159 横やり
「ぐぅおおおお、何故、何故、刺さって……ありえぬ」
貫いた。
貫けた。
だが、貫いた場所が悪い。無理矢理突きを放ったからか、槍はヤツの腹部に刺さっている。ローブの下がどうなっているか分からないが、致命傷になっていないのは間違いない。
その蟻頭が干からびたような腕を伸ばし、草紋の槍を掴む。無理矢理引き抜くつもりか!
だが、させないよ。力には自信があるんだよッ!
草紋の槍を捻り、力を入れる。
「ぐ、ががが、この体を貫くなんて何をした、何をしたんだい!」
力が拮抗している。いやいや、俺の今の体って力だけしか取り柄がないんだぞ。それなのに押し切れないとか自信を無くすぜ。何なんだよ、コイツはよぉ!
でも、だ。
「何をって? 槍に魔力を纏わせたのさ!」
どやぁ。でも、ドヤ顔をしちゃうぜ。
出来たからな。出来るんじゃあないかって手応えはあった。で、実際に出来ちゃったんだからなぁ。そりゃあ、有頂天で得意気にもなろうってものさ。
「魔力を纏わせただけで貫けるほど我々、蟲人の体は……もしや、魔力の質か!」
蟻頭は草紋の槍に貫かれたまま、そんなことを言っている。いや、あのさ、随分と余裕だな。生命力も虫並みなのかよ。こっちはかなりギリギリで戦っているのに、洒落にならないぜ。
火の攻撃魔法を使い、辺り一面を埋め尽くすような虫を召喚する魔法が使えて、盾をあっさりと切り裂くような魔法の武器を持ち、一瞬で間合いを詰めてくるようなスピード、武器を弾く恐ろしく堅い外皮、こちらが得意な力の部分だけでやっと対等――って、何、この化け物。
んで、虫並みの生命力?
ホント、酷いスペックだな。
だけどッ!
勝ったのは自分だ。
「この質……まさか、まさか、本当に……」
そこで蟻頭の言葉が止まる。
……。
「ええ、そうですよ」
現れた気配。
その存在によって蟻頭の言葉が止まっている。
現れたのは――魔人族のプロキオンだった。
「ええ、このお方が帝ですよ。少々気付くのが遅かったようです、ね」
突如現れたプロキオンが指を持ち上げる。そして、そのまま指と指をこすり合わせるように弾く。鳴り響く音。
!
草紋の槍に貫かれたままの蟻頭が動く。こちらの目で追えないほどの速度で動き、いつの間にか黒い刃を構え――次の瞬間にはその黒い刃が何かによって切断されていた。
「くっひっひっひ、さすがは空断よのぉ」
「ええ、まさか、その状態で躱されるとは思わなかったです、ねぇ」
蟻頭とプロキオンがにらみ合っている。いやいや、何だよ、この俺が置いてけぼりになっている状況はさー。この蟻頭もさ、体に槍を生やしてモズのはやにえみたいな状況なのに、余裕過ぎないか?
プロキオンが再度指を鳴らすように動く。
「待て待て待て。えーっと、プロキオン、待て」
指を重ね合わせたところでプロキオンの動きが止まる。
「帝よ、どうしたのです」
そして、不思議そうな顔でこちらを見ている。どうしたじゃあないだろうが。
突然現れたと思ったらさー。美味しいところだけ持っていこうって酷くないか?
「えーっと、プロキオン、ここに自分を放置した理由と、今更やって来た理由は?」
「特殊な魔石の情報を得て、そちらの取得を優先していたのです」
特殊な魔石ねぇ。
「ええ、帝の力になる魔石です、ね」
俺の力になる?
「ひっひっひ、そういうことかい」
蟻頭が笑っている。そして、次の瞬間には短くなった黒い刃で自分の体を横薙ぎに真っ二つにしていた。
へ?
え?
自分で体を?
ぐちゃり。
真っ二つになった体から草紋の槍が滑り落ちる。
へ?
え?
蟻頭の別れた上半身と下半身が地面に落ちる。
「ひっひっひ、刺さったままでは格好がつかないからねぇ」
そして、その別れた体が逆再生でもするかのようにくっつき、元の姿に戻る。
え?
蟻頭がポンポンと土埃を落とすようにローブを叩いている。
は?
え?
「その生命力、流石です、ね」
いやいや、さすがってレベルじゃあないだろ。真っ二つになった体がくっついて元に戻るとか、洒落にならないだろ。洒落になっていないだろ!
おいおい、ホントに何だよ、コイツ。ゲームならラスト付近に出てくるような、それこそ魔王四天王とか、そういうレベルじゃないか。ふざけんなよ。どんな生命力だよ!
プロキオンが帰ってきたから、これで二対一だけど、勝てるのか? うーん、プロキオンの本気次第か?
さあ、どう……ん?
「ひっひっひ」
蟻頭が俺の前に立ち、そのまま跪く。
へ?
「帝よ、今までの無礼をお許しください」
そして頭を下げる。
へ?
何だ、この状況?
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