165 おとり
倒した巨大な蜥蜴の上に座り込む。連戦はキツい。本当にキツい。
あー、後、魔力纏が万能じゃあなかったことが分かった。攻撃自体を防げても衝撃は防げない。皮の服という身につけるものに自身の魔力を纏わせているからか、衝撃がそのまま体に来るんだよなぁ。いくら固い鎧に守られていても、その衝撃に耐えて踏ん張るのは自分だ――生身の自分だ。衝撃がもろに来るし、自分の体重が軽いからか簡単に吹き飛ばされてしまう。自分の怪力を生かして衝撃を跳ね返すように力で対抗するのは有りかもしれない。
いや、待てよ。
無理に魔力を身に纏う必要はないのか?
あの魔人族の少女は魔力を弓に纏わせ、そこから魔力の線を延ばしていた。似たようなことは出来るはずだ。
そうだよ、そうすれば良かったんだ。石でも投げて、その石に魔力の線を伸ばして盾のようにすれば良いんじゃあないか。いや、でも、それだと盾があるとバレバレか。目に見えないくらい小さな粒で行うとか、事前に相手の攻撃を読んで、攻撃を受ける瞬間だけ魔力を纏わせた何かを投げて防ぐとか――うん、確かにそれは良いかもしれない。
ただまぁ、かなり練習が必要だろうから、今すぐというのは難しいだろうな。でも、出来るようになれば――色々な場面で有利に戦えるようになるはずだ。
しかし……ふぅ、疲れた。連戦に次ぐ連戦で疲れたよ。いつの間にか森は深く――深い場所で薄暗い闇の中、戦うことになっているし、それに、だ。
空を見上げる。
木々の隙間から見える空は暗く、いつの間にか夜の帳が降りているようだ。いくら夜目が利くといっても無理をするのは不味いか。
……よく考えたら蟲人のウェイと戦ってから、そのまま休憩せずに連戦だもんなぁ。いや、まぁ、うん、戦いの高揚感というか、ちょっとハイになっていたというか、落ち着いてきて、自分は何をやっているんだろうかって気分になってきたよ。
ふぅ。
一度、帰ろうか。
ウェイの虫の影響で魔獣が減っているかと思ったら普通に出てくるんだからなぁ。いや、それだけ奥の方まで来たということか。
ん?
そこで何かの気配が集まってきているのを感じる。
また魔獣? いや、違う。これは――この気配を隠そうとしている感じは、魔人族か。魔人族たちが巨大蜥蜴の死体を囲むように集まってきている。ただ、その数は多くない。四、五人というところか。ウェイに全員が捕まったワケじゃあなかったのか。上手く逃げ延びられた人たちも居たんだな。
「えーっと、里の方はもう大丈夫ですよ」
周囲の隠れている魔人族に話しかけてみる。
……。
だが、反応が返ってこない。
う、うーん。
あー、自分の姿が見えないのか、な。
巨大な蜥蜴の上から飛び降りる。
「えーっと、もう一度言いますね。里の方はもう大丈夫です。襲撃していた蟲人とは和解しました。今は里の方にプロキオンも居ますよ」
多分、大丈夫だよな? ウェイから詳しいことを問いただしていないから、少し不安は残るけど、うん、多分、大丈夫だ。まぁ、同じ魔人族のプロキオンも居るから不味いことにはならないだろう。
しばらく待っていると木々の間から一人の魔人族が現れた。あの魔人族の少女だ。
「叔父様が?」
最初に聞くのがそれか。まぁ、良いか。
「はい。えーっと、だから、今はもう、里の方は大丈夫です」
「良かった……」
まぁ、良かったのか。良かったことにしておこう。
「えーっと、大丈夫ですから他の人たちも出てきてください」
俺の言葉を聞いて隠れていた周囲の魔人族たちが姿を現す。
「む。相変わらず気付くのだな」
相変わらずって……いやぁ、だってさ、気配を隠そうとしているけど、その隠そうとしているのが分かる程度だからさ。バレバレじゃあないか。
「里が安全になったので私たちを呼びに来てくれたのだろうか」
魔人族が話しかけてくる。
「いや、それよりも囮になった者たちは無事なのか」
「里の状況はどうなのだ」
次々と話しかけてくる。あー、捕まっていた人たちは囮だったのか。って、まぁ、俺は掴まっている人たちを見ていないから本当に無事かどうかは分からないワケだけどさ。でも、まぁ、ウェイは無事だって言っていたから、多分無事だろう。
「えーっと、多分無事です」
「多分とはどういうことなのだ」
「状況は!」
……。
あー、もう面倒だ。
「里にプロキオンが居ますから、詳しいことはそちらで聞いてください」
「どういうことだ。私たちを呼びに来たのではないのか」
違います。
「えーっと、ワイバーン種を倒そうと思って来ただけです」
「む。そ、そうなのか」
そうなんです。まぁ、向こうからするとこの状況でワイバーン種を倒しに来る俺の存在が訳が分からないか。まぁ、俺自身、良く分からない行動だと思っているけどさ。
あ、そうだ。
「隠れていたってことは休める場所があるんですか?」
「あ、ああ。この先に、ああ、その方向だ。そちらに小さな洞窟がある」
なるほど。
「えーっと、ありがとうございます。今日はもう夜も遅いようなのでそちらで休ませて貰うことにします」
「あ、ああ」
「帝よ、と、ところでこの魔獣たちは……」
ああ、巨大な蜥蜴もタイラントタイガーの死骸もそのままだな。今度は死骸が残っているから前の燃えかすになったタイラントタイガーの時みたいに討伐したか疑われることもないだろう。
「えーっと、自分が倒しました」
「うそ!」
魔人族の少女が驚いている。まぁ、この子は無視して、と。
「えーっと、死骸が活用出来るなら里の方に持って帰って貰っても良いですか?」
「分かった。作業の報酬代わりに一部肉を貰うが良いか?」
「はい、どうぞ。持って帰れずにここで腐らせるよりは良いです。えーっと、では、自分はその洞窟とやらで休ませて貰いますね」
いやはや、タイミングが良いというか、これで魔獣の死骸も有効活用出来るな。
さて、と。その洞窟とやらで休ませて貰うか。今日は忙しかったからなぁ。明日はもう少し隠れて森を進むとしよう。明日中にはワイバーン種をサクサクと倒して里の方に帰ろう。まったく、ハイになっていたとはいえ、我ながら無茶苦茶やってるよなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます