな器用なことも出来るんだなぁ。
「ひひひ、ふぬけどものところには行かぬよ。向かうのはあの赤毛の小娘のところよ」
『なるほど、それは良い』
蒼い竜がさらに速度を上げる。
……。
おいおい、俺は会話について行けないんだが!
にしても早いな。時速数百キロくらいは出ているんじゃあ無いだろうか。海が、雲が一瞬にしてびゅんびゅんと後方に流れていくからなぁ。怖いなぁ。これ、落ちたら大変なことになるよなぁ。
どれくらいの時間、空を飛んだろうか。
やがて大陸が見えてくる。
雪に覆われた大陸だ。いやいや、雪とか聞いてないぞ。俺、滅茶苦茶薄着だからさ。寒さで凍死するぞ。最初に言えよ。雪国に行くって分かっていたらミルファクから防寒具を譲って貰っていたよ!
周囲の気温が下がっているようだ。
寒い。
滅茶苦茶寒い。
両腕を抱え、摩る。寒い。洒落にならない。
「帝よ、ひひひ、体に火か水の魔力を纏わせれば寒さは気にならなくなるよ」
蟲人のウェイが笑いながら教えてくれる。そういえば、ウェイって蟲だよな。寒さに弱そうな姿のくせにローブ一枚でも平気そうだ。
……。
ウェイをよく見てみると、体を覆うようにうっすらと火の魔力の膜が見えた。これが寒さを弾いているのか。
見れば蒼い竜も水の魔力に覆われている。
……。
コイツら卑怯だぜ。自分たちはしっかりと完全防備してやがる!
俺は水も火の魔力も扱えないぞ。扱えるのなんて草と時と……火燐?
そうだ、火燐属性で何とかならないか? 火燐も火と似たようなものだよな。
俺はウェイを見て、その姿を真似る。周囲の魔素を魔力に変換し火燐の魔力を発動させる。それを体に纏わせていく。
で、出来た。火燐属性だから無理かと思ったが、何とかなりそうだ。
これで寒く……いや、熱いくらいだ!
『おい、背中で何をやっている。熱いぞ、おい、熱いぞ!』
蒼い竜が泣きそうな声で叫んでいる。
うーん、ウェイのようにうっすらと纏わせるというのが出来ない。難しい。それに、火の魔力じゃあ無いからか、火力が強すぎる。熱いんだよ。ホント、熱いんだよ!
仕方ない。ちょっと、部分部分で発動させるような感じにするか。イメージ的にはカイロをポケットに入れているような、暖房器具を目の前に置いているような、そんな感じだ。にしても、これ常に魔力を消費するから大変だなぁ。意識しないと魔力が霧散して消えちゃいそうだしさ。
ウェイとアヴィオールを見る。
この二人、無意識のうちにそれが出来るくらいまで習熟しているってことだよな。やはり、この二人凄いな。実力は凄いんだよな。
「なーう」
羽猫は毛皮に覆われているからか、寒さが平気そうだ。
はぁ、お前は良いよな。
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