173 謎生物

 動く方の手で羽子猫をお腹の上から動かす。


 ……。


 ふぅ。


 その動かした羽子猫がすぐにぴょんと飛び跳ね俺のお腹の上に戻る。

「ぬあー、ぬあー」

 そして鳴く。先ほどまでの鳴き声と違いかなり猫に近い感じになっている。んー、でも、惜しい。猫ぽいけど猫の鳴き声とは全然違う。


 羽が生えているし、別の生き物なんだろうなぁ。


 謎の生き物だなぁ。


 何故、ワイバーンの巣に、この羽猫の卵があったのか? いや、まぁ、蒼い竜が言っていただけだから本当にワイバーンの巣だったかどうかは分からないけどさ。となると他の卵からもこの羽猫が生まれるのか? 親は? うーむ、謎ばかりだ。


 本当に謎だ。


「ぬあ?」

 羽の生えた子猫が俺のお腹の上で首を傾げている。生まれたばかりの子猫ってこんなに動けただろうか。首を傾げるとか、生まれたばかりの割りに頭が良すぎる気もするしさ。


 ……。


 いや、もっと重要なことがあるだろう。


 何で卵から子猫が生まれているんだよ。猫って卵生じゃあないよな? 胎生だよな。おかしいよな。おかしいよな!


「ぬあ」

 だから、ぬあって何だよ! この猫ぽい何かは何なんだ。


「なう」

 惜しい! 『なう』かー、うん、猫ぽい鳴き声だ。鳴き声を猫に近づけているのは分かる、分かるぞー。


 って、本当にこの生き物は何なんだよ。


 羽の生えた子猫をお腹の上から動かし、上体を起こす。足は……もうしばらく動きそうにないな。体に魔力を循環させる効果は凄いけどさ、その反動がなぁ。これ、当分はさ、本当に奥の手だよな。


 ……。


「ぬあー、ぬあー」

 羽猫が前足で俺の体を何度も叩く。何のおねだりだよ。


「ぬあー」

 そして、そのままぴょんと飛び上がり俺の頭の上に乗る。いや、そこ邪魔だから。俺の頭の上の耳が羽猫の腹に押し潰されて、ちょっと気持ち悪い。くすぐったい感じだ。それにさ、耳を押さえ込まれると音が拾えなくなるから、その位置は止めて欲しいんだけどさ。

「えーっと、乗っかるにしても頭は止めてくれ」

「ぬあ」

 羽猫は俺の言葉を理解してくれたのか頭の上から肩の方に移動する。そこでぐでーっとぶら下がるように広がっている。


 ……。


 ホント、謎の生き物だな。生まれたばかりなのに随分と賢いようだしさ。


 いや、待てよ。


 本当に生まれたばかりなのか?


 こうは考えられないか?


 この羽猫、どうやったのか卵の中に入り込んで中身を食べていた、とか。あ、ありえそうだ。でも、あの卵は割れているように見えなかったけどなぁ。うーん。


 で、だ。


 魔人のプロキオンと蟲人のウェイ、蒼い竜の三人はいつまで会話を続けているのやら。俺が完全に無視されている状況なんだけどさ。俺、帝っていう敬われる存在のはずだよな? コイツらから敬われる立場なんだよな? これ、敬われている……かなぁ? まぁ、良く分かっていないから、帝って、こういうものなのかもしれないけどさ。にしても何を話しているんだ? ウェイが魔人族の里を襲ったコトへの苦情とかだろうか。それとも蟲人が天人族と手を組んでいたことの確認だろうか。


 まぁ、俺にはどうでも良いことだな。


「少し騒がしいさね」

 と、そこに工房に籠もっていたミルファクもやって来る。その手には黒い盾が握られている。お、直ったのか。


 ん?


 でも、少し形が違うな。サイズが小さくなっている。


 あー、そりゃあ、半分くらいまで削られていたからな。材料が足りなかったか。


「えーっと、盾、直ったんですね」

 この盾が無かったら蟲人のウェイには勝てなかったからな。まぁ、勝ったというか引き分けたというか、微妙なところだけどさ。

「うむ。大きさは我慢して欲しいさね」

「えーっと、それは仕方ないと思っています」

「む? 仕方ない……?」

 ミルファクがそう言うと盾を持ったまま工房に戻ろうとする。


「えーっと、えーっと、どうしました?」

「私としたことが妥協したものを作るなんて落ちたものさね。これは作り直すのさ」

 へ?


 は?


 あ?


 俺が仕方ないって言ったからか。いやいや、作り直してくれるのは良いけどさ、今戻るのは待って欲しい。


「あ、えーっと、ちょっと待ってください」

「ん? 私が気に入らないから作り直すのは決定さね。使い手のコトなんて知ったことじゃあないのさね」

「違います。えーっと、それはもう作り直して貰って良いです。そうじゃあなくてですね、これ、ワイバーン種の卵の殻だと思うんですが、それを持ってきたということで、どうです?」

「何がさね?」

「えーっと、鍛冶のことを教えてくれるという約束です」

「その約束をした覚えはないのだがね」

「えーっと、ガラス瓶を作ってくれた時に教えてくれると言ったはずです。ま、まぁ、こちらもワイバーン種は倒せていないんですけど、その卵ぽいものは持ち帰ってますし、あ、そうだ。竜の尻尾攻撃やブレスにも耐えましたよ」

「ここに竜が棲息しているはずが無いのだがね」

「あー、えーっと、そこに居る長髪のキザぽいヤツがそうです」

 ミルファクが翼の生えた優男の方を見る。

「なるほど、天人族さね」

「えーっと、はい」


 これで納得して貰えるだろうか?


 何だか駄目な気がするよなぁ。

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