181 魔法?

 リターンの魔法を取得するとして、残りのBP『1』はどうしようか。普通にヴィジョンの魔法を取得するべきなのかなぁ。

 まぁ、後は普通にリターンの魔法の効果が分からないのが不安だよなぁ。


 んー。


 腕を組み、悩む。


「帝よ、どうされたのですか?」

 俺を無視して魚鍋を食べきったプロキオンがそんなことを聞いてくる。どうしたじゃあねえよ。なんで俺の鍋料理を全て食べちゃうかなぁ。


 ……。


 いや、そうじゃあない。


 魔法の効果?


 聞いてみれば良いじゃあないか。


 ここに集まっている三人……ミルファクを入れれば四人か。


「なう」

 羽猫も入れれば四人プラス一か。って、話が逸れそうだよ!


 この四人プラス一は何の因果か俺に協力してくれているし、そりゃあ、こちらをからかうような態度を取ってくることもあるけどさ、それでも、恐ろしい力を持った連中だ。


 聞けば、色々と教えてくれるんじゃあないだろうか。


「えーっと、リターンという魔法やヴィジョンという魔法を知っているだろうか?」

 思い切って聞いてみた。そうだよな、俺は別に彼らに能力を隠しているワケじゃあない。うん、聞くのが一番だったな。


「ええ。それは――」

「ひひひ、空断待つんだよ」

 何かを言いかけたプロキオンを蟲人のウェイが止める。プロキオンは少しムッとして不機嫌な感じだ。ホント、君ら仲が悪いよね。


「帝よ、ひひひ、これを見て欲しいのだがね」

 ウェイがローブの袖から細長い腕を伸ばす。その枯れ枝のような指に火が灯る。


「えーっと、それは?」

「ひひひ、火属性の基本魔法と呼ばれているファイアの魔法だね」

 ファイアの魔法? へー、それが基本なんだ。


「蟲人よ、帝に何を!」

 それを聞いたプロキオンが何故かウェイに食ってかかっている。だが、それをウェイが再度手を動かし、待てと制していた。


「この中では我が一番魔力の扱いが上手いからね、待つんだよ。ひひひ、次はこれだがね」

 ウェイの手に灯っていた火が動く。細く矢のように伸び、その指から放たれる。

「ひひひ、ファイアアローと呼ばれる魔法だね」

 確かに火が矢のように飛んでいたな。プロキオンは何か言いたそうな顔でウェイを見ている。


 そして、次にウェイはバスケットボールサイズの火の玉を作り出した。

「ひひひ、これはファイアボールの魔法だね」

 へー、確かに。これは漫画やゲームでよく見るような火の魔法だな。


 そして、ウェイはさらに火の玉を大きくする。どんどん大きくする。大きいな。どんどん大きくなる。


 いやいや、ちょっと待て、ちょっと待て、大きくなりすぎじゃあないか。人が丸ごと飲み込まれるほど巨大な炎が生まれている。


「ひひひ、これは偽りの連中がプロミネンスと呼んでいる上位魔法なんだがね」

 ウェイが、その巨大な炎を森に向けて放つ。巨大な爆発が起こる。だが、それは見えない壁によって閉じ込められていた。こちらまで爆発の余波が届くことはない。

 俺はプロキオンを見る。まぁ、普通にプロキオンが空間魔法で爆発を封じ込めたのだろう。


 にしても、凄い魔法だな。草を生やすことしか出来ない俺とは大違いだ。これでウェイは火属性に関してはそこそこなんだろ? まったく嫌になるよ。


「ひひひ、帝よ。どうだろうかね?」

 ウェイが笑いながら俺を見ている。魔力の扱いが得意なだけあって凄いな。うん、凄いとしか言えない。そりゃあ、魔力で生み出した黒い蟲で里を覆うようなレベルの使い手なんだからな、これくらいは当然か。


 でもさ、そんな魔法を見せられてどうなんだ、っていう話だよな。それがリターンの魔法やヴィジョンの魔法の効果の説明に繋がるとは思えないんだけどさ。


 突然なんなんだろうな。

「えーっと、それが……」

「さて、ひひひ、帝は勘違いしておられる」

 ん?


「帝は偽りの連中に毒されているようだから、本当のことを言うがね、先ほどの魔法は全て同じ火の魔法なのさ」

 え?


 どういうことだ?


「偽りの連中は、形を成した魔力を安定させるために言葉で縛り付けるがね、どれも同じものでしかないのさ。まぁ、そこの空断も使い勝手を良くするためにか、同じようなことをやっているようだがね。ひひひ、帝よ、こういうことも出来るのだがね」


 蟲人のウェイが骨のような指を鳴らす。


――[ファイアアロー]――


 ウェイの目の前に炎の矢が生まれ、放たれる。


 え?


「ひひひ、これは火の魔力を矢の形で飛ばすために安定させただけなんだがね。あの連中はこれが魔法だと思っているのさ」


 え?


 え?


 ちょっと待って、ちょっと待ってくれ。もしかして、ウェイは凄く重要なことを教えてくれているんじゃあないか。


「えーっと、ちょっと待ってください。考えをまとめます、ちょっと待てください」

 火の矢みたいなのも火の玉も、あの爆発する巨大な炎も、全部、同じ?


 全部、同じ魔法?


 呪文は効果を固定するためだけ?


「帝よ、ひひひ、魔力の扱いに長ければこういうことも出来るんだよ」

 蟲人のウェイが骨のような指を鳴らす。ここまでは先ほどと同じだ。多分、これ、プロキオンを皮肉って真似しているんだよな?


――[ファイアアロー]――


 先ほどと同じ炎の矢の呪文が発動する。


 だが、ウェイの前に生まれたのは矢ではなかった。炎の柱が生まれている。


 全然違う魔法だ。


 なんで?


 いや、分かっている。分かっているけど。


 俺が今まで信じてきていたものが崩れ落ちそうだ。


――[サモンヴァイン]――


 とりあえず草を生み出す。魔法の言葉とともに草が生まれる。いつもと変わらない。いつも通りの魔法だ。


 ……。


 俺は自分の中の魔力を操作する。草の属性の魔力をより分け、目の前の魔素が草になるように変換させていく。魔力を扱える今の俺なら出来るはずだ。


 ウェイが実演してくれた。俺は理解した。だから、出来るはずだ。


 魔力を操作する。


 そして、操作し変換した草の魔力は姿を変え、草になった。草が生えた。だが、その草は普段自分が発動させているサモンヴァインの魔法で作ったものよりも不格好で今にも枯れそうな歪なものだった。


 だが、作ることが出来た。


 発動させることが出来た。


 は、はははは。


 どういうことだよ!


 つまり、魔法の言葉は魔法を安定させるための補助輪――歩行器のようなものでしかなかったということか。


 完全に騙されたよ。


 となると……。


 俺はリターンにBPを振り分ける。


――[リターン]――


 リターンの魔法が発動する。時魔法の魔力の流れを読み切っているので危険がないのは分かりきっている。


 はぁ、なんだったんだろうな、俺の葛藤は。


 空間が歪み、そこに輪っかが生まれる。輪っかの向こう側は何処かで見たことがあるような場所だった。

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