162 自由だ

 森を抜けた先にミルファクの鍛冶工房が見えてくる。


 そして、その工房の前では何故かミルファクが腕を組んで仁王立ちしていた。


「えーっと、どうしました?」

 お腹が空いたから待ち構えていたとかだろうか。

「いや、少し騒がしいようだったから何かあったのかと思っただけさね」

 ミルファクが組んでいた腕をほどき肩を竦める。

「あー、それなら……」

「ひっひっひ、騒がせて済まなかったねぇ」

 ウェイが前に出て腕を折り曲げる。謝罪のポーズなのだろうか。それを見たミルファクが、まず俺を見て、改めてウェイを見る。そして、一瞬の間を置き、驚いた顔でプロキオンを見る。


「なかなか愉快な顔ぶれになってるようさね」

「いや、えーっと、いや、そういえばミルファクは虫が苦手だったと思うけど、大丈夫ですか?」

 ミルファクは何が? という顔をしている。そして、ああ、という感じでポンと手を叩く。

「姿が似ていると言っても蟲人と虫は違うから大丈夫さね」

 そういうものなのか。まぁ、それなら良かった。

「で、何の用さね。食事かい? 食事さね」

 と、そうだな。ここに来た用事を済ませないとな。

「あ、えーっと、それでだけど、これを見て欲しい。何とかなるだろうか」

 ミルファクに小盾のようになった漆黒の大盾を見せる。


「おっ、おっ、おっ……」

 それを見たミルファクが口を大きく開けパクパクと動かしている。声が出ない感じだ。

「えーっと、この盾がなければ戦うことすら出来なかった。出来れば直して使い続けたい」

 そうなんだよな。ウェイに勝てたのは……まぁ、勝ったかどうかは怪しいところだけどさ、とにかく、勝てたのはこの大盾のおかげだからな。最初は使い勝手の悪い盾だと思ったけどさ。今ではかなり気に入っているんだよ。

「ふ、ふぅ、何があったのさね。盾は守るものだから、いつかこうなるのはしかたないさね。しかし、短時間でここまでとなると……」

 ミルファクが大きく深呼吸をしてから聞いてくる。


「ひっひっひ、我が答えるよ。我と帝の戦いによって壊れたのさ。壊したのは我よ」

 ウェイがそう言った瞬間だった。


 え?


 次の瞬間にはウェイが消えていた。


 いや違う。


 ウェイが居た場所に巨大なハンマーを持ったミルファクが立っていた。そして、一瞬遅れて後方にあった森の木々が倒れていく。


 何かが森の中を突っ込んで木々を倒している? って、え?


「えーっと、ミルファク、今、何を……」

「ふぅ、これ少しは気持ちが落ち着いたさね」

 巨大なハンマーによりかかったミルファクがとても爽やかな顔で微笑んでいた。ま、まさか、そのハンマーでウェイを吹き飛ばしたのか? 動きが見えなかったぞ。というか、だ。何処からどうやってハンマーを取り出した?


「それよりも、この魔石をゴーレム用に加工して欲しいのだが、ね」

 驚いている俺の横を抜け、プロキオンが魔石を取り出し、そんなことを言っている。いやいや、お前、そんなことを言っている場合か?


「その魔石はどうしたのさね」

「ええ。加工を頼みますよ」

 プロキオンが押しつけるように魔石を突き出している。何というか会話が噛み合ってないよなぁ。

「はぁ、仕方ないさね」

 ミルファクがプロキオンから魔石を受け取り、大きなため息を吐き出している。ああ、とても気持ちは分かるよ。


「ひっひっひ、なかなか堪えたねぇ。魔力を回収していなかったら危なかったよ」

 そして、森からは無傷のウェイが現れる。いやいや、何で無傷なんだよ。

「手加減したとはいえ、無傷なのはさすが蟲人さね」

「ひっひっひ、褒めて貰って光栄だね」

 何だろうな、うん、何だろうなぁ! この人たち、何だろうなぁ!


「その大盾を貸しな。すぐには無理だが直しとくさね」

「ひっひっひ、それならこれもお願いしたいね」

 ウェイが黒い刃を取り出す。あー、そういえばプロキオンによって真っ二つになっていたか。

「ゴーレム用の魔石を優先でお願いしますよ」


 ミルファクが大きなため息を吐き出す。あー、うん。とても気持ちは分かるよ。コイツら、自由だよな。自由すぎるよな。


「分かったよ。分かったさね」

 ミルファクは大きなため息を吐き出しながら魔石と大盾、黒い刃を持ち工房に消える。


 ……。


 と、とりあえず、これで頼みたいことは終わったし、森の奥に向かうか。大盾はなくなったけど、まぁ、大丈夫だろう。


 今の俺なら魔力を纏わせる力が使える。まぁ、本当は少し休憩して魔力を回復したいところだけど、今は、この使える感覚をものにしたいからな。


「えーっと、では自分はワイバーン種を倒してきます。二人はどうしますか?」

 プロキオンとウェイがお互いに顔を見合わせる。そして最初に口を開いたのはプロキオンだった。

「ええ。私はここで待ちますよ。魔石が気になりますからね」

「ひっひっひ、そうだね。我もそうさせてもらうよ」

 二人はここで待つか。


 ……。


 一緒に来そうな雰囲気があっただけに意外だ。いや、もしかすると気が変わったのか?


 まぁ、良いさ。


 サクッと行って、サクッと片付けてこよう。

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