175 錬金炉
重くて持ち上げることが出来ない黒い盾を持て余しているとミルファクが一つ大きなため息を吐き出し、黒い盾を回収した。ま、まぁ、元々作り直す予定だったからこれで良いか。良いよな?
「改めて着いてくるさね」
俺は小さく頷き草紋の槍を持ってミルファクの後を着いていく。
「まーう」
俺の肩の上に乗った羽猫も一緒だ。この羽猫、何だか凄い懐いているな。まぁ、邪魔しないなら一緒でも良いか。
と、ん?
工房に入ろうとしたミルファクの足が止まっている。
「私が言うことじゃないのかもしれないのだがね、アレは無視しても良いのさね?」
ミルファクがにらみ合っている魔人族のプロキオン、蟲人のウェイ、天人族の方を見る。
「あー、えーっと無視して大丈夫だと思います」
放置だ、放置。
「分かったのさね」
ミルファクと一緒に煉瓦造りの工房の中に入る。そこには初めて入った時と同じように様々な武具が並んでいる。
「こっちさね」
飾られている武具を見ているとミルファクが呼びかけてきた。
「あ、えーっと、すいません、すぐに向かいます」
飾られている武具を横目に工房の奥に向かう。
……。
そして良く分からない金属製の扉を抜けた先にあったのは……巨大な窯だった。
えーっと、室内だよな。室内に窯を作ったのか? 窯からは長い筒が伸びている。これ、外から見た煙突に繋がっているのか? そうだ……よな?
「ここが私の鍛冶場さね」
窯の前には横長の作業机があり、その上に良く分からない道具がごちゃごちゃと並んでいる。壁には蟲人のウェイを吹き飛ばした巨大なハンマーが立て掛けてある。あれ? 何でハンマーが? これを一瞬で持ってきた? いや、違うか。俺が山に登っている間に、この鍛冶場に戻しただけだよな。俺は何でここから転移したみたいに思ったんだろうな。
「えーっと、それで……」
「まぁ、見ているが良いさね」
ミルファクが窯の横に置かれている大きな箱から四角い物体を取り出す。
「えーっと、それは……」
「まぁ、見ているが良いさね」
ミルファクが横長の作業机の上に四角い物体を置く。四角い物体? 金色に輝いて見ていると吸い込まれそうな塊だ。何だろう、これ?
ミルファクが金色の四角い物体が入っていた大きな箱から何かの粉を取り出す。白く濁った半透明な粉だ。
その粉を金色の四角い物体の上にばらまき、手をかざす。
ん?
ミルファクの手から魔力が流れている。魔力が金色の塊と繋がっている。
それに合わせて白く濁った透明な粉が光輝きゆっくりと姿を変えていく。そして光が消えた後には丸いガラス瓶が残されていた。
は?
へ?
「こうやって作っているのさね」
ガラス瓶が完成したな。
うん、完成した。
「えーっと、どうやって?」
「見たままさね」
魔力を使って素材を変換した?
「えーっと、その金色の四角い物体は何でしょうか?」
「これが鍛冶を行うための『炉』さね」
炉?
いやまぁ、何となく分かったけどさ。となると、だ。
「えーっと、そこにある窯は何のために?」
そうなんだよな。その炉とやらで作るのなら何で窯が必要なんだ? いや、窯で作れるものなんて陶器とかくらいだろうし……う、うーん。
「ほう。よく気付いたのさね。炉で作れるものはどちらかというと錬金なのさ。つまり、質がいまいちなのさね。だから、貴重な素材を使って作る時は手作りする必要があるのさね」
炉とやらで作ると質がいまいち? いや、でもさ、手作りって言ってもさ窯でどうやって手作りするんだよ。まぁいい、良くないけど、まぁいい。で、だ。炉、か。手作りと炉……うーん。
「えーっと、それ、炉で作るメリットありますか?」
「炉で作るのは魔力を使うくらいだから簡単で手早く、しかも均一化された質で作ることが出来るのさね。魔力を使った錬金さね」
うーん。つまり大量生産に向いているってこと?
魔力で物質変換?
発酵させたのもこれを使ったのか?
「えーっと、それ、似たようなのを見たことがあります」
何というか、勿体ぶってくれた割りにはたいしたことじゃあ無かったというか、何で隠したのか分からない秘密だったよな。
「なんだッ……て」
ミルファクが驚きの表情で固まっている。
「はい。しかも、その炉とやらを使わずに魔石だけで作ってましたよ」
そうなんだよな。あの森で出会ったノアという謎の少女が魔石だけで黒いブーツを作ってくれた。
「そ……んなことが可能とは、思えないのだが、ね……」
ミルファクはかなり動揺しているようだ。
うーん。
ミルファクも知らない技術なのか。
しかしまぁ、魔力を使った錬金か。これを使えば俺でも何か作れるんだろうか。
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