136 加工師

 俺のために用意された……かどうかは分からないが、少し大きな木の上に葉っぱをのせただけの家もどきに帰る。


 さて、と。


 そこで俺はとりあえず草を生み出す。


――[サモンヴァイン]――


 次々と草を生み出す。そして、その草の上に魚を並べる。さすがに地面の上に置くのは、ね。魚に土が付いたら大変じゃあないか。


 そのまま草紋の槍で魚の腹を割き、内臓を取り出す。お、魔石発見。捌いたうちの一匹が魔石持ちだった。これはラッキーだな。


 そして、その魚を天井にぶら下げる。さて、と。ぶら下げた魚の真下には俺が生み出した草と魚の内臓。


――[スパーク]――


 その草に火が灯る。これで魚をいぶして燻製だ。まぁ、上手く出来るかは分からないが、ものは試しだな。本当は香りの付いた木とかの方が良いのだろうけどさ。まぁ、最初だからな。


 では寝るか。


 火と煙はそのままにして眠る。まぁ、開放的な家もどきだ。一酸化炭素中毒になって永遠に目覚めることはありませんでした、なんてことはないだろう。


 眠る。


 そして、朝。


 火はまだくすぶっていた。


 ……。


 火が……残っている?


 うーん、意外だ。魔法で生み出した草が多かったからかな。それとも眠ってからまだあまり時間が経っていないのだろうか。

 タブレットを見てみる。


 時刻は朝の四時を過ぎたくらいだった。早朝だな。かなりの早朝だ。でも、火が消えていてもおかしくないくらいの時間が経っているよな? 魔法で生み出した草だからか? うーん、謎だ。


 まぁ、とにかく、これはこのままにしていよう。火が消えていないのなら、そのまま燻し続けるだけだ。


――[サモンヴァイン]――


 一応、燃料代わりに草を足しておく。と、火の勢いが増し、新たに生み出した草は一気に燃えだした。


 ……。


 草はすぐに燃え尽きようとしている。


 ……何でだ?


 あ、もしかして魚の内臓か。あれが原因で火の強さを抑えることが出来たのか? 魚は水の魔獣だろうし、火に対する耐性があったとか、ああ、その可能性……あるかもしれないな。


 と、さあて、どうしようか。


 二度寝は……無いな。


 かといって時刻が早すぎて加工職人の家に向かうのはどうかと思うし、となれば、水か。近くにあるという川を確認に行ってみよう。


 で、その後に加工職人の家。それが終わったら魚捕りって感じか。うん、今日も忙しくなりそうだ。


 川は、確か北東だったよな。


 川を目指し北東の森に入る。そして、しばらく歩くとすぐに川は見つかった。あまり大きな川じゃない。背の低い俺の膝元くらいまでの深さしかないような川に見える。見える、が、良く分からない。


 そう、良く分からないのだ。その理由は簡単だ。底が濁っている。木の葉っぱや泥などの汚れが沈殿しているのが見える。あまり綺麗な川じゃあない。まぁ、綺麗そうな上の方を掬えば飲めないこともないだろう。だが、少しでも深く手を突っ込んでしまったら、かき回してしまったら……水は汚れて飲めなくなりそうだ。


 う、うーん。せっかく教えて貰ったけど、これは微妙だなぁ。魔人族の方々は魔法で水が生み出せるから天然の水にはあまり興味がないのかもしれない。まぁ、でもさ、それでも俺には貴重な水だ。有効活用しよう。毎回毎回、魔人族の人たちに頼んで水を生み出して貰うのも悪いからな。俺も魔法で生み出せたら、それが一番良かったんだけどなぁ。


 水が汚れと混ざらないように慎重に手を差し入れ、掬う。そして飲む。


 ……。


 普通に水だ。ちょっと硬い感じもするが、普通の水だな。飲める、飲める。何度か水を掬って飲んでいると、その振動で水は汚れと混じり飲めなくなってしまった。


 ……。


 ……。


 さあ、気を取り直して加工職人の家に向かうか。うん、そうしよう。


 魔人族の里に戻り、自分の家もどきで火に草を足して燻製作りを続ける。その後、加工職人の家に向かう。


 ……。


 だが、加工職人は不在だった。


 プライバシーなんてない、外から丸見えの開放感しかない家もどきだ。少しのぞき込んだだけで不在かどうかは分かる。


 分かるけどさ。で、加工職人さんはこんな早朝から何処に行ったんだ?


 顔も知らないし、探しようがないな。


 うーむ。


 まぁ、仕方ないか。


 とりあえず他の魔人族の人に聞いてみるか。


「えーっと、すいません」

 弓を持って歩いていた魔人族の女性に話しかけてみる。

「何用か?」

 普通に返事をしてくれる。敵意みたいなものが薄れているのを感じる。おー、良い傾向なのかな。

「加工職人に会いたいのですが、何処に居るか分かりますか?」

「なるほど。アケ……、加工師か。ならば工房の方だろう」

「え? えーっと、工房ですか? でも、ここに見える、この家で作業をしているって聞いたんですが……」

 昨日、そう聞いたよな。

「ああ、探しているのは職人の方か」

 ん?


 話が噛み合ってない?


「で、どうしたいのだ?」

「あ、えーっと、加工職人に会わせて欲しいです」

「んー、まぁ、良いだろう。許可も出ているからな、案内しよう」

 何故か、この人が案内してくれるようだ。


 魔人族の人って、なんていうか、親切なんだけど、なんていうんだろうなぁ。アレだよなぁ。


「えーっと、はい、お願いします」


 魔人族の女性の案内で北の森の中に入っていく。工房は里の中にあるワケじゃあないのか。どういうことだ? 何処か秘密の場所で作業を行っているのか。


 そして、しばらく北の森を歩き、そこに辿り着く。


 それは魔人族の里で見た家もどきが馬鹿らしくなるような建物だった。もっと酷い? 違う、逆だ。


 煉瓦造りの煙突が付いた、まさに工房という建物だった。原始時代から近代にやって来たような……。


「えーっと、あの建物は?」

「工房だが」

 いや、そうなんだろうけどさ。


 これだけの建物が作れる技術があって、なんで里の方では木を組み合わせて葉っぱを乗せただけの家に住んでいるんだ?


 何だ、このちぐはぐな感じは。

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