178 鍋料理
「改めて名乗らせて貰う、我の名前はアヴィオール、天人族の長の一人だ。若き帝よ、我も忠誠を誓おう」
天人族の優男が跪き頭を下げたまま、ちょっと偉そうな感じでそんなことを言っている。何だか尊大なんだよなぁ。天人族というのがそういう性格の種族なのか、それともこの偽蒼竜の性格なのか。
「あ、えーっと、タマです。よろしくお願いします」
天人族の優男が顔を上げ、にこりと笑う。キラりんとか擬音がついてそうな笑顔だな。
……。
正直、少しキモいかも。いや、見かけで判断してキモいなんて言っては駄目だな。
「まう」
羽猫が自分も自分もと言わんばかりに鳴いている。いや、なんでお前が……って、この羽猫、言葉が分かるのか? 本当に何なんだろうな。
さて、と。
魚は四匹か。一人一匹と考えたらこれで大丈夫か。
「まーうー」
俺の足元まで駆け寄ってきた羽の生えた子猫が悲しそうな声で鳴いている。そうだよな、お前の分も必要だよな。
って、ん?
……。
ま、まさか、コイツ、俺の心の声を読んだのか?
俺は足元の羽猫を見る。
「ぬあ?」
羽猫が可愛らしく首を傾げている。可愛いな。うん、可愛いポーズだ。
だが、だ。
正直、あざとい。
何だろうな、天人族の優男といい、この羽猫といい、自分がどう見られるか分かっていて、それを活用しているようなあざとさを感じる。
俺は騙されないぞッ!
……。
と、まぁ、それはそれとして足りない分の魚は獲ってくるか。草紋の槍から四匹の魚を引き抜く。まだ生きているのか砂浜でびちびちと跳ねている。
「あ、えーっと、その魚が逃げないように見ていてください」
「ええ。帝よ、お任せください」
プロキオンがそう言うと同時に四匹の魚の頭が切断された。んお? 魔力の流れを感じたからプロキオンが切断したんだよな? いや、確かに逃げないようにって言ったけどさ、だからって頭を切断するか? うん、そうだよな、死ねば逃げないよなぁ。
……。
あー、そうだ。
「えーっと、プロキオン、空間にその魚を保管出来ますか? 出来れば落とした頭も保管してください」
「え。ええ。可能です。ですが、魚をですか?」
プロキオンは少し嫌そうだ。魚に触れるのが怖いのだろうか。
「はい、お願いします」
「分かりました」
砂浜に転がっていた魚が消える。プロキオンが空間にしまったのだろう。ホント、便利な能力だよなぁ。能力ではなく魔法か。まぁ、どちらにしても便利だよな。俺も使えるようになりたいぜ。
海に戻り、魚を獲る。ついでにワカメも回収しておく。海草もゲットだぜ。
さて、と。
浜辺に戻る。
「ふむ。さすが帝だ」
「なう」
天人族の優男が偉そうに頷いている。その横では羽猫が楽しそうに頷いていた。
「えーっと、プロキオン、これもお願いします」
「え、ええ。分かりました」
やはり、少し嫌そうなプロキオンが魚の頭を落とし、回収する。
「帝よ、この魚をどうするのですか?」
嫌そうな顔のままプロキオンがこちらを見る。
「えーっと、とりあえず先ほどの工房に戻りましょう」
魚醤は工房に置いているからな。
「ええ。とりあえず了解ですよ」
「ひひひ、もう戻るのですね」
「うむ。それが良いだろう」
「なーう」
各々が好きな言い方で頷く。
……。
うん、まぁ、帰るか。
三人プラス一匹を連れて工房に戻る。
さて、と。
「帝よ、どうするのです?」
まずは、と。
――[サモンヴァイン]――
――[サモンヴァイン]――
――[サモンヴァイン]――
草を生やす。
と、その上にフライパンもどきを乗せて……。
「プロキオン、この上に魚を出して貰えますか?」
「帝よ、了解です」
フライパンの上にボトボトと魚の胴体と頭が落ちてくる。うお、フライパンがあふれそうだ。それに、ちょっと、このまま調理するのは不味そうな感じだ。
「うーん」
腕を組み、悩む。
「ひひひ、帝よ、どうしたんだい?」
蟲人のウェイが聞いてくる。
「あ、えーっと、魚の量に対して、このフライパン……調理器具が小さかったな、と。出来れば土鍋のような、こう、深く水がたまるような鍋が欲しいかな、と。後は水ですね。さすがに魚は下ごしらえをした方が良いかな」
頭を落としただけの魚を調理するのはさすがに不味い。
「ひひひ、なるほど。その鍋とやらは任せて欲しいね」
「うむ。それならば我が水を何とかしよう」
ん?
「帝よ、これで良いか?」
天人族の優男アヴィオールの前に水玉が浮かぶ。お?
「えーっと、これは触れても大丈夫な物ですか?」
「うむ。触れれば球は弾け、水として流れ落ちるだろう」
お?
おお!
試しに触れてみる。ポンと水の球が弾け、中の水がざばぁっとゆっくり広がる。お、おお! これは蛇口を捻って水を出したみたいな感じで使えるぞ。
「えーっと、それでは、それを何個もお願いします」
俺の言葉に応えるようにアヴィオールが次々と水の球を浮かばせる。
おー、凄い、凄いぞ。これで水を汲みに行く手間が省ける。
水の球に触れナイフを洗い、魚の下ごしらえを行う。鱗を削って落とし、内臓を取って、血を洗う。
「ひっひひひ、では次は我の番かね」
ミルファクが両手を伸ばす。袖の長いローブから細い骨のような腕が覗く。
そして土が盛り上がり、何かを形作っていく。
何か?
それは鍋だ。
土を固めて作った鍋だ。
お、おお!
鍋を作る魔法、だと。その土の鍋が一瞬にして炎に包まれる。炎によって土鍋が焼かれ固まる。
「ひひひ、土の扱いなら任せて欲しいね」
蟲人のウェイが笑っている。何処か得意気だ。
凄いぞ。
みんな凄いぞ。
「あ、えーっと、この草の周りに土で台を作ることは出来ますか? その上に、この鍋を置いて、下から火をかけようと思います」
「ひひひ。お安いご用だよ。土の扱いは得意だからね。火もあやつほどではないが、そこそこなら得意よ」
ウェイが土の土台を作る。
ホント、凄いじゃん。
その土台の上に鍋をのせる。
天人族のアヴィオールが生み出した水を入れ、そこに下ごしらえをした魚を入れる。
「プロキオン、海草をお願いします」
「お任せを」
プロキオンが空間から取り出した海草を切って鍋に突っ込む。
「ウェイ、火をお願いします」
「ひひひ、お任せくだされ」
鍋に火を点ける。
魚醤を入れて味を調える。
……。
完璧じゃあないか。
火の点いた鍋の横では羽猫がゴロゴロと踊るように転がっていた。あー、美味しくなる魔法でもかけてくれているのかな。でも、土埃が舞うと不味いから大人しくしていてくれ。
「皆さん、ありがとうございます。皆のおかげでシンプルなものですけど鍋料理が完成できそうです」
凄いぞ。
みんな、凄い能力だ!
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