182 未来視
これがリターンの魔法の効果、か。ある程度、そう……ある程度、予想通りだったかもしれない。
蟲人のウェイが教えてくれたことでリターンの魔法の効果が分かったというワケじゃあない。それとこれは話が別だ。
だけどさ、魔法のことが少し分かった。もし、何かあったとしても何とか出来るんじゃあないだろうか、そう思ったんだよな。
だから、構わずリターンの魔法を使った。
そして、それに関連して少しだけ予想を立てていることがある。
このタブレットに表示されているのは――もしかすると俺に分かるよう翻訳されて表示されているのではないだろうか、ということだ。もちろん、俺自身の解釈の違いや思い違いで間違っていたということもありえそうなので、素直にそのまま信じるのは不味いかもしれない。
だが、何となく、そう何となくだが、これは俺に分かるように、俺がそう思うであろう単語を選んでいるんじゃあないだろうか、という気がする。
まぁ、その選んでいるのが誰かという話になるのだが……誰なんだろうな。
神様か?
俺をこの世界に連れてきた誰かとか、この世界で死んだ後に転生させた誰かとか……いや、だが、俺がこのタブレットを手に入れたのは偶然だ。
うーん。
まぁ、考えている場合じゃあないな。
まずは行動しよう。
タブレットを操作してヴィジョンという魔法も取得しておく。これで不意のレベルアップで獲得したBPは『0』になった。空っぽだ。だが、BPの消費はもう痛くも痒くもない。今はまだ無理だが、そのうち、BPを消費して取得しなくても魔素から魔法を発動させることが出来るようになるだろう。そう、習得しなくても使えるようになるだろう。
いや、出来るようになってやる、だな。
「帝よ、これは? 私の空間魔法に、ええ、とてもよく似ているのですよ」
魔人のプロキオンが突如現れた輪っかを見てそんなことを言っている。
輪っかの先に見える場所――確かに空間魔法に似ているのかもしれない。何故、これが時魔法なのか。時間と空間、時空を超越する力だからかなー。
まぁ、いいさ。
入ってみれば分かることだ。
輪っかは人が普通に通り抜けられるくらいの大きさがある。ちょっとした姿見みたいな感じだな。
その輪っかにぴょんっと入る。
入った先にあったのは玉座だった。石を削り出しかのような玉座が見える。
ここは神域にある玉座の間だろう。十二体のゴーレムたちも並んでいる。
そうか、玉座の間への直通か。うーん、繋がっているのが玉座というのはどうなんだろうなぁ。もっとエントランスとか、そういう場所の方が――いや、ここがそうなのか?
玉座の間の中央に輪っかが浮いている。先ほど俺が通り抜けた輪っかだろう。輪っかの向こうに見えるのは……工房だ。
輪っかは消えない。どうも少しずつだが、この輪っかの維持のために俺の魔力を吸い取られているような気がする。
……もしかすると、俺の魔力が空っぽになるまでは維持されるのだろうか。
こちらから輪っかをくぐり抜ける。
そこは工房だ。
「帝よ、何処に……いや、ええ、これこそが帝の力です」
「ひひひ、何やら面白い力を感じるね」
「これは何をしているのだ」
「なーう」
「あー、これは何さね」
輪っかをくぐり抜けて出てきた俺を皆が驚いた顔で見ている。
輪っかは消えない。
さて。
次は実験だ。
――[リターン]――
もう一度、リターンの魔法を発動させる。
先ほどまであった輪っかが消え、新しい輪っかが生まれる。その輪っかの先はやはり神域の玉座の間に通じているようだ。
……。
なるほど、そういう感じか。
となると、これ、もしかして、リターンのレベルが上がると設置できる数が増えるとかだろうか。うーん、その可能性が高いなぁ。となるとヴィジョンを取ってしまったのは失敗だったか。どう考えてもリターンの設置出来る場所が増えた方が便利だからな。
まぁ、設置しているだけで魔力を消費するから、あまり数が増えすぎるのも問題か。俺は素で体の強化に魔力を使っているし、魔法の発動にも、二重強化にも魔力を使うから、常に消費し続けるのは……まぁ、消費量次第か。魔力の回復量が消費を上回っているなら気にする必要がないんだけどなぁ。
と、次はヴィジョンの魔法を試してみるか。
――[ヴィジョン]――
未来像の魔法が発動する。その瞬間、世界の動きが止まった。いや、違う、まるでコマ送りのように残像が、プロキオンやウェイ、アヴィオール、ミルファクたちが重なって、いや、風にそよいでいる木々も、全ての動きが重なっている。視界に映る情報量の多さに頭が痛くなる。
頭がおかしくなりそうだ。
それは実際には一秒か二秒程度の時間だったのだろう。だが、自分には耐えられないほど長く感じられる時間だった。見えていた映像が戻り、コマ送りのような残像が消える。そして、その見えていた残像の通りに、皆が、世界が動く。
未来予知。
多分、これは数秒先を見通す魔法だ。
……。
これ、使えるか?
ちょっと使いどころがない気がする。いや、だってさ、数秒先だぞ? これが危機的状況で勝手に発動するようなスキルだったら問題なかっただろう。だが、自分で発動させないと駄目となると……微妙すぎる。まぁ、自動発動だと俺の脳みそが耐えられなかっただろうけどさ。いや、でもなぁ。これが数分先とならまだしも数秒かぁ。
ホント、微妙すぎる。
はぁ、やはりリターンを『2』にあげるのが正解だったか。まぁ、取ってしまったものはしょうがない。
時魔法も割と微妙なラインナップだよなぁ。使えるのはリターンくらいだろうか。といっても神域に戻るだけなんだけどさ。何も無い、神域に、だ。リターンが『2』まで上がっていれば、そこを中継地点として使えたんだが、ホント、失敗したなぁ。
まぁ、でも、これで検証は終わりだな。
「えーっと、これは神域に戻る魔法です。プロキオン、魔石の加工が終わったら、この魔法を使ってゴーレムを起動させましょう」
「ええ、もちろんです!」
魔人のプロキオンが嬉しそうな顔でとーっても優雅なお辞儀をする。サマになるねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます