135 交換だ
まぁ、それはそれとして、まずは、だ。
「えーっと、ここに小さいけど魔石があります」
俺は米粒のような大きさの緑色の魔石を取り出す。すると、こちらが驚くほどの勢いで魔人族の女性たちが食いついてきた。
「それ!」
「それだ!」
「何で持ってるの!?」
「ほ、欲しい」
もぎ取られそうな勢いだ。これならかなり良いものと交換してくれそうだな。
で、だ。
「えーっと、ちなみにこの緑色の魔石は何に使えるのでしょうか?」
これは聞いておかないとな。交換するのは良い。魚を獲ることが出来る自分なら、後でいくらでも手に入るだろう。この緑色の魔石はそこまでレアじゃあない気がするしな。
が。
が、だ。
有用な効果なら交換しないというのも手だ。
さてさて、どうだろうな。
「使い道?」
「知らないのか」
魔人族の女性たちは腕を組んで悩んでいる。情報を教えても良いかどうか迷っている感じか?
「それを使うと肌がすべすべになるの」
「肌が綺麗になるのだ」
何だが普通に教えてくれた。さっき、悩んでいたのは何でだ? 答えるのが恥ずかしかったのか?
いやぁ、でも、肌が綺麗になる効果、か。凄い微妙だなぁ。これは普通に交換した方が良さそうだ。それに、だ。効果は分かったが使い方が分からないしな。魔石をこのまま飲み込むのか、すり潰して薬にでもするのか、それとも魔法的な力で何かをするのか……俺には分からない。
使えないものなら交換して有用に使うべきだ。
「えーっと、はい。そういう効果なんですね。で、えーっと、交換に出したいのですが、欲しいのは水です。それと籠やフライパン、鉄の鍋なんかがあると嬉しいです。後は……香辛料とかナイフとか。どうでしょう?」
まぁ、この魔石一個で欲しいもの全て交換出来るとは思っていない。そのどれかと交換出来れば良いって感じかな。と、今回、魚自体の交換は無しだ。魚を食べるためにというなら交換するつもりだったけどさ、ただ腹をかっさばいて魔石があるかどうか確認するだけ、魚の身は捨てるって言われたら、それを知って交換するのはなぁ。だから、魚は交換しない。これは自分が活用しよう。それでまぁ、魔石が出てくれば、そちらを交換するって方向だな。そうだよ、普通にそうすれば良いじゃん。
さっきも思ったけど、それが両方の得になって良い感じだ。後は隙を見て魚の美味さを教え込むッ!
って、ん?
何で魚を捌いて中に魔石があるかどうか確認せずに魚のまま交換という流れになっていたのか少し考えた。
ああ、なるほど。
泳げないから魚をあまり獲ることが出来ない。魚を食べる習慣はない。つまり魚自体に価値はない。でも、魔石には価値がある。全ての魚に魔石があるワケじゃあない。獲るのが大変なものだから出来るだけ価値をつけたい。だから、捌く前に、魔石があるかどうかの前に交換する。つまり、そういう感じか。
俺だと魚の身の方に価値があるからな。捌いてしまって問題無い。
「水なら北東に少し行けば川がある。そこでいくらでも」
「そうだ」
「水は交換に出す必要が無い」
魔人族の女性たちは馬鹿正直に教えてくれる。
「えーっと、はい、ありがとうございます」
そこ、教えてくれるんだ。その情報だけでも魔石と交換する価値はあったと思うんだけどなぁ。というか、俺に水の場所を教えずに交換に出してきても良かったんだよな。
ちょっとだけ俺の中での魔人族への見方が変わった。
「木の籠ならある」
「フライパン? とやらや鍋というものは無いな」
「刃物と交換なら、魔石が数個は欲しい」
「加工物を欲しているのなら職人に頼んで作って貰うと良いだろう」
色々と教えてくれる。
「えーっと、その職人という人は何処に居るのですか?」
「人ではない。我らと同じだ」
「あそこに見える家で作業をしている」
加工職人か。今日は遅いから会いに行くのはまた明日だな。にしても、人ではない、か。職『人』って言葉を使っているのに人じゃないっておかしい話だよな。何だかとてもちぐはぐな感じがする。
で、だ。
今回の交換だが。
魔石一個で刃物との交換は難しい、か。そうなると籠と交換で決まりだな。にしても、木の籠か。
「えーっと、木の籠が欲しいです。ちなみにそれは水中でも使えますか?」
「問題無い」
問題無いのか。
じゃあ、それで。
そして、魔人族の女性が木籠を持ってくる。それは小さな籠だった。大きさは三十×三十センチくらいか。あまり大きくない。簡単な蓋は付いているが、その作りは粗い。俺でも、そこら辺の木の枝を拾ってきて頑張れば作れそうな木籠だ。正直、というか、かなり微妙だ。魔人族って加工が苦手な種族なのかなぁ。これなら籠じゃあなくて、皮袋とかと交換を頼んだ方が良かったのか。
う、うーん。
ま、まぁ、最初はこんなものか。
とりあえず、もう夜になりそうだし、今日は寝よう。寝ることにしよう。川に体を洗いに行くのは後回しだ。
あー、でも飲み水くらいは欲しいか。
と思ったら、魔人族の女性が魔法で水を出してくれた。これくらいはサービスなのだそうだ。魔法、便利すぎる。
というワケでッ!
雑な木籠をゲット!
……。
一応、これも鑑定した方が良いのか。
……。
ま、いいか。
明日は、明日も魚捕りに、あー、川の方に行くのも忘れずに、それと加工職人、か。
明日は忙しくなりそうだ。
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