166 力強さ

――[サモンヴァイン]――

――[サモンヴァイン]――

――[サモンヴァイン]――


 草を生やす。


――[スパーク]――


 草に火が灯る。


 干し魚を焼いて魚醤を垂らし囓る。塩と魚で作った液体で塩魚を食べる。あー、うん、海があって良かった。山に作られた洞窟で海の幸を食べるなんて凄い贅沢だなぁ。


 贅沢だなぁ。いや、美味しいのは本当だよ。美味しいんだ。でもさ、魚だけ食べてもなぁ。


――[サモンヴァイン]――


 草を生やし、囓る。違う、そうじゃない。確かに他の味が欲しいけど、それは草じゃあない。雑草を囓ってもさぁ、満足出来るかよ。俺が食べたいのは白いご飯なんだよ。


 醤油のかかった魚の干物をおかずに白飯をかっ込む。俺がやりたいのは……これだッ!


 ……。


 だが、ここに白飯なんてあるはずが無く……はぁ。


 もうどれくらいまともなご飯を食べてないんだろうな。それなりにまともなご飯が食べられるようになってさ、そうすると思い出すワケだ。忘れていたはずの元の世界でのご飯の味をさ。はぁ、今なら分かるよ。どれだけ美味しいものが揃っていたか。それをどれだけ簡単に食べることが出来たか。


 帰りたいな。


 遊び足りないテレビゲーム、発売日を待っていたゲーム、続きが気になる漫画。それだけじゃあない。色々なことが、色々なものが、そのどれもがこの世界には……無い。


 この姿で戻ったら、知り合いはビックリするだろうな。だってさ、獣の耳にふさふさ尻尾の付いた女の子になってるんだぜ。驚くどころじゃあないだろうな。


 ……。


 アレだな。理想はこっちの世界と元の世界を自由に行き来できるのが良いな。うん、それが理想だ。


 妄想が捗るなぁ。


 ……。


 寝るか。


 この洞窟に引き籠もっていた魔人族たちは全員が里に戻ったようだし、俺は一人寂しく寝よう。


 考えてどうにかなるなら考え続けるが、そうじゃあない。なら、俺は出来ることをやるだけだ。一個一個確実に積み重ねていく。とても大事なことだ。


 まぁ、まずはワイバーン種の討伐だな。こだわる必要はないのかもしれないが、だけどさ、魔力纏を教えてくれたのはミルファクだ。そういった知識を持っているミルファクがワイバーン種を倒せば鍛冶の秘密を教えてくれるって言うんだからな、これは知る必要があるだろう。ガラスを加工する技術、ガラスの素材があったこと、色々と知りたいことがある。これは重要なことのような気がする。


 せっかく魔石を手に入れて持って帰ってきてくれたプロキオンには悪いけどさ、これは優先したい。それに、だ。ウェイとの戦いでタイミング良く魔力纏を習得したからな。この力があればワイバーン種の討伐は可能だろう。出来る気がする。


 まぁ、勝てる見込みがなければ戦いに行こうとは思わないよな、うん。


 だから、これは必要なことなんだ。


 ……。


 考えすぎたな。寝よう。もう今日は眠ろう。疲れた。本当に疲れたよ。


 深く、ゆっくりと眠りに落ちていく。


 ……。


 ……。


 ……。


 陽射し。


 明り。


 外から差し込む光に目が覚める。


 どうやらこの洞窟には陽が差し込むようだ。


 ふぁあああ。


 大きく欠伸をして体を伸ばす。ぱきぽきっとな――そして起き上がる。ゆっくりと眠れたようだ。体調は悪くない。


 外に出てみる。そして気付く。夜の間は観察する気力がなくて分からなかったが、どうやら森を抜けたようだ。


 ここからは山、か。森を抜けているんだからな、通りで陽が差し込むワケだ。


 ワイバーン種が生息しているのは上の方だよな。山頂付近だよな。


 ……。


 山を登るのか。


 あー、うん。考えてなかったなぁ。森を抜けたら普通に戦えるような気分でいたよ。


 山側は崖のような岩肌が続いている。木々はまばらにしか生えていない。


 森と山とで綺麗に別れているな。森は……もっと深い場所がありそうだ。まぁ、今そちらに用はない。


 用があるのは山だ。山の頂上だ。


 頂上への道を探すか?


 崖沿いにぐるーっと歩き続ければ道は見つかりそうだが、うーん。


 よしッ!


 この崖を登ろう。直線で進んだ方が早いはずだ。


 岩を掴み、足をかける。うん、大丈夫そうだ。力だけはあるからな。しっかりと掴んで上がることが出来そうだ。


 草紋の槍を背中に結びつけ、素手で崖を登っていく。岩を削るような勢いで、怪力で山を制覇する。


 化け物染みたほどの怪力だというのは便利だ。半分の子だという、この体は凄いな。まぁ、その代償に本来なら魔法が使えないらしいけどさ。


 ……。


 魔力が体を循環しているから魔法が使えない? もしかして、俺の場合は循環させていてもあふれるほどの魔力があるから、問題なく魔法が使える?


 魔力が多い?


 帝だから?


 良く分からないが、そういう素質だから?


 魔力?


 魔力が体を循環?


 あふれるほど?


 もしかして、魔法の発動に使っている分の魔力も体に循環させたら凄いことになるんじゃあないか? 今ですら持て余すほどの怪力だ。それがさらに?


 ……。


 いや、今試すのは止そう。こんな崖を登っている状況でやることじゃあない。


 でも、これはもしかするともしかするかもしれないな。

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