174 弱体化

「なるほど、そうさね。少し試して見ようと思うんだがね」

「えーっと、何を試すのでしょうか」

 ミルファクが俺の前まで歩き、目の前の地面に小さくなった黒い盾を突き刺す。


 ん?


「えーっと、作り直すのでは?」

「確かにそうさね。だが、その前に帝を試すのさね。完全に出来るようになっているか、さね」

 試す?


 あー、魔力を吸収する黒い盾を身につけたまま草紋の槍に魔力を纏わせろってコトか。それが完璧に出来るか確認するってワケだな。


 ……。


「いや、えーっと体が動かないのでもう少しだけ待って貰えますか?」

 そうなんだよなぁ。ただまぁ、さっき足が回復したから、腕の方ももう少しで回復すると思うんだけどなぁ。

「ぬあー、ぬあー」

 そんな俺の横では羽猫が鳴いている。

「それは何なのさね」

 そんな羽猫をミルファクが今気付いたかのように見つめている。


「あ、えーっと、ワイバーン?」

 俺の言葉を聞いたミルファクが大きなため息を吐き出す。

「このような姿のワイバーン種を見たことは無いさね」

 まぁ、俺もコイツがワイバーン種だとは思ってないさ。言ってみただけだよ。


 んで、だ。


 そろそろ手の感覚が戻りそうだ。ゆっくりと指を動かし手を広げる。握り込む。ぐーぱーぐーぱーと繰り返す。よし、大丈夫そうだ。


「それで何故、座り込んでいるのさね」

「えーっと、そこの天人族の優男に空から投げ落とされたからです。その衝撃でしばらく足が動きそうに無いです」

「コイツらは自分基準でものを考えるから仕方ないさね。それで無事だった帝の方が驚きだがね」

 ミルファクが呆れたような顔で魔人族のプロキオン、蟲人族のウェイ、天人族の三人組を見る。そうだよな。俺もそう思う。自分が大丈夫だから相手も大丈夫って思うのは駄目だよなぁ。ホント、コイツら、常識が無いんだよなぁ。


 足は……もう少し、か。


 これさ、俺、思わず両足に魔力を循環させたけどさ、片足でも良かったんじゃあないだろうか。そうだよな。腕の時にはさ、片方の手が使えるように残したんだからさ、足でだって出来たはずだ。これ、当分の間はさ、指一本とかそういう使い方が良いんじゃあないだろうか。うん、体が魔力に馴染むまではそれが良さそうだ。


 地面に突き刺さった黒い盾に寄りかかりヨロヨロと起き上がる。頑張って立とうとするが少しふらついてしまう。

「ぬあう」

 俺の足元近くをうろちょろしていた羽猫が驚きびくりと体を震わせる。おー、すまんすまん。


 片足をあげ、軽く地面を叩く。感覚は、まぁまぁ大丈夫って感じか。衝撃が少なかったからか、それとも魔力を循環させた時間が短かったからか、回復は意外と早かったな。


 さて、と。


 黒い盾と草紋の槍、両方に魔力を纏わせる、だったな。


 右手に草紋の槍を持ち、左手で地面に突き刺さった黒い盾を掴む。そして持ち上げる。


 ん?


 ぬ、抜けねぇ。俺の怪力でも抜けないとかどれだけ力一杯地面に突き刺しているんだよ。ばっかじゃねえの。


 ……。


 はぁ、頑張って引き抜こう。右手に持った草紋の槍を一度地面に突き刺して手放し、地面に突き刺さった黒い盾を両手で掴む。そして力を入れ、一気に引き抜く。


 あっさりと抜ける。すっぽ抜けそうな勢いで抜ける。お、っとっとと、危ない、危ない。


 あ、れ?


 って、もしかして……。


 黒い盾を引き抜こうとしたのはどっちの手だ? 左手だ。俺がそこの天人族の優男の竜形態と戦った時に魔力を循環させたのはどっちの手だった? 左腕だよな?


 これはもしかして、そうなのか?


 左手で右腕を掴み力を入れてみる。普段通りに力を入れたつもりなのに……弱い。見たままの、細腕らしい力しか入っていない。


 なるほど、な。


 感覚が戻っても、か。普段、半分の子とやらの怪力の元になっている魔力循環までは戻らないってコトか。まぁ、それも時間経過で治るだろうけどさ、これは不便と言えば不便だなぁ。これ、下手をしたら見た目通りの子どもの力しか発揮できないってコトだからな。


 黒い盾を左手で持とうとする。持ち上がらない。くっそ、重たい。重すぎる。元々の大きさからかなり小さくなったのに、それでも持ち上げられないとか、本来の俺はどれだけ非力なんだよ。いや、まぁ、小さい女の子の体なんだから当然と言えば当然なんだけどさ。今までが怪力だったからなぁ。


 まぁ、仕方ないか。


 さて、と。


 黒い盾は無理に持ち上げなくても良いだろう。


 問題は魔力が循環していない左手から魔力を操作することが出来るかどうかだな。


 ……。


 黒い盾に付与されている魔力を左手で操作する。


 ……。


 ……。


 よし、操作自体は問題ないな。右手に持った草紋の槍に魔力を循環させる。こちらも問題なし、と。


 黒い盾は元から魔力が付与されている盾だからな。こうやって操作しておかないと草紋の槍に纏わせた魔力が吸収され消されてしまう。これが必要だったんだよなぁ。


 よしよし、出来た、出来た。


 分かってしまえば簡単なコトよ。


「えーっと、これで良いですか?」

 ちょっとだけ得意気な顔でミルファクを見る。

「この短期間でものにするとは驚きさね」

 そうだろう、そうだろう。まぁ、蟲人のウェイとの命がけの戦いがあったからこそなんだけどな。


「分かったさね。帝を工房に案内するさね。着いてくるんだね」

 お、どうやら認めてくれたようだ。


 良かった、良かった。これでガラスを作っていたことや一瞬で発酵させた秘密が分かるワケだな!

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