176 たねび
「えーっと、これ、自分が使ってみても良いでしょうか」
動揺し、何故かそのまま炉をしまおうとしているミルファクに話しかける。
「あ、ああ、それは構わないのだがね」
言ったな。ほう、それは許可されたと見なすぜ?
……。
そのミルファクが何かに気付いたかのようにハッとこちらを見る。
「いや、しかし、うむ。うーむ。だが、だがね、まずは盾の作り直しが先さね」
もしかするとミルファクはあまり炉を他の人に使わせたくなかったのかも知れない。いや、もしかしない、な。使わせたくないのだろう。だが、まぁ、一度言ってしまったものは……といってしまうのは少し卑怯か。
不意打ちで言質を取ったって言い張るのは……まぁ、確かにそうしようかと思ったけどさ、これからも関係が続くことを思ったら、な。
「えーっと、ちなみに、その炉というのは何処で手に入りますか?」
まぁ、あのノアって名乗った謎の少女がやったように魔石を使って加工出来るようになったら、炉とやら必要無くなるのかもしれないけどさ。でも、その炉を使った鍛冶とやらがどういう感覚なのか試してみたいしな。
「材料があれば炉の複製は出来るさね」
「えーっと、複製ですか?」
ミルファクが頷く。
「真銀があれば可能さね。正確には種火の受け渡しだがね」
真銀? 確かリンゴの持っていた斧がそうじゃあなかったか? 今からリンゴを探して譲ってくれるように頼んでみるか?
……。
って、それは駄目だよなぁ。どう考えても、その真銀とやらを素材として活用するって話だろうし――そうなると斧を溶かして金属にしないと駄目だよな。それを頼むのはなぁ。
って、いや、待てよ。それよりも手っ取り早いことが……。
「えーっと、ミルファクはその真銀とやらを持っていませんか?」
そうだよ。持っていてもおかしくないよな。
「あるのだがね、今から炉を複製しても、一から種火を育てることになるから最初は大したものが作れないのさね。それでも良ければ、だがね」
あるのか。
ん?
でも、一から育てる?
種火を分けて作った新しい炉は元の炉より劣化するってことか? それって複製って言えるのだろうか。まぁ、でも作って貰えるならそれでも良いか。
「それでも大丈夫です。えーっと、その炉の複製をお願いできますか?」
「まぁいいさね」
ミルファクが肩を竦め、頷く。
「ちなみにそれって……」
「炉の複製くらいはタダで良いさね」
「あ、いや、そうじゃあなくて、それも有り難い話なんですけど、この鍛冶のやり方って一般的なものなんですか?」
そうなんだよな。ちょっとそれを聞いておきたかったんだよな。
「似たようなやり方が伝わっているかも知れないがね、私のやり方が正統なのさね」
正統?
この世界での正しい鍛冶のやり方ってことか? いや、でも、そうなると、あのノアって謎の少女がやったやり方はどうなんだ?
……。
だから、ミルファクはショックを受けていたのか。
「で、えーっと……」
「待つのさね。炉の複製は盾の作り直しが終わってからさね」
あー、それがあったか。まぁ、でも頼めば……。
「お待ちください!」
と、そこに扉を開けてプロキオンが入ってくる。外の話し合いは終わったのか?
「魔石の加工を優先して欲しいのですよ」
あー、それ、まだ終わっていなかったのか。とっくに終わっていると思ったが、何か問題でもあったのかな。
「勝手に入ってくるんじゃないさね」
「しかしですね……」
「盾の作り直し、その後、炉の複製、魔石の加工はそれからさね」
ちょっと怒ったようなミルファクが俺とプロキオンを鍛冶場から閉め出す。
あー、追い出されてしまった。
「えーっと、プロキオン?」
俺はプロキオンの方を見る。俺の視線に気付いたプロキオンが優雅にお辞儀をする。
「帝よ、もうしばらくお待ちください。あの者の腕は確かです。神域のゴーレムの復活は確実となるでしょう」
あ、はい。
いや、まぁ、俺は別に頼んでいなかったんだけどなぁ。
あ! そういえば、神域のゴーレムも真銀製だったよな。十二体もあったんだ。一体くらいは溶かしても良いんじゃあなかろうか。
……。
もう一度プロキオンを見る。それをやるとプロキオンに嘆かれそうだなぁ。
しかし、こうなるとミルファクの作業が終わるまで待たないと駄目か。うーん、急に色々と暇になったなぁ。炉だけでも最初に作って貰えていたら色々と暇つぶしが出来たんだけどなぁ。プロキオンが乱入してこなかったら、それくらいはやってくれたんじゃあないだろうか。
……。
まぁ、プロキオンのせいにしてもかわいそうか。最初から盾を優先するって言っていたワケだしな。
はぁ、仕方ない。
ミルファクの作業が終わるまで魚でも獲ってきて料理をしていようかな。魚醤もあるからね。まぁ、うん、そうだな。
戻ってきたプロキオンや新しく仲間になった? 蟲人のウェイや、成り行きでここにとどまっている天人族の蒼い竜もどきとか、みんなに魚料理を振る舞うのも悪くないな。
一緒に食事をすることで仲良くなれるかも知れないしな。
よし。
そうと決まれば魚を獲ってくるか。
「えーっと、プロキオンのこれからの予定は?」
「魔石の加工が終わるまで待ちます」
「了解です。それでは蟲人のウェイ、天人族と一緒に待っていて貰っても良いですか?」
「帝の言葉であれば従いますよ」
あ、ちょっと嫌そうだ。
仲良くするのは抵抗があるって感じなのかな。そりゃまぁ、敵対していたワケだし当然か。
まぁ、うん。
そちらはそちらで頑張ってくださいって感じで。
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