164 違和感

 こちらを囲むように動いていた虎たちが一斉に飛びかかってくる。だが、遅い。自分の小さな体を利用し、飛びかかってきた虎たちの下へと滑り込む。そしてそのまま緑の魔力を纏い直した草紋の槍で突き上げる。草紋の槍があっさりと虎の下腹部を貫く。草紋の槍で貫いた虎ごと振り回し、飛びかかってきていた周囲の虎たちを吹き飛ばす。


 この体の怪力具合、舐めるなよッ!


 突き刺さった虎を蹴り飛ばし、次の獲物へと向かう。後、六体ッ!


 突く。突く。突く。突く。


 草紋の槍が面白いように虎たちの体を貫く。まるで薄い紙に針を刺すような簡単さだ。


 と、て、も、簡単だッ!


 突く。

 突く。


 周囲を囲まれているがお構いなしだ。


 突く、突く、突く。


 と、そこで虎の爪によって皮の服を引き裂かれてしまう。皮一枚、体に傷は付いていない――だが、少し油断していたのかもしれない。いや、集団で襲われているんだ、どうしたって回避出来ない攻撃が出てくるのは当然だ。被害を抑えることを考えるべきだ。たくッ、この皮の服の下は布を巻いただけで下着らしい下着も着けていないってのにさ。


 ……。


 元現代人としては下着らしい下着を装着していないのはどうなんだろうか。ホント、今更だけどさ。でも、この体、獣人だからか、ちょっとだけ毛深くてさ、服を着たりするとゴワゴワして少し不快なんだよなぁ。うーん、ミルファクに頼んでみるかな。そう、防御力の高い下着をッ!


 って、防御力?


 服。


 下着。


 もしかしてッ!


 武器や防具、服という分け方はあくまでも人がそう認識しているだけだ。服だって武器として使えないワケじゃあないよな。そうだよ。そうだよな!


 何で、魔力を纏わせるのが武器だけだと思ったんだ。


 出来るはずだ。そうだよ、盾の魔力だって操作できたんだ。


 皮の服に魔力を纏わせる。


 草紋の槍で突く。貫く。何度も俺の草紋の槍に貫かれたからか、虎の一匹が動きを止める。他の虎たちの動きが鈍くなっている。もう少しで倒せるのかもしれない。だが、油断しない。獣は手負いが一番厄介だって言うからな。


 虎たちは、俺を囲んでいるからか、同士討ちを避けて炎の渦を使ってこない。今がチャンスだ。


 虎の引っ掻き。連携も何も無い、本能のままのような一撃――不用心だぜッ!


 その一撃をあえて受ける。皮の服に纏わせた魔力が虎の爪を弾く。


 ヨシッ!


 そのまま魔力を纏わせた草紋の槍で虎を貫く。


 こちらを囲んでいた虎たちが一斉に飛びかかってくる。今さっき攻撃を弾いたのを見ていないようだ。所詮、魔獣――そこまでの知恵はないようだ。魔力を纏わせた皮の服が虎の爪や牙を弾く。虎たちは驚き動きが止まっている。


――《二段突き》――


 素早く草紋の槍を引き抜き――


――《二段突き》――


 草紋の槍が虎たちを貫いた。


 全ての虎を倒しきる。


 ……。


 八匹……それほど苦労しなかったな。防具というか、身につけているものにも魔力を纏わせることに気付いたから、相手の噛みつきや引っ掻きでも怪我することがなかったし、まぁ、攻撃を受ければ受けるだけ自身の魔力を消費するワケだけどさ。


 魔力纏。


 攻撃にも防御にも、両方に使えるとかさ、万能過ぎるだろう。俺自身が使える魔法は草を生み出すとか、火花を飛ばす程度の微妙な魔法しかなかったけどさ、この力は凄いよな。そりゃあ、魔人族が恐ろしく強いワケだよ。


 これ、多分だけどさ、相手も魔力を纏っていないと防げないんじゃあないだろうか。魔力を纏っているか、魔法の装備品とか、そういう類いでなければ防げないような気がする。魔力を纏わせている部分がそのまま貫通している感じだったからなぁ。


 さて、と。


 魔石くらいは回収しておくか。この虎たちは小さいけど、魔石がないなんてことは無いよな。


 ナイフに魔力を纏わせ虎を切り裂いて魔石を取り出す。うん、切れ味の良かったナイフがさらにサクサクだ。まぁ、切れ味がよくても、どうしても血まみれになってしまうのは難点か。水の魔法が欲しいなぁ。


 肉は……どうしような。本当は毛皮も肉も持って帰りたいけどさ、今は先を急いでいるしなぁ。あのノアとかいう謎の少女みたいに魔法でさ、その場でパパッと加工が出来ればなぁ。そこまでは望まなくてもプロキオンみたいに空間に保存できれば……。


 はぁ。


 そういえばレベルはどうだろうか。タイラントタイガーはかなりの高レベルだろうから、それを数体だ。多分、数レベルくらいは上がっているんじゃあないだろうか。


 タブレットを確認する。


 ……。


 ……。

 ……。


 は?


 レベルが『17』のままだ。え? 嘘だろう。一レベルも上がっていない? おかしいだろう。


 何故だ!


 まさか、本当にレベルキャップがあるのか? これ以上、レベルが上がらない?


 ……いや、諦めるな。何か条件があるのかもしれない。そうだよな。レベルが上がる法則が分かっているワケじゃあないんだ。


 それに、だ。レベルが上がってもBPが貰えるくらいで強くなるワケでもないしな。うん、そう考えたら気にしなくてもいいな。


 って、アレ?


 魔力操作と魔力変換が『3』になっている。は? 何でだ? ついこないだまで『0』だったよな? 魔力纏が出来るようになったから上昇した? でも、なんで一気に『3』なんだ?


 ……。


 もしかして、『3』相当の技術力がないと魔力纏は使えない? 魔力纏を使えるから、辻褄を合わせるように『3』になった?


 ありえる。ありえるぞ。


 ……。


 って、そうなると、ますますレベルって必要無い感じじゃあないか。うん、そうだよな。良く分からないが、BPが増えている時もあるし、今の俺はBPに頼っていない。必要としない。まぁ、何を覚えるんだろうって興味はあるけどさ。この力に頼り切るのは何か危険が気がするからな。


 魔力纏なんかは、このスキル一覧に表示されていない。これは俺が、自分の力で習得した技だ。こういったものの方が頼りになる。


 ゲームならまだしも現実の世界でスキルって凄く胡散臭いからな。自分の力で手に入れたもの以外は信じすぎないようにしよう。


 ん?


 そんなことを考えている時だった。俺は背後に気配を感じた。


 すぐに振り返る。


 そこに居たのは巨大な蜥蜴だった。


 蜥蜴だッ!


 俺を一飲みできるほど巨大な蜥蜴だ! こんな巨大な蜥蜴が近寄ってきていたのに気付かないとか、考えごとに夢中になりすぎたか。それともコイツに何か気配を消す能力でもあるのか?


 まぁいいさ。


 次はコイツだ。


 どんどん倒してやるッ!

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