143 ガラス
さて、と。
ガンガン作るつもりなのだが、その前に必要なものがある。
……。
入れ物だな。
この作成した塩を入れる容器だ。このままだと持ち運びが出来ないからなぁ。
……。
よし、頼んでみるか。
思い立ったら即行動だ。森に戻り、工房へ向かう。
……。
ん?
急ぎ工房に戻ると眼帯の女性が待ち構えていた。何で、待ち構えている? 俺が戻ってくるのを知っていたのか?
「早かったようだがね……ん?」
口を開いた眼帯の女性が、その言葉の後に首を傾げる。
「何も持っていないようだが、どうしたのさね」
何も持っていないのは当然だ。塩を作る方法が分かったから、すぐに引き返してきたワケだしな。
「あ、えーっと、お願いがあって戻ってきました」
眼帯の女性がこちらを見る。その目は、何処かこちらを値踏みしているかのようだ。値踏み、か。今更だな。
「何も持っていないようにしか見えないがね、今回は何が出せるのさね」
「えーっと、欲しいのは容器です。瓶です。密閉できて長期保存できるような容器です。作れますか?」
俺の言葉を聞いた眼帯の女性がニヤリと笑う。これは作れるということだろう。
「えーっと、作って貰えるなら……そうですね、今よりも一段上の料理をお見せしますよ」
得意気に胸を張ってみる。空手形だと思われるかな?
「なるほど。それが先に必要になるのさね」
眼帯の女性はニヤリと笑ったまま、工房の中へと消える。これは作ってくれるってこと、かな。まぁ、交換で出せるものが無いからな。だが、塩があれば、この眼帯の女性を満足させられる料理が作れるはずだ。
そして、しばらくして眼帯の女性は大きな瓶を持って戻ってきた。
「これでどうさね」
……。
梅酒でも浸けるような大きさの透明な瓶だ。
あー、うん。そういえばサイズは言ってなかったなぁ。大きければとりあえず何とでもなるだろう的な感じなのかなー。
……。
「あ、えーっと、すいません。欲しかったのは手のひらサイズの小瓶です」
こちらの言葉を聞いた眼帯の女性が、大きく口を開け、そして何か誤魔化すように頬を掻く。
「あー、そうさね」
眼帯の女性が大瓶を持ったまま工房の方へと戻ろうとする。
「あ、えーっと、ちょっと待ってください。それはそれで欲しいです」
「そうかい。それならこれは渡しておくかね」
眼帯の女性から大瓶を受け取る。そして眼帯の女性は俺に大瓶を渡すとそのまま工房に消えた。
おー、大きなガラス瓶をゲットだー。
って、ん?
透明な……これ、ガラスだよな? ガラス容器だよな?
ちょっと待て、ちょっと待て、これ、どうやって作ったんだ?
あの眼帯の女性が工房に入ってから数十分くらいしか経ってないよな? そんな短時間でガラス瓶って作れるのか? 作れるものなのか?
俺は顔を上げ、工房の上部分にある煙突を見る。煙突から煙は出ていない。
火を使っていない?
火を使わずにガラスを加工? いや、そもそもガラスを作る技術が何処に?
何だ、これ?
おかしい、よな?
そんなことを考えていると眼帯の女性が小さな小瓶を持って戻ってきた。時間にすると数分だろうか。
小瓶を受け取る。大瓶と同じガラスで作られた小さな小瓶だ。その小瓶には、ねじのように回すタイプの蓋が付いていた。
いやいやいや、こんな精緻で緻密な加工を、こんな短時間でどうやってやったんだよ。
確かにこういう小瓶が欲しかったけどさ。おかしくないか。おかしいよな。
「えーっと、この小瓶、どうやって作ったんですか?」
眼帯の女性が肩を竦める。教える気は無いというポーズだ。
「えーっと、煙突からは煙が出ていないということは火を使っていないってことですよね。どうやって作ったんですか?」
「そこに気付くとは意外としっかりしているさね。鍛冶の基本を知っているとは予想外だね」
鍛冶の基本? 火を使うのは普通のことだよな? それを使った形跡が無いからおかしいって話なんだが、気にしたら負けなのかなぁ。俺が望むものを作ってくれているのだから過程は気にしないって態度の方が良いのかなぁ。
うーん。
でも、気になるよな。
「えーっと、ガラスを加工する技術も、ガラスの素材がここにあったことも……驚きです。どういうことですか?」
眼帯の女性が肩を竦める。
話す気は無いってことか。
「あー、そうさね。お前さんが、ワイバーン種を倒すほどの強さを示すなら教えても良いさね」
……。
これは、アレだ。
教える気がないってことだよな。
俺にワイバーンを倒すのは無理だって、そう言っているってことだよな。
なるほどなー。
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